気になる!映画

 早いもので、コロナウイルス第一波から2年が経過してしまいました。ようやくワクチンが開発・普及してきたとはいえ、まだまだ重症患者の数も多く、気軽に外出することが困難な日々が続きそうです。そこで、今回取り上げるテーマは、「映画」です。DVDやサブスクリプションサービスによって気軽に視聴ができる今日、映画はお手軽な娯楽だと思われます。さて、映画というとあまりにも膨大な数の作品が存在するために、何を紹介しようか非常に迷いましたが、今回は、「家で世界を旅しよう!」というテーマを設定して、世界を舞台にしたハートフル・ローカル映画を3本紹介したいと思います。
 
 

「テーラー 人生の仕立て屋」

『テーラー 人生の仕立て屋』
DVD発売中&デジタル配信中
DVD:4,180円(税込)
発売・販売元: 松竹
©2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany lota Production ERT S.A.
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 ギリシアのアテネで、父とともに高級スーツのテーラーを営んできた主人公、ニコス。しかし大量生産・大量消費の社会において高級スーツの需要は大幅に減少し、店は経営難に陥ってしまった。とうとう銀行に家財を差し押さえられ、その上タイミング悪く父は病に倒れてしまう。ニコスは店を守るために、移動式の屋台で仕立屋を始めるが、相変わらず高級スーツは全く売れない……。そんな時に屋台を見かけたとあるご婦人が、娘のためにオーダーメイドのウェディングドレスを作ってくれとニコスに頼んできた。彼は紳士服一筋で婦人服の知識はさっぱりなのだが、生活のためにもやむを得ずドレス作りを始める。果たして、ニコスはドレス作りに成功して、父のスーツ店を守ることができるのか。

 ギリシアの暖かい気候の中で繰り広げられる人間達の交流は、開放的でどこか懐かしい雰囲気に満ち溢れています。私は現代ギリシア社会についての知識が殆ど無かったのですが、映画全体を包む暖かい色彩や、美しい海と建物に囲まれた風景映像、露天商文化やクチコミで販路が広がってゆくオーダーメイド・ドレスなどには、照り輝く太陽の下の牧歌的なアテネの雰囲気を感じ取ることができました。今日の先進国では、オンラインショップや安価な既製品の販売がローカル産業を圧迫していますが、ギリシアのとある街角では、まだまだ人同士の交流によって展開される商売があるのかもしれません。もっとも、物語の結末には現実社会の厳しさが反映されておりその展開には切なさを感じたのですが、それでもギリシアの風は鑑賞者に人間世界のあたたかさという希望を提示してくれました。
 

 

「めぐり逢わせのお弁当」

『めぐり逢わせのお弁当』
Blu-ray&DVD発売中
DVD:定価4,180円(税込)
発売・販売元:東宝
ⓒAKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films,
Dar Motion Pictures, NFDC,Rohfilm ー2013
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 インド・ムンバイのオフィス街では、お昼になるとダッバーワーラー(弁当配達人)たちが依頼された手作り弁当を届けにやってくる。主婦のイラは、夫のために豪華なお弁当を作り、配達を依頼したのだが、お弁当は誤配送によって独り身の大学教授、サージャンの元に届けられてしまう。サージャンは手作り弁当の味に感動を覚える一方、イラは夫が自分の手作り弁当をおいしく食べてくれたと勘違いし、さらに腕によりをかけてお弁当を作る。けれども、いつしかイラは、夫ではない誰かがお弁当を食べているのではないかと気がつき、お弁当箱に手紙を入れる。そこから、イラとサージャンのお弁当を介した文通が始まるのであった……。

 この映画でまず驚いたのは、インドに手作り弁当の宅配サービスがあるということです。「手作り弁当」という概念がこれほど普及しているとは思いもよりませんでした。それに加えて興味深かったのは、サージャンによって語られるインド社会の発展ぶりと、その光と影についてです。現在、インドの経済成長は日本の高度経済成長期を遙かに凌駕する規模で進行していますが、そんな中で多くの人々が生活に息苦しさや空虚感を感じ、また競争社会に疲れ果てているのです。サージャンは、ギスギスした青年達やゆとりのなくなった社会を憂慮し、その気持ちを手紙にしたためて日々イラに伝えています。インドというと「スラムドッグ$ミリオネア」などのように、スラム街の過酷な環境にフォーカスが当たりがちですが、発達した都市文明の中で出世競争に苦しむ青年達も、今日では大きな社会問題になっています。映画に表された現代インド社会の姿を通して、人間が追い求めるべき幸せとは何かを考えることができるでしょう。
 

 

「グランド・ジャーニー」

『グランド・ジャーニー』
定価4,180円(税込)
発売元: クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
ⓒ2019 SND, tous droits réservés.
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 母親と都会に暮らす少年のトマは、ある夏のバカンスに、別居中の父親の元へと預けられる。父親のクリスチャンは変わり者の気象学者で、フランス・カマルグで雁の研究をしている。彼は、渡り鳥に安全な飛行ルートを教える計画を立てていたのだが、それはノルウェーからフランスまでの長距離を、軽量飛行機(グライダーレベルの簡素なものです)に乗って、渡り鳥を先導しながら飛行する、という無茶なものであった。トマは、嫌々ながらも雁の孵化やお世話など父親の手伝いをさせられ、やがて雁の可愛さや、自然の迫力に魅了されてゆく。そして、ついに父親と計画を実行する日がやって来たのだが、ひょんなことからトマは一人で大空の旅に出てしまった。彼は、落雷・嵐・寒さに野獣など、危険に満ちた長旅を無事に完遂することはできるのか……。

 今作では、ヨーロッパの迫力ある大自然をトマと一緒に旅することができます。フランスを始め、ヨーロッパというと豪奢な建築やメルヘンな民家などが思い浮かべやすいかと思いますが、少し都市を離れると、そこら中に広大な自然が広がっているのです。映画館の大スクリーンで観ると雄大な自然風景描写に感動できるのですが、家のTVでもその魅力は充分体感することが可能です。The・インドア都市人間のトマが出会った自然の豊かな恵みをぜひ味わっていただきたいです。特に、可愛い雛雁の孵化・飼育の場面や雁とのヨーロッパ縦断飛行の場面には、心ときめくこと間違いなしです。
 

 
 いかがでしたか? 世界を舞台にした映画は、旅行気分を味わわせてくれるだけではなく、その国の文化や人々の価値観を実に多角的に伝えてくれます。少ない紙面では、数ある名作映画のうちの3本しか紹介することができず誠に遺憾ですが、興味を持っていただいた方は是非上述の映画をご覧になった上で、ご自分でも一押しの作品を見つけてほしいなと思います。映画を通して、皆さんの生活にまだ見ぬ明るい光が無数に差してくることを期待して、ここで筆を置きたいと思います。
 
 
P r o f i l e
 

岩田 恵実(いわた・めぐみ)

名古屋大学文学部4年生。現在引っ越し作業に追われています。一人暮らしは初めてなので、戦々恐々としています。新しい住居は窓から名古屋城が見えるので、寂しくなった時は金鯱を見て心を慰めようと思います。

*「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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