卒業生のひとりごと
15.明治・大正・昭和が舞台の現代小説


 明治・大正・昭和。これらの時代に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。「昭和は結構最近のような感じがする」「明治はすごく昔というイメージ」「大正はとても短くて印象があまりない」等々、人それぞれかと思います。意外と最近のような、結構昔のような。そんな明治・大正・昭和の頃の日本を舞台にした小説を、今回はご紹介したいと思います。あえてこれらの時代に書かれたものではなく、平成・令和に書かれたものを選びました。現代から見た明治・大正・昭和の世界を、楽しんでみませんか。

 

明治:『アイスクリン強し』

 文明開化の音がする明治。洋装の人々や袴を翻す女学生が登場し、日本の空気に西洋の香りが混ざりはじめた時代です。
 そんな明治の頃を舞台にした小説『アイスクリン強し』(畠中恵/講談社文庫)は、アイスクリンやワッフルス、ビスキットにチヨコレイトなど西洋菓子の甘い香りがふんわりと漂ってくる物語。開店したばかりの西洋菓子屋・風琴屋の店主と「若様組」と呼ばれる元幕臣の警官たち、そして少しおてんばな女学生が繰り広げるドタバタ騒動が面白く、当時の空気感に触れながらスピード感のあるストーリーを楽しむことができます。
 明治23年が舞台の『アイスクリン強し』に登場する風琴屋の店主や「若様組」の面々は、所謂当時の「現代っ子(近代っ子?)」であり、若者である彼らは江戸の頃の世の中を肌感覚では知りません。そんな彼らであっても、時代の変化についてこのように語ります。

「江戸の頃は、万事に物事はゆったりとしていたはずだ。それが御維新と同時に時が別のものとなった気がしてならぬわ。にわかに速く流れだしたという気がしないか?」
「これじゃあ、町の御老人達は大変だわな。古老の知恵を貸すと言ったって、そもそも話が噛み合わねえ。若いもんは聞きゃしないだろう」

 このような「時の流れが速くなった」という感覚は、現代にも同じようにあるのではないでしょうか。世界はどんどん変化していきます。人力車よりも馬車よりも新幹線よりも、きっと速いスピードで。これから先、江戸が明治になったような変化は、おそらくたくさん起こるのでしょう。そして最初はあたふたしつつも、そのうち何でもないことのように、順応していくのでしょう。はじめて食べたときには驚いたはずの、アイスクリンの冷たさに、いつしか慣れてしまったみたいに。

 

大正:『シトロン坂を登ったら』

 15年間というとても短い時代であった大正。華やかで優美な「大正ロマン」文化には、うっとりさせられます。
 そんな大正の頃を舞台にした小説『シトロン坂を登ったら』(白鷺あおい/創元推理文庫)は、横浜の女学校を舞台にした物語。ところがその女学校は普通の女学校ではなく、なんと魔女学校なのです。「大正ロマン×女学生×魔法×妖怪(?)」といった、楽しい要素てんこ盛りのファンタジー小説で、読むとお腹がいっぱいになります。
 世界観はファンタジーですが、あの不思議な空気感を纏っていた大正の世であれば、もしかしたら人間以外の存在だって「ふつう」にいたのではないか……と思えてきます。特に袴姿の女学生が箒で優雅に空を飛んでいる様子を想像すると、とてもわくわくしますね。わたしも袴姿で空を飛んでみたいものです。とはいえわたしには箒に乗るスキルがないので、せめていつか袴姿で飛行機に乗ってみたいなと思います。

 

昭和:『昭和少女探偵團』

 第二次世界大戦の前後で何もかもががらりと変化した昭和。色々なことが起こりすぎて、一言で言い表すことができません。昭和の前半と後半では、それこそ別の世界のようになっていたことでしょう。

 そんな昭和の頃を舞台にした小説『昭和少女探偵團』(彩藤アザミ/新潮文庫)は、昭和6年という時代を生きる女学生たちが事件を解決していくミステリ作品です。

 少女文化が輝かしく花開いていた昭和初期の空気感が素敵な作品で、近代日本の少女文化に目が無いわたしは終始ときめきながら読みました。ちなみに近代日本の少女文化が気になる方には、『女學生手帖 大正・昭和 乙女らいふ』(内田静枝・弥生美術館/河出書房新社)や『「少女の友」創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション』(実業之日本社)などを読んでみてください。当時の少女たちが愛していた美しくて可愛らしくて、そして儚い文化の一端に触れることができます。

 
  • 畠中恵
    『アイスクリン強し』
    講談社文庫 定価607円(税込)購入はこちら >
  • 白鷺あおい
    『シトロン坂を登ったら』
    創元推理文庫 定価792円(税込)購入はこちら >
  • 彩藤アザミ
    『昭和少女探偵團』
    新潮文庫 定価649円(税込)購入はこちら >
P r o f i l e
門脇みなみ(かどわき・みなみ)
『読書のいずみ』卒業生。明治・大正・昭和が舞台の物語がとてもすきです。

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