リレーエッセイ
千羽 孝幸(読者スタッフ・愛媛大学教育学部4回生)

P r o f i l e

千羽 孝幸(ちば・たかゆき)
愛媛大学教育学部4回生。昨年度委員の河本さんとのご縁で、いずみ委員として先日から携わっております。私生活では古本屋巡りなど、本には飽かない毎日を過ごしています。好きな作家はカミュ、小林秀雄、中島敦。

 村上春樹の随想「自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)」に、牡蠣フライ理論というものがあり、読んだ時自分は、はあ、なるほどと納得した覚えがあります。簡単にいえば、自己紹介に悩んだならば、牡蠣フライについて書く。すると、牡蠣フライについてどう思っているかの自分がそこに現れる。それを自己紹介にすればよい、というものです。自己紹介をエッセイで書くというのは、まさしくこの牡蠣フライ理論に近いなあと思いつつ、この理論を借用して、少し自分を紹介したいと思います。では、何について書くか? それはもちろん、本についてでしょう!
 私は真面目に、本はそこにあるだけで不思議な力を発していると思っています。説明することが難しいですが、挙げて言うなら、普段生活する中で、人に出会う感覚と非常に近い。一日中家にいる場合は別ですが、外に出れば、私たちは知らず多くの人と出会っています。街中で全く知らない誰かとすれ違う、コンビニの店員とやり取りする、または近所の人と出会ってひとこと挨拶する。そんな些細なことを普通は取り上げて意識しないけれども、私はその意識されないところに、何か人間の営みみたいなものがあるように思っています。
 今の時代は電子書籍が流行っているようですが、私は逆行してしまっていて、紙の本は増える一方です。八畳の一室も、本棚によって気づけば五畳くらいの生活スペースに。床が抜けないかどうかを心配し続けているアパート生活ですが、それでも紙で買うのは、そこに人と出会う感覚に近いものを感じているからです。周りにある本にふと目を移したとき、そこには誰かに出会ったような気がしてしまう。そうでなくても、そこに静かに自分の成長を見守ってくれている誰かがいるような気がする。だからこそ、本棚には手を伸ばさずにいられない。そして、本を読む。この生活が、僕に欠けそうな人間性を保障してくれていると思っています。
 しかしながら、改めて書いてみると、……すこし狂気じみたなにかを感じなくもないのが不思議です。この書きぶりだと、自分の家に知らない誰かがぎっちり詰まっているなんて感じてしまってもおかしくないような……そこは僕の文章力が足りないということにしていただけたらと思います。締まらない最後ですが、自己紹介に代えさせてもらおうと思います。どうぞよろしくお願いします!
 

次回執筆のご指名:内田 充俊さん

2020年からさまざま企画に参加し大活躍、昨年読んだ本は365冊という内田さん。リモートでお会いする内田さんの印象は「好青年」ですが、普段の内田さんがとても気になります。次号で、ぜひ自己紹介をお願いします。(編集部)

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