読書マラソン二十選! 168号


2020年開催第16回全国読書マラソン・コメント大賞のナイスランナー賞受賞作品よりizumi編集部が選りすぐりの二十点を集めました。
 


  • 『読書間奏文』
    藤崎彩織/文藝春秋購入はこちら >
      花束。それが私の憧れの人がピアノを弾き始めた理由。友人が発表会で花束を受け取る姿に憧れ、彼女はピアニストへの道を進み始めたらしい。ふと本を閉じ考える。私のピアノを弾く理由。たくさんあった。好きな人のために弾きたい日も、何も考えられないほどに落ち込んだ私を慰めるために弾いたこともあった。ただ一番の理由は私の音が好きだと言ってくれた人のためだった。目を閉じ鍵盤に指を落とす。私の世界が紡がれる数分間、この世界を好きと言う人に向けて私は弾きたいのだ。この本は私にそのことを思い出させる。私は今日も小さな世界に音を落とした。

    (立命館大学/りぎたそ)


  • 『決定版 オーケストラ楽器別人間学』
    茂木大輔/中公文庫購入はこちら >
     楽器とその奏者の性格の関係を、NHK交響楽団で活躍する著者が科学的(?)に論じた書。オーケストラあるあるなんて言う生易しいものではない。性格はもちろん、生まれ育ちから、宴会の様子、文化祭の出店まで、徹底的に考察されている。  楽器に触れたことがある人だけでなく、オーケストラについてよく知らない人でも、笑えること間違いなし。吹き出す危険があるので、電車の中などでは読まない方が良い。

    (東京農工大学/ぺんぎん)


  • 『日本語と日本人の心』
    大江健三郎・河合隼雄・谷川俊太郎
    /岩波現代文庫購入はこちら >
     言葉がしばしば人を論理の枠組みに抑えつけている。親と話す時、私は親の発言の論理的な穴を指摘しまくっていたから、近頃親は私の言葉を聞こうとしなくなった。こうなれば、論理も歯が立たない。かわいくない子だ、と気づいた。論理を身に纏って、私が正しいのだ、と威張ってばかりでは、あんまり良いこともない。私は言葉の使用を、その人の心の内に触れるためのもの、と改めることにした。そのためには、肉声から離れた文字としての言葉について信用すべきではない。その人がその言葉を話した、という事だけを信じようと思った。

    (北海道大学/@ki)

 

  • 『少女は夜を綴らない』
    逸木 裕/角川文庫購入はこちら >
     日記は書く人の生き様の一部だと思う。好きなことや文句を書いて心を落ち着かせる。書き方はどうであれ、その人を表すものだ。本作の理子も加害恐怖を落ち着かせるために殺人日記、「夜の日記」を書いている。友人の底抜けの優しさにさえ傷ついてしまう理子にとって悠人との殺人計画は救いの手だったのではないだろうか。小学生のように安直ではなく、まして高校生・大学生のように綿密で金のかかる計画ではない理子たちの殺しの計画。それは中学生ならではの不安定な時期を象徴しているようであった。私自身の中の殺人疑念がひっくり返る一冊であった。

    (立命館大学/蒼天)


  • 『キッチン』
    よしもとばなな/新潮文庫購入はこちら >
     とても温かく、そして柔らかい本だった。まるで、生きているだけで、それだけで十分だと言われているような気がした。
     この本の中で生きている人たちの環境は、決して良いとは言えない。しかし、その人たちの一つ一つの言葉や考え方がとても柔らかく、かつ丁寧であり、読んでいて自分の心がふんわりと柔らかく包まれたような心地になる。
     私自身、最近同じような感覚を持った。人が亡くなることは、とても悲しいことだ。だがこの本を読んで、少し励ましてもらった。大切な存在を失った今だからこそこの本が心に沁みたのだろう。

    (長崎純心大学/てち)


  • 『こうふく みどりの』
    西加奈子/小学館文庫購入はこちら >
     濃厚な緑。
     彼女の作品は、文字だけでこちらの五感を研ぎ澄ませる。いつでも生々しく、恐ろしく、そして強く、それでいて温かい。懐かしい雰囲気の漂う下町の情景や、心へ自然と着地する関西弁がそう思わせてくれる。だが、本作はそれだけではない。一癖も二癖もある女系家族の話だが、本編の間に様々なエピソードが渦巻き、最終的に点と点が繋がる。独特なリズム感のある展開に振り回される。
     誰もが悲しみに酔わない彼女たちを見てこう思う。このまま生活を続けるのだろう、と。

    (長崎純心大学/こいちゃん)


  • 『臨床真理』
    柚月裕子/角川文庫購入はこちら >
     皆さんは特殊能力が欲しいと思ったことはありますか? 例えば、手から氷を出すことができたり、透明人間になることができたりなどいろんな能力があると思います。私はアニメを見て特殊能力を持つ妄想をしたことがよくあります。そんな私は、人の感情が色でわかる能力を持つ青年が登場するこの小説が気になって購入しました。本を読むことが苦手なのに、読んでいくにつれ、先の展開がとても気になって、購入したその日に読み終わりました。能力を持つ少年が能力について悩みながら成長する姿は必見 です。

    (東京薬科大学/背にアスファルト)


  • 『対岸の彼女』
    角田光代/文春文庫購入はこちら >
     友達って何だろう。幼い頃はいつの間にかできていた友達という存在が、年を重ねるにつれてどこか複雑で難しいものに変わってしまう。本作は、歩む人生の違いで生まれるすれ違いや、人間関係の難しさ、切なさを描いている。相手を想う気持ちがすれ違いによって相手を傷つけてしまう、というシーンでは心が締め付けられるような思いがした。人と築いた思い出は、時に逃げ出したくなるような暗い空洞になる。しかし、ある時には未来への暖かな灯にもなる。人間関係が希薄になっている今こそ、人々に「対岸の誰か」を思って読んでほしい。

    (茨城大学/名は梨)


  • 『鴨川ホルモー』
    万城目学/角川文庫購入はこちら >
     大学生活とは一体なんなんだろう。この本を読み始めた時は何についての本なのか一切わからなかった。それもそのはず「ホルモー」なんて聞いたことがないから。しかし、読み終わったあと人々は言うだろう「ああ、なんて人生は素晴らしいものなのか!」と。この本をどのように解釈するのかは人それぞれだろう。ただ、主人公が己の持てる力すべてを発揮して突き進んでいくのである。私たちはそれをただ応援することしかできない。彼のこれからの人生に幸あれ!

    (西南学院大学/モナミ)


  • 『かがみの孤城 上・下』
    辻村深月/ポプラ文庫購入はこちら >
     鏡を抜けるとそこは……。よくありそうな話に見せかけて全くそうじゃない。一人一人経験してきたことも、抱えている悩みも違う。その分、自分にはたくさんの道がある。自分がまだ出会ったこともない、想像もしていなかったような自分の道がきっとたくさんある。自分の道がこれしかない、と思い込まずに、新しい人と関わって、誰かと話をして、違う道もあるんじゃない?と気がつける、誰かに気づかせてあげられる人を目指せたらいいな、と思う。

    (東京農業大学/ぴっぴな)

    ※「辻村深月」さんの「辻」はしんにょうの点がふたつです。

  • 『ノルウェイの森 上・下』
    村上春樹/講談社文庫購入はこちら >
     直子が結局キズキの下に行ってしまったように、世の中にはどう動いても抗えないような運命が確実にあるように感じる。でもそれで悲観するのは間違いで、運命には「運」という良い方向もあるのだから、寧ろ楽観的に考え、人生なるようになる精神でいるくらいが丁度良いのかもしれない。でもそこで一つ気をつけなければならないことは、決して運命に投げやりにならず「努力」を惜しまないことだ。その点直子はキズキの死から何年も生を奮闘し、主人公も直子に対してベストを尽くしたと言い切った。そこがこの小説の尊い部分であると感じた。

    (早稲田大学/うらうら)


  • 『ゴリオ爺さん』
    バルザック〈中村佳子=訳〉/光文社古典新訳文庫購入はこちら >
     地方の貧しい貴族の嫡男で、パリに大学生としてやってきたラスティニャックの姿に、田舎から東京の大学に進学した我が身を重ねながら読み進めた。彼の心の中には、社交界でのし上がりたいという野心、田舎の家族の温かな愛情への愛惜、そして未熟で未だ汚れを知らず、汚れまいとする良心とが渦巻いている。彼を時に助け、時に惑わす「大人」たちによって、彼は現実を生き抜く汚さを纏っていくのだが、やはり自らの高潔な良心にどこか後ろ髪を引かれ、汚くなりきれない。そんな姿に、成長しゆく若者のリアルを見たように感じた。

    (東京大学/木鶏)

 

  • 『木曜日にはココアを』
    青山美智子/宝島社文庫購入はこちら >
     世界は広いようで狭い。日常で見られるなんてことない出来事が、意外にも新たな出会いに結びつく。ただの偶然が、人の人生をも大きく変え得る力を有する。その偶然が循環の輪を描くとき、その世界は大きく変貌する。世界は広いようで狭く、その中で、小さな一歩を踏み出すことで起こる運命は人生を変えてしまう。「熱いホットココア」とともに、その偶然な幸福を味わっていただきたいと切に願う。

    (東京都立大学/P)


  • 『スローカーブを、もう一球』
    山際淳司/角川文庫購入はこちら >
     この本を読んで、中学時代に所属していた卓球部の試合の記憶が蘇った。緊張、不安、そして自信——様々な感情が渦巻くが、私自身が何か大きく変わったわけではない。試合という特異な空間。しかしそこにいるのは日常生活を送る普通の私達とさして変わらない。それは、どんなスポーツでも同じなのではないだろうか。本書は、様々なスポーツに臨む選手達を、特殊なアスリートとしてではなく、等身大の人間として捉え、その心情を描いている。ありふれた人としての一面に触れることで、新鮮な思いで選手達の試合を観ることができるだろう。

    (山梨大学/リコシェ号)


  • 『あめつちのうた』
    朝倉宏景/講談社購入はこちら >
    「甲子園のグラウンドキーパーの話」だけど、すべての人に読んでみてもらいたいと思える一冊。生活していて自信がなかったりうまくいかなかったり色々あるけど、私たちはそれぞれなにかの「プロ」を目指せばいいんだ、周りにいる凄い人ではなくて自分自身で誇りを持てるなにかを極めることが大切なんだ、と気づける。

    (法政大学/ひまわり)


  • 『ぼくの短歌ノート』
    穂村弘/講談社文庫購入はこちら >
     大学の短歌サークルに入った。詠むだけでなく他人の歌も評するということに驚いた。でもこの本を読んで、詠むことと評することはつながっているとわかった。歌人の眼はレンズになり、ガラスになり、潤み、乾き、生きている。その眼を通り抜けてゆく与謝野晶子の歌、塚本邦雄の歌、おばあちゃんの歌、会社員の歌、高校生の歌……世界はまだ、豊かかもしれないと思った。最後に掲載歌より一首。
    間違って降りてしまった駅だから改札できみが待ってる気がする(鈴木美紀子)

    (京都大学/いろは)


  • 『夜』
    エリ・ヴィーゼル〈村上光彦=訳〉/みすず書房購入はこちら >
     自分の命よりも大切なものは家族。このように言う人も多いであろう。わたしもそう答えていた。だが本当にそうであろうか。アウシュヴィッツのような絶滅収容所で私は家族を助けるであろうか。この本の主人公は葛藤していた。老いぼれた父といることは、死を意味する。瀕死の父のために一日一杯の薄いスープをあげることができるだろうか?話したら殺されるかもしれない状況で、父の最後の呼びかけに答えられるだろうか?

    (東京学芸大学/おくきり)


  • 『短歌タイムカプセル』
    東直子・佐藤弓生・千葉聡/書肆侃侃房購入はこちら >
     短歌は、古い言葉遣いで感情や風景を平坦に書いているものだと思っていた。乱暴な言葉でいえば、とても「退屈な」ものだとも。
    『短歌タイムカプセル』は今年の2月に買った本。蓋を開けるとぶっ飛んだ文章がこれでもかと詰め込まれた宝箱だった。
    おにぎりをソフトクリームで飲み込んで可能性とはあなたのことだ
     雪舟えまさんの一首。初めて見た時に、自分の中にあった短歌の世界がひっくり返った。「ああ、こんなに自由なんだ」と。大勢の人が三十一文字の日本語を美しく、面白く、鮮やかに紡いでいる。短歌ってすごいよ。みんな。

    (岡山大学/光)


  • 『あなたの中の異常心理』
    岡田尊司/幻冬舎新書購入はこちら >
     自分は完璧主義の部分があり、頑張りすぎることがある。それで苦しくなって、ダメになってしまう。上手くいかないときは、完璧主義が空回りして、余計に自分を追い詰めてしまい、苦しい。しかし、この本を読んで、完璧主義を少し捨ててみようと思えた。0か100かで考えるのではなくて、50ぐらいでもいいかと考えるのは大事だし、実際、不完全であることのほうが多い。だからこそ、まあいいか、と思うようにしていきたい。完璧主義は本当に両刃の剣である。それで自分自身を傷つけすぎないように、気を付けていきたい。

    (広島修道大学/T.O)


  • 『ネガティブ・ケイパビリティ
    答えの出ない事態に耐える力』

    帚木蓬生/朝日選書購入はこちら >
     困難な問題にぶつかった時、それを早急に解決する能力を私達は教育されてきました。しかし、生きていると、理解できない、解決のしようがない問題に出会います。そのような問題を無理に解決しようとしても、真の解決には至らず、むしろそれは無責任な態度であると言えます。本書の題名であるネガティブ・ケイパビリティとは、問題を自分自身の問題として受けとり、答えの出ない不安の中で宙ぶらりんの事態に耐えぬく能力です。ネガティブ・ケイパビリティは、答えが出ない事態のなかで生きる私達が身につけるべき能力だと感じました。

    (立命館大学/けんけん)

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