気になる!ミュージカル

 
 幕開けのアナウンス。これから始まる物語への期待に胸が高鳴る。華麗な衣装に身を包んだ登場人物たちが舞台に現われ、世界が立ち上がる。オーバチュア(オープニング)を高らかに歌い、踊る彼らに吸い寄せられ、わたしは客席に身体を置いて空に浮かび、彼らの世界に飛び込む。
 1920年代、サイレント映画全盛期のハリウッド。目の前で繰り広げられる映画スターと駆け出しの女優の運命的な出会いにときめき、コミカルな会話にくすっと笑う。見つめ合い愛を歌い上げる二人の世界に入りこみ、甘い幸せに酔いしれる。場面変わり、赤、青、緑、紫に黄色と鮮やかなドレスやスーツを纏ったキャストたちのダンス。彩り豊か、でも動きはビシッと揃って、絶妙なハーモニーに感動。2階席後方からでもわかるキャストたちの所作の美しさに惚れ惚れし、激しいダンスの中でもずっと輝く笑顔に、全力の楽しさが会場中に溢れる。ラストスパート、恋敵の企みにはまりそうな二人。固唾を飲む。
見事切り抜け、大団円で舞台上に大雨が降り注ぐシーンは圧巻! 主人公ドンがスーツ姿で全身に雨を受けながら夜のハリウッドを踊りまわる様が、最高にかっこいい! 登場人物たちが舞台を去った後、キャストたちが色とりどりの傘をさして踊り、華やかで最高にハッピーな空気の中、舞台は幕を下ろした。
 以上、『SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜』の観劇レポートでした。私事ですが、この作品を観てミュージカル沼にはまったので、その魅力と鑑賞時のわたしの興奮をお伝えできればそこにはミュージカルの魅力が詰まっているはず! ということで、語らせていただきました。しかし一瞬を切り取っても、舞台上の何人ものキャストの表情や仕草、衣装、細部までつくりこまれた舞台装置、小道具、照明など、観るところは尽きず、ストーリーの面白さやセリフの深さや、歌声の力強さ表現力の美しさそしてダンスのキレや調和やポージングの絵になることやら! 語り尽くすには『izumi』一冊分でも足りないかも……。
 舞台がリアルタイムで生み出される現場に立ち会い、ともすれば一緒に舞台を創りあげている。そういう存在になれることが、ミュージカル鑑賞の大きな魅力だと感じます。
 以降は日本の2大劇団「劇団四季」「宝塚歌劇団」を中心に、ミュージカルの魅力をスペースの許す限り紹介できればと思います。

 

「劇団四季」

 『キャッツ』『オペラ座の怪人』などの海外ミュージカル作品や、『ライオンキング』『アラジン』などのディズニー作品を多く公演。オリジナルミュージカルも制作。もとは慶應と東大の学生劇団で、1953年、「劇界に革命を!」と、フランス革命が始まった7月14日に設立されました。
 ここからは演目の1つ『ロボット・イン・ザ・ガーデン』にスポットを当てます。今年5月から全国公演が始まった本作は、デボラ・インストールの同名作品を原作に、16年ぶりに劇団四季が創りあげたオリジナルミュージカル。AI開発が進みアンドロイドの社会進出が進んだ近未来を舞台に、不慮の事故で両親を喪って以来、獣医になる夢も諦め無気力な日々を過ごす青年ベンが、ある日家の庭に現われた、ボロボロで粗大ゴミに出されてしまいそうな旧式ロボット・タングと出会い、人生を再起動する旅に出る物語です。
 わたしは本作で「四季」デビューしたのですが、鑑賞時、特に印象深かったのが「言葉1つ1つを大事に話されているな」ということ。どの言葉も心の奥まで届くようで、終始作品世界に没入しました(「母音法」という劇団四季独自のメソッドがあるそう)。また興味深いのが、一人のキャストが何役も演じ分けていること。例えばベンの父とボリンジャー(タングの制作者で物語のキーパーソン)は同じ方が演じています(わたしはパンフレットを読むまで気づきませんでした。キャストたちの演じ分け、すごい!)。原作でベンがボリンジャーを見た時自分に似ていると気づくことと繋がっているそう。原作へのリスペクトがすてきですし、いくつもちりばめられた「こだわり」を探すことでより観劇が楽しめそうですね!

 

「宝塚歌劇団」

 劇団員は未婚の女性のみ。設立者は阪急電鉄の創業者、小林一三さんで、歌舞伎に代わる「国民劇」創成を目指してつくられました。
 世界的にも珍しい女性のみの劇団、その文化は非常に独特で興味深く、美しい「花園」に足を踏み入れれば、蔓に絡められ出口が見えないほど奥まで引きずりこまれる恐れが。かくいうわたしも軽い気持ちで観にいったらノックアウトされ、そのままゾンビ状態で宝塚関連本を読みあさったクチです。宝塚の魅力は「美しくフェアリーのような男役(性別「男役」)」「可憐でキラキラした娘役(場面毎に変わるヘアアレンジは神業。舞台で使う髪飾りもアクセサリーも自分で手作り。プロの領域)」「海外ミュージカル、小説、ゲーム、漫画と原作の幅が非常に広い」「オリジナル作品も多い」「原作をそのまま翻訳するのでなく、劇団員の魅力を最大限に活かした『潤色』により別視点から新たな物語が楽しめる」「ショーやレビューと二本立てで上演されることも多く、一公演で2度美味しい(役名のスターと芸名のスター両方楽しめる)」「バレエ、日舞、タップダンス、なんでもござれ!」「どんどん新作が出る(毎月違う演目を上演)」「音楽学校から地続きで、劇団自体が家族のよう」「毎公演オーケストラが生演奏」「衣装班の熱量」、まだまだ書き足りませんが、とにかく「夢の詰まった最強パワースポット」 です!

 他にも日本には個性溢れる魅力的な劇団がたくさんあります! 2.5次元ミュージカルもどんどん盛り上がりを見せ、ミュージカル界に熱風を吹き込んでいます。また劇場に足を運ばなくても気軽に楽しめるミュージカル映画もおすすめです。
 ミュージカルは「いつでも夢の世界に浸れる」場所。それにエネルギー供給量が凄まじいので、夢から醒めたときには気づけばフル充電。「大丈夫、頑張ろう!」と前向きにさせてくれます。
 たくさん魅力が詰まったミュージカル、1つでも気になる要素があればぜひ足を踏み入れてみてください! きっと日常が今までよりキラキラしてみえるはず!
 
BOOK
  • 岩崎徹、渡辺諒
    『世界のミュージカル・日本の
    ミュージカル』

    春風社/定価2,750円(税込) 購入はこちら >英語圏、仏語圏、独語圏、日本のミュージカルについて、それぞれの専門家が解説してくれる。章ごとに切り口が様々で面白い。大学の人気リレー講義がきっかけで作られた本なのでわかりやすく、入門編としておすすめ。

     
  • 中本千晶=著、牧彩子=イラスト
    『タカラヅカの解剖図鑑』
    エクスナレッジ/定価1,760円(税込) 購入はこちら >「タカラヅカ本業界のトップコンビ」がタッグを組んで作られたタカラヅカ愛に溢れた一冊。イラスト付きで解説してくれるので、とてもわかりやすいです。「こんな世界があるんだ!」と読み物としても非常に楽しめます。

     
  • 朝日新聞出版=編
    『宝塚歌劇 華麗なる100年』
    朝日新聞出版/定価1,760円(税込)購入はこちら >大地真央さん、黒木瞳さんなど退団されたタカラジェンヌ(劇団員)のインタビューがたくさん掲載されています。その美しさ、気高さ、努力に心打たれ、意外な一面に親しみを覚えたり。生の言葉に触れられるのが嬉しい1冊。
 
 
P r o f i l e
 

徳岡 柚月(とくおか・ゆずき)

京都大学大学院農学研究科修士1回生。今年2月に『SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜』を観に行って以来ミュージカル沼にはまりました。まだまだひよっこなので、これからどんどんいろいろな劇団や作品に触れていきたいです!

*「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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