著者からのメッセージ 「法律の考え方」を人生の武器に
山崎聡一郎

 「法律」は小難しい言葉で書かれていて、私たちの人生とは関係ないもの。もしかしたら、そんなことを感じながら今までの人生を送ってきたかも知れません。あるいは、法律は私たちの自由を縛り付けてくる窮屈なもので、できるだけ私たちの生活からは遠ざけておきたい、というネガティブな印象を抱いているかも知れません。
 このような法律に対する理解は、すべて現代の社会を作り上げてきた大人たちの、法律に対する不十分な理解や、逆に法律を高尚なものとして扱い過ぎた難解な講釈のために築き上げられてきたものです。例えば理不尽な校則の押し付け、「ルールを守れ」等と言いながら自分はルールを守らない大人、道徳によって法律を否定しようとする教育、「人権は大事」と繰り返すのに何故人権が大事なのかを掘り下げない講話などなど、法律に対する苦手意識を植え付ける原因となる問題は枚挙に暇がありません。「目には目を歯には歯を」「喧嘩両成敗」等の法律に関する格言も、その実際に意図されている教訓が全く理解されず、表面的な意味でしか理解していない大人も多くいます。法律を正しく理解し、私たちが今後の人生を歩んでいく糧とするためには、これまでの人生で積み上げられてきた法律に対する苦手意識を緩和し、私たちの人生で役に立つ武器となるように学び直さなければいけません。
 法律は先人たちの知恵の結晶であり、人類の経験が凝縮されたものです。そして法律は先人から渡され、私たちが活用し、次世代に受け継いでいく、バトンのようなものでもあります。そんな法律に書かれているのは、私たちの生活を安全で快適なものにするためのルールであり、私たちの「当たり前」を守るための仕組みそのものなのです。
 そして、法律が「難解」なのは、私たちの社会が持つ複雑さの中で、きちんとあらゆる立場にいる人々を平等に、公平に守ろうとしているからです。法律を学ぶことは、その価値観と思考回路を学ぶことであり、法律の条文を丸暗記することではありません。もしもあなたが法律アレルギーを感じている原因が「法律は丸暗記するもの」というイメージなのであれば、きっと法律の価値観と思考回路を学ぶ挑戦は、元々法律に対していたネガティブなイメージなど忘れ去ってしまうほど、興味深くてワクワクする体験になるはずです。
 そして、法律を通じて学ぶ価値観や思考回路を「リーガルマインド」と呼びますが、このリーガルマインドは私たちが今後、社会人として様々な人々と交流し、コラボレーションし、新たな価値を創造する上でとても役に立ちます。リーガルマインドは単に法律を扱う上で必要な考え方であるだけでなく、自分とは異なる言語や肌の色、信仰や趣味といった様々な違いを抱える相手と対等に交流し、その違いを乗り越えながら協働する上で、技術面でも精神面でも力の源になる考え方でもあります。さらに法律は、「私たちには無限の自由があり、どんな行動を取るかを全て自分自身で選択できる」という前提のもとに作られており、だからと言って無制限の人権侵害や、権利同士の行き過ぎた衡突が起きないように、ガイドラインを引く役割があります。この観点から言えば法律を学ぶことは、私たちの「自分の人生を選択する力」を鍛えることにも繋がっていると、私は考えています。
 もしもあなたが法学部で学んでいるなら、大学における法律の授業は単に法知識を暗記するものではなく、このようなコミュニケーション能力の土台と、自己実現を達成する人生の選択力を培うものであるという認識を持って欲しいと思います。
 そして、このリーガルマインドが有用であるのは、当然法学部の諸君だけではありません。自分は一生、法律とは無縁の生活を送るという確信のあるあなたにとっても、リーガルマインドは大きな力になります。「法律を勉強する気はないけど、そんなに役立つなら多少は勉強してみようかな」ともしも思って頂けたなら、ぜひ小著『こども六法の使い方』は楽しんで読んでいただけると思います。
 『こども六法の使い方』では、ここまでに挙げた法律に対する誤ったイメージや思い込みを克服し、大学で学ぶような法律の考え方の中でも基礎の基礎になるようなテーマをサラッと解説しています。法律の価値観や考え方をどうやって私たちの人生に役立てるのか、法律を子どもに教える上でどんなことに気をつけるのか。ぜひ読んでみて下さい。
 法律は人生のガイドライン。その法律を知ることで、あなたの人生が無限の自由に向かって羽ばたいていくこと。そして、自由によって他者を傷つけるのではなく、自由な他者とともに社会をより良く変えていけるようになると信じています。
 

山崎 聡一郎さんの本

 
P r o f i l e

山崎 聡一郎(やまさき・そういちろう)

1993年、東京都生まれ。教育研究者、ミュージカル俳優、写真家。合同会社Art&Arts社長。慶應義塾大学SFC研究所所員。慶應義塾大学総合政策学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。修士(社会学)。学部時代に制作した『こども六法』を2019年に弘文堂より刊行。本書の取り組みが評価され、第54回新風賞受賞、第12回若者力大賞ユースリーダー賞受賞。その後、「知識を授けることでこどもを救う」という理念に共感したさまざまな出版社から支援を受け、「悩んだ子どもの選択肢を増やす」べく、多様な書籍を刊行。日本初の法教育学習塾「こども六法スクール」を運営するほか、法と教育学会正会員、日本学生法教育連合会正会員、NHK「いじめをノックアウト」番組委員などを務め、研究と実践の両面からいじめ問題に取り組んでいる。ミュージカル俳優としての顔も持ち、劇団四季「ノートルダムの鐘」、S&D Project「ひみつの箱には、」等に出演。板橋区演奏家協会理事。『こども六法』および、最新刊『こども六法の使い方』ほか著著多数。


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