Reading for Pleasure No.48

心に響く感動の物語

水野邦太郎
水野 邦太郎Profile

今回ご紹介した本

ディビッド・セイン
『泣ける英語』
泰文堂 定価1,430円(税込) 購入はこちら >

 本連載では「物語を読む力は生きる力である」という考え方から、大学生の皆さんに「読むこと」を母語である日本語だけでなく英語という外国語でも経験して欲しいと思い、これまで様々な物語を紹介してきました。そして、中学で学ぶ1000語で98%くらいが書かれた物語をたくさん読むことが、英語力の底上げにつながることを何度も強調してきました。今回、紹介する本『泣ける英語』も、そのような物語が集められた本です。著者のディビッド・セインさんは「はじめに」で次のように述べています。

 日々を生きることが、ふと苦しくなることがあります。幸せで、不満もないはずの毎日に閉塞感を持つこともあります。そんなとき、皆さんは、波立つ心をどのようになだめ、そして慰めているのでしょうか。再び元気を取り戻し、明日へとまた歩みるために、どのように自分を鼓舞しているのでしょうか。ここに登場するのは、人が人として生きるが故に感じる悲しさ、孤独、苦しみが、同じような感情を持った人や動物との触れ合いを通して、優しく穏やかに癒されていく物語です。ある人は動物よって命を守られ、またある人はまったく見ず知らずの他人に生きる希望を与えられ、神々しい生き方に胸を打たれる人たちもいます。

 本書には46の物語がおさめられています。その中の一つ The hands を紹介します。この物語は、ドイツの美術史上もっとも偉大な画家、アルブレヒト・デューラーの代表作「祈りの手」の誕生にまつわる真実の話です。

 In the 15th century in a tiny village in Germany, lived a family with 18 children. The family was very poor, but Durer had a dream from when he was very young. He wanted to an artist. Of course, he knew his father couldn’t pay for his education.

 But Durer refused to give up on his dream, and one day he knocked on the door of a famous artist. To his surprised, he was invited to become an apprentice1, and that is where he met Hans, an eternal2 friend. The two encouraged each other during the difficult times to do their best, but they had trouble even buying materials.

 At this rate3, they would both fail. One day, they talked seriously about their future. They both understood the situation. But they couldn’t just walk away from their dreams. They talked until they reached a conclusion.

 One would go on to art school, and the other one would work to pay the tuition. It was a practical but tough decision. Each of them tried to convince the other that he should be the one to work and send the other to school. But finally, Hans made the decision. Durer would go to school first, and Hans would work in the coal mine4. They would do this for four years, they agreed.

 こうして、その日からデューラーとハンスはお互いの持ち場で一生懸命頑張りました。デューラーは絵を描くことに邁進し、ハンスは真っ暗闇で危険な炭鉱でデューラーのために昼夜を問わず骨身を削るように働きました。

 ハンスの献身により、デューラーの絵は少しずつ売れ始め、ついに個展を開くまでの画家になりました。彼の未来が明るいことは、誰の目にも明らかでした。いよいよ故郷に凱旋することなになったデューラーは、真っ先にハンスの家を訪ねます。

 “Hans, I’m finished. Now it’s my turn to support you,”he said.
 “Thank you, Durer,”Hans replied. “I’m so happy for your success, but it’s useless. Look at my hands…”

 デューラーがハンスの手を見たあとどのような気持ちになったか、ハンスはデューラーに対してどのような気持ちを抱いたか、想像してみてください。そして、デューラーが描いた「祈りの手」の誕生の物語を、ぜひ、本書を手に取り読んでみてください。
 
【語注】
1 apprentice:徒弟、見習い 
2 eternal friend:生涯変わらない友人、永遠の友人 
3 at this rate:このままでは 
4 coal mine: 炭鉱
 

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授・福岡県立大学人間社会学部准教授を経て、2018年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。

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