『すばらしい新世界』
オルダス・ハクスリー〈大森望=訳〉/ハヤカワepi文庫
定価880円(税込) 最近急にディストピア小説を読みたくなり、『一九八四年』に続けて読んだ。遺伝子の選別と、胎児の工場生産によって作り上げられた超合理的階級制度に、手軽に健康を害することなく多幸感を得られる快楽薬の配給。誰も人生に不満を抱くことがない(できない)世界の恐ろしさを体感できた。世界統制官の一人のムスタファ・モンドには、『カラマーゾフの兄弟』の大審問官のような悲哀を感じた。
(京都工芸繊維大学大学院/やもり)
『さきちゃんたちの夜』
よしもとばなな/新潮文庫
定価572円(税込) この本に収録されている、五編の物語の主人公の名前は、みんな「さきちゃん」である。同じ名前でも、彼女たちはそれぞれの人生を力強く歩んでいる。家族との何気ない会話一つ一つが、さきちゃんたちを前に向かせたり、時には惑わせたりして、彼女らの心の中で色濃く存在しているようだった。
最後に、私のお気に入りの言葉で、兄を亡くした「崎」が、姪っ子である「さき」と一緒に帰っているときに心の中で発した言葉を紹介したい。
「いつも同じ服着てるね、いつも同じような音楽聴いてるね、わりとパターンにはまった毎日を送ってるね、そんなふうに言われる私だが、ブルドーザーのように粘り強く力強く毎日を乗り越えていく」
(東京経済大学/bell)