Reading for Pleasure No.50

Man is but a reed, the most feeble thing in nature,
but he is a thinking reed.

水野邦太郎
「宇宙」のことを考えるとき、私は、かつて遠山啓という数学者が、中学生や高校生に語ったある一節を思い出します。遠山先生は、数学者であり哲学者だったパスカル(1623-1662)の次の言葉を引用しています。

「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかし、それは考える葦である。これ(人間)をおしつぶすのに宇宙全体が武装する必要はない。わずかの蒸気、一滴の水滴でもこれを殺すのに十分である。しかし宇宙がこれをおしつぶすとしても、そのとき人間は、人間を殺すこのものより崇高であろう。なぜなら人間は、自分の死ぬことを、それから宇宙の自分よりずっとたちまさっていることを知っているからである。宇宙は何も知らない。……空間によって、宇宙は私を一点であるかのように包む。思惟によって私は宇宙を抱擁する。」

 そして、一本の葦のようにか弱い存在である人間に、宇宙の巨大さを教えてくれたのは、人間の「考える」という力によって生み出された数学や物理学、天文学といった学問であり、数学や自然科学は、哲学や文学や芸術と同じように、人間のすばらしさを教えてくれるものである、と遠山先生は述べています。

 人間が巨大な宇宙をどのように探求してきたか — When did the universe begin? Where did our planet come from? Could we live on another planet? Is there life anywhere else in space? — 宇宙や惑星のカラー写真をたくさん挿入しながら、宇宙の巨大さについて語った本があります。Space というタイトルで、著者の Tim Vicary さんは、これまで本誌で絶賛して紹介した The Elephant ManChemical Secret の著者です。本書も、期待を裏切ることなく、中学英語でやさしく、深く、面白く宇宙のことを語っています。

 扱っているトピックは、Earthrise (月から見た地球の出)、Star(星)、 The Sun (太陽)、All the Planets(惑星)、 Mercury and Venus (水星と金星)、The Earth and the Moon (地球と月)、Mars (火星)、 Jupiter(木星)、Saturn(土星)、Uranus (天王星)、Neptune (海王星)、Comet (彗星)、Meteor (隕石)、 Other life in space (地球外生物)など、幅広いです。

 いま、この原稿を書きながら「Jupiter」という平原綾香さんの歌を聴いています。そこで、本書からJupiter についてどのようなことが書かれているか紹介します。

 ……when Galileo looked through his telescope, he had a big surprise. In the sky beside Jupiter, he saw four white spots of light. These were moons, going around Jupiter, in the same way that the Earth and the other planets go around the Sun. “Jupiter is like the Sun,” Galileo thought. “It has its own small planets too.”

 Galileo was right. Jupiter is almost like a small star. Just like the Sun, it is made of gas ? mostly hydrogen and helium. But it has a lot more than four moons; scientists have found sixty-four! … In 1995 Galileo went into orbit around Jupiter. But this time it was not Galileo the man, it was a space probe called Galileo.

 ガリレオは、望遠鏡を通して地球の月以外に初めて4つの衛星を発見しました。このことを証拠に、ガリレオは伝統的な天動説に対してコペルニクスの地動説が正しいことを主張し宗教裁判にかけられました。1995年に、探査機ガリレオのおかげで調査が進み、64個の衛星が発見されたと書かれています。ガリレオが発見した4つの衛星は、ガリレオ衛星と呼ばれ、イオ、エウロパ、 ガニメデ、カリストと呼ばれています。

 宇宙の大きさを知ることにより、私たち人間は豆粒のような存在に思えてきます。そんな宇宙からこの小さな地球を眺めたとき、人間同士が戦争で殺し合っていることがいかにバカバカしいことか分かるはずです。
 

今回ご紹介の本

  • Tim Vicary
    Space
    Oxford Bookworms
    定価786円(税込)
    ISBN:9780194236737購入はこちら >
  • 遠山 啓
    『かけがえのない、この自分』
    太郎次郎社/定価1,980円(税込)購入はこちら >
 

記事へ戻る

 
P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。神戸女子大学文学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授、福岡県立大学人間社会学部准教授、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授を経て、2022年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。

「Reading for Pleasure」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ