音楽のいずみ 最終回

世界に影響を与えてきた日本のテクノグループ

 10月中旬に音楽界に嬉しいニュースが舞い込んできました! 前号の「音楽のいずみ」でも取り上げたショパン国際ピアノコンクールで2人の日本人ピアニストが入賞しました。ニュースでもこの話題が取り上げられており、これを機に沢山の人にショパンの魅力が伝われば嬉しい限りです。
 さて、この「音楽のいずみ」は最終回となりました。第1回はロック、第2回はフュージョン、第3回はクラシック……と様々なジャンルを取り上げてきたわけですが、今回ご紹介するのはテクノです!
 おそらく読者の中には「テクノって何?」という方もいると思うので、簡単に説明すると、テクノというのは元々アメリカ発祥のダンスミュージックで、70年代のあたりからポップスでも広く用いられるようになった音楽のことです。今回は、世界の音楽シーンに衝撃を与えてきたテクノバンド、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)を紹介していきます!
 時は遡ること約40年前。キーボーディストの坂本龍一さん、ベーシストの細野晴臣さん、ドラマーの高橋幸宏さんの3人でYMOが結成されました。3人は当時スタジオミュージシャンとして楽器演奏の腕が認められていました。1978年にデビューアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』を発表します。このアルバムの魅力はとにかく実験的な精神に溢れていること。40年以上経った今でも「こんな音楽が存在するのだろうか」と驚かされます。1曲目はアーケードゲームの効果音をシンセサイザーで表現したもので、そこにドラムが加わってリズムが作られると、2曲目の「ファイアークラッカー」にそのまま突入します。中国を思わせるようなこの曲のメロディーはおそらく皆さんも一度は耳にしたことがあるはずです。クイズ番組のシンキングタイムでよく流れています(笑)。また、このアルバムに収録されている「東風」と「中国女」もYMOの代表曲としてライブでも定番のナンバーとなっています。
 YMOの特徴は一見機械的にも聞こえる電子音と人間的な楽器の音色を組み合わせるという、かなり前衛的な試みを行ったことです。今はノートPC一台で作曲ができてしまう時代ですが、当時はシンセサイザーと他の楽器を同時に演奏するだけでも一苦労でした。実際にライブではYMOメンバーと数人のサポートミュージシャンだけでなく、シンセサイザープログラマーの松武秀樹さんが「4人目のYMO」として舞台に上がっていました。お客さんに背を向けながら無数の配線に繋がれたシンセサイザーの機械を操る彼の姿はまさに職人です。舞台上でもレコード盤に負けず劣らずの素晴らしい演奏を披露できてしまうのもYMOのすごいところです!
 話を戻しますが、1作目のアルバムは海を越えてアメリカでも発売され、YMOはロサンゼルスでのライブも成功させました。そして、翌年に2枚目のアルバムとなる『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を発表し、イギリスのロンドン公演を皮切りにワールドツアーを行います。YMOが海外で多くの聴衆を魅了している間に、このアルバムが日本国内でも100万枚を売り出し、オリコンチャートの1位に躍り出ました。このアルバムの代表作「テクノポリス」と「ライディーン」はYMOのパブリック・イメージになり、これらの楽曲は今のテレビ番組でもよく使われています。当時、原宿で奇抜なファッションに身を包んだ竹の子族が「ライディーン」に合わせて踊っていることも話題となりました。また、YMOの楽曲だけでなく、メンバーのビジュアルも注目され、もみあげを鋭角に剃り整える髪型は「テクノカット」と呼ばれ、多くの若者に好まれました。人気お笑いコンビ・オードリーの春日さんもテクノカットをしていますね(笑)。
 1983年には3人が「オリコン1位」という目標を掲げて半ばジョークで作ったシングル「君に胸キュン。」が発売されます。それまでの前衛的な楽曲から一転してポピュラー色の強い歌謡曲となっており、YMOで一番売れたシングル曲となりました。私たちが普段使っている「胸キュン」という言葉はこの楽曲が由来となっています。オリコンチャートについては、皮肉にもメンバーの細野晴臣さんが作曲した松田聖子さんの「天国のキッス」に1位を阻まれてしまうオチとなりました。その後はグループの解散を発表し、日本武道館で行われた「散開」コンサートでグループでの活動に終止符を打ちました。
 YMOの活動期間は約5年と短い期間でありましたが、多くの人に影響を与えてきたと言われており、現在活躍しているミュージシャンではサカナクションの山口一郎さん、シンガーソングライターの星野源さんらがYMOから影響を受けたことを公言しています。YMOの音楽は約40年前に作られたことが信じられないほど斬新な響きに溢れており、まさに「未来」を感じさせます。是非アルバムを手に取って聴いてみて下さい!
 皆さんは普段どんな音楽を聞いているのでしょうか。J-POP、K-POP、ジャズ、ロック……とそれぞれ好きなジャンルがあるのではないかと思います。是非、たまには自分が今まで聞いたことのないジャンルの音楽にも耳を傾けてみて下さい! 新しい発見があるはずです。これからも読者の皆様が素敵な音楽に出会えることを願っています。
 
P r o f i l e
戸松 立希(とまつ・たつき)

慶應義塾大学4年生。クラシックピアノが趣味ですが、聞いている音楽はロック、ジャズ、テクノ……といわゆる雑食系。現在はエレキギターを買うためにバイト代を必死に貯めています!


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