『海をあげる』
上間 陽子 著
筑摩書房
本体1,760円(税込)
『報道現場』
望月 衣塑子 著
角川新書
本体990円(税込)
僕は、この本はいい本だと思う。理由はふたつある。まず、直近で起きた社会的インパクトの大きいニュースが記者目線で追えることだ。そして、個別に問題を取り上げるだけではなく、日本社会の構造的問題という大きな視点に接続しようと試みていることだ。だから、この本は広く大学生に読まれて欲しい。
ひとつ取り上げるとすれば、入管スリランカ人女性死亡事件。11月10日づけの新聞報道では、入管の幹部らが殺人容疑で刑事告訴されたことが伝えられた。重要なのは、単に入管で悲惨な事件が起きたことだけではない。どうして事件を引き起こしてしまうような仕組みが存在しているのか。そこまで突き詰めて調べて、人々に伝えること。そのことを望月さんは強く意識しておられると感じた。
日本は確実に移民社会へと変わっていく過程にある。急激な人口減少を前にして、移民を受け入れることは避けられないだろう。現に在留外国人の数は年々増えているのが事実だ。しかし、公式には、日本政府は移民政策を実施していない。そのような状況で、今回の事件が起きれば、排外的なイメージがついてしまいかねない。それは私たちひとりひとりにとって大きな不利益だろう。
だからこそ、メディアが、報道によって社会に対して問題の所在を示し、人々の声を世論として集約することが必要だ。公権力を抑制し、あるべき方向へ社会を動かす力を作ることがメディアの仕事のはずだ。
このようにメディアは、民主主義の根幹を支える重要な役割を担っている。真っ当な報道なくしては、民主主義のための議論は、成り立たない。裏がえすと私達ひとりひとりが「あーでもない、こーでもない」と議論をするための前提に日々の報道がある。
望月さんのような記者は貴重な存在だ。しかし、記者が批判的なのは、海外では当然のことだ。望月さんがこのような形で目立つことが示唆していることは何なのか、この本を読んで考えてみて欲しい。
*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。