読書マラソン二十選! 172号


今回も引き続き、第17回全国読書マラソン・コメント大賞のナイスランナー賞授賞作品の中から20点をピックアップしてご紹介します。新書、ノンフィクションから小説まで、秋にじっくり読みたい作品を取り揃えました。
 


  • 『ファッションの仕事で世界を変える』
    白木夏子/ちくまプリマー新書購入はこちら > 最近環境への配慮や、サスティナブルなどをよく聞くが正直自分が行動しようとは思わなかった。しかし白木さんの社会貢献に対する思いや経験を読んで素敵だと感じ、エシカルを理解することで自分の消費活動もだいぶ変わった。例えば洗顔料は動物実験を禁止している会社で購入したり、ペットボトルで飲んでいた水を給水機の利用にしたりと自分の行動を変えてみた。そうすると環境について常に考えながら購買をしていて、自己満足かもしれないけれど、QOLが向上していると思う。この本に出会えてよかった。白木さんありがとう!

    (慶應義塾大学/シナモン)


  • 『人はなぜ「美しい」がわかるのか』
    橋本治/ちくま新書購入はこちら > 青い空に浮かぶ白い雲
     野球選手のバッティングフォーム
     便器の上の一本グソ
     人は様々なものに対して「美しい」と感じます。でもよく考えてみると「美しい」とは何でしょうか。
     「美しい」という誰でも当たり前に抱く感情も、橋本治さんが色々な角度から何度も咀嚼していくと、なんだかよく分からないものになってきます。
     「美しい」は、自己の内面の欠落や社会との関係性を反映する一方で、そんなことお構いなしに自分の中から浮かび上がってくるようでもあり、その複雑でありながら原始的な感情は人間の根本と繋がっているように思いました。

    (東京大学/たぬき丸)


  • 『現代建築に関する16章』
    五十嵐太郎/講談社現代新書購入はこちら > 「世界のタンゲ」と呼ばれた巨匠・丹下健三に学んだ黒川紀章と磯崎新。2人の建築には共に敗戦の記憶が強く影響しているという。歴史の大きな転換点は人々の考え方を変え、またその体験はしばしば心の奥底に深く根差す。今回のパンデミックは建築をどう変えるのだろうか。

    (東京農工大学/李白)

 

  • 『ハイパーハードボイルド
    グルメリポート』

    上出遼平/朝日新聞出版購入はこちら > 「大袈裟な題名だな」というのが読む前の感想だったが、読後は内容との一致具合に思わず笑った。
     本作では、僕らの生活圏内では会うことがないような、「ヤバい世界のヤバい奴ら」の生活や食事について書かれている。僕にとって食事は、作業のようなものだった。時間になったから、お腹が空いたから、食べる。贅沢な話だ。
     ヤバい奴らの食事はどれも美味しそうで、エネルギーに満ち満ちていた。今を、明日を生きる意志を感じた。時間軸上の一点を全身全霊で生きていた子供の頃を思い出した。もう少し、「今」を頑張ってみようと思う。

    (新潟大学/青兎)


  • 『魔法のことば 自然と旅を語る』
    星野道夫/文春文庫購入はこちら > 名前を聞いただけではイメージが湧かなくて、でもあそこには生の豊かさが溢れている。名前を耳にしただけで荒涼な大地と思ってしまって、でもあそこには人の暮らしや歴史がある。根を下ろさない限り、数百万年の時の流れをどう実感できよう。数百万年に匹敵するほどの時間をゆっくりとかけてから初めて、見えないものがぼうっと見えてくる。夏至の意味、クジラ漁の精神、氷河と森。つながりはどこにあって、どうやってつながっているのだろう。時の流れを見つめる、それで初めてぼくは生きている、と共感する。

    (東京都立大学/なぎ)


  • 『自分のミライの見つけ方』
    児美川孝一郎/旬報社購入はこちら > 大学3年生になり、社会に出ることが現実味を帯びてきたが、社会の事などほとんど知らない。職業は沢山知っていても、自分の未来をどう形成するかは誰も教えてくれない。そして、中学高校における進路教育は、全て「どこに進学するか」であって、どうキャリアを形成するかではない。そんなことから、私は必然的にこの本を手に取った。もちろん絶対的な答えが書かれているわけではないが、世の中や自身、仕事観をどう捉えるかという視点を与えてくれた。中高生が主な対象年齢だが、「ミライ」に迷いや不安がある大学生にもぜひ勧めたい。

    (早稲田大学/心理学徒)


  • 『ちいさなちいさな王様』
    アクセル・ハッケ、ミヒャエル・ゾーヴァ〈那須田淳、木本栄=訳〉/講談社購入はこちら > これは“私”のもとに現れた王様との物語です。彼の国では年を重ねるにつれて体が小さくなっていき、知っていたことも次々に忘れていきます。体が大きくなり、知識が増え、できることが増えていく代わりに私たちは何を失ったでしょうか。夢を忘れ、当たり前を信じ込み、想像するということをしなくなりました。
     内容としてはよくある作品ですが、読み直したい、と思う文がいくつかありました。憮然とした態度で部屋を歩くちいさな王様が私の部屋にもいるかもしれない、と、にやにやしながら読める作品です。

    (名古屋市立大学/くりーむそーだ)


  • 『日日是好日』
    森下典子/新潮文庫購入はこちら > 私は就活真っ只中です。なりたい自分について両親に話すとき、きまって言葉に詰まります。自分の中に確かな意志があるのに、思いだけ先走ってしまうのはどうして?
     著者は25年間のお茶の稽古を通じて気づいた季節の変化や、誰かからの思いやり、自分の小さな成長を、こぼさずに心に留め、言葉にして記します。そうか……青天の霹靂のような事件が起きずとも、日々の気づきや、恩師や友人からの言葉で「自分の中の大切なもの」は形づくられていくんだ。
     小さな変化を見逃さずに言葉にしていこう。大切な人に大切な自分をまっすぐ伝えたいから。

    (立命館大学/アンナ)


  • 『国際共通語としての英語』
    鳥飼玖美子/講談社現代新書購入はこちら > あなたは自分の英語を持っていますか?
     英語が共通語であるのなら「分かりやすい」「通じやすい」英語を発信していかなければならないのだ!私は流暢に、正確に英語を話せる自信はない。しかし、国際共通語としての英語は、英語の母語話者を規範にする必要はないという教えに私の心は救われた。間違ったって良いのだ。自分の持っている英語で話せば。
     これからの英語、英語教育の在り方をコミュニケーションの視点から学ぶことができ、老若男女問わず手に取ってほしい一冊です。

    (津田塾大学/ブレッドバード)


  • 『ミドルマーチ 1〜4』
    ジョージ・エリオット〈廣野由美子=訳〉/光文社古典新訳文庫購入はこちら >  自分の人生を意味あるものにするために、何ができるのか。そういったことを考えたことはないでしょうか。この小説の登場人物を最後まで是非追いかけてみてください。ドロシアは偉大な研究を行っていると信じた人物の手助けをする立場になることによって、またリドゲイトは研究と業界の改革に力を尽くすことによって、結果として手に入れたものは何だったのか。それを考えることで、周囲の人々が受け取る自分像と自分自身にとっての自分像の違い、また人生の意味をどこに置くことが可能かについて、理解することができると思います。

    (北海道大学/koruneria)


  • 『歌集 滑走路』
    萩原慎一郎/角川文庫購入はこちら > 三十一音から広がる無限の世界。それらは決して、美しい四季の風景や淡い恋心だけではない。非正規雇用、いじめ、拗らせた恋、食、創作活動、SNS、テロ。過度な不安、根拠のない希望、答えの見つからない葛藤も。現代社会に生きづらさを感じながらも頑張って歩みを続けている人、その中で一旦立ち止まって休憩している人、今を生きる全ての人に寄り添ってくれる歌集。三十一音だからこそ、伝えたい感情や情景が現代社会を生きる皆さんの心にはっきりと刻まれる。
     あなたの心に寄り添うお気に入りの一首を見つけてみてください。

    (東北大学/アゲ)


  • 『酒に溺れた人魚姫、
    海の仲間を食い散らかす』

    酒村ゆっけ、/KADOKAWA購入はこちら > 誰だって、孤独で、美しい。そして、ずるい。
    「誰」というのは、人間だけを指すのではない。人間をとりまくもの全てだ。
     あなたは、今目の前にあるものがどういう感情を持ってそこに佇むのか考えたことがあるだろうか。口紅、ぬいぐるみ、そして牛丼をも。どんなものでも悩み、嘆き、喜ぶのだと、皆何かに何かを求めて生きているのだとこの本に教えてもらいました。日常に新たな視点をもたらしてくれる、そんな物語です。

    (信州大学/めんたいこ)

 

  • 『プラージュ』
    誉田哲也/幻冬舎文庫購入はこちら > 人間は社会的な生き物だ。そのことを様々な方向から、何度も何度も繰り返し教えてくれる小説です。「プラージュ」に集まる住人たちにはそれぞれ後ろ暗い過去があります。その過去は様々で、それを抱えてそれでも生きていこうとする彼らに、しかし社会はやはり厳しく、常にそれを暴こうとしてきます。そんな彼らが拠り所となる浜辺を手にし、過去を晒していく姿に、気づけば共感し涙していました。たまたま寄り道した古本屋でなんとなく手にしたこの作品に、人間としての生き方や社会としての在り方を教わった気がします。

    (三重大学/みょちみょち)


  • 『リップヴァンウィンクルの花嫁』
    岩井俊二/文春文庫購入はこちら > 「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」
     クライマックスで、登場人物の真白が放つ言葉が鮮明に心に残っている。
     コンビニで、自分なんかのために店員がせっせと商品を詰めてくれる「優しさ」、配達員が宅急便を自分の家の玄関まで運んでくれる「優しさ」。そんなの「当たり前」のことなのに、それは彼女にとっての「特別」だ。なんて悲しい人生を歩いてきたんだろう。けれど、それを幸せだと考えられる心の美しさ、尊さに心が洗われるようだった。
     幸せと不幸せは紙一重、どんな人生だって奇想天外。

    (早稲田大学/めろ)


  • 『にごりえ/たけくらべ』
    樋口一葉/新潮文庫購入はこちら > 読まず嫌いはなんて損なんだと思った。文語ゆえに敬遠してしまうのだが、読み始めると案外読める。むしろ、慣れてしまえば流麗な文語の地の文と口語の会話文とが実に優美かつ颯爽と連なっていて心地よい。物語も、互いに想い合いながらついに結ばれることなく終わる男女の機微を描いて不足がない。特に思春期の男女の、純粋でいじらしい心の動きの描写は、これが明治の作品なのかと疑いたくなるほどだった。高校古典の授業、ありがとう!
     5000円札に選ばれるのは伊達じゃなかったのだ。

    (名古屋大学大学院/まんじゅうこわい)


  • 『地球星人』
    村田沙耶香/新潮文庫購入はこちら > 誰かに「見初めて」もらえない人生に価値はない、子供を持たない人間は「生産性」がない、多様性を喧伝しつつも「普通」の圧力が依然強いこの世界。
     大学生になり、「結婚」「生殖」が身近な問題として迫り、周りが色めき立つこの頃。それらに魅力を感じられずになんとなく肩身が狭い。
     そんな私にとって、「普通」を「可哀想で可愛い遺伝子の奴隷」と言い切るこの本は、心落ち着く「宇宙船」だった。
     私もいずれ、「地球星人」として「人間工場」の一員になるのだろうか。それとも異質な何かとして生きていくのだろうか。

    (東京大学/なみき)


  • 『命売ります』
    三島由紀夫/ちくま文庫購入はこちら > 自殺に失敗した主人公の羽仁男は命を他人のために使おうと決め、様々な修羅場を潜り抜け任務を遂行していく。本作の前半は命を捨てる覚悟を持った痛快な物語なのだが、後半に進むにつれ命を売りかけたものの徐々に命が惜しくなり、生に執着する様子が描かれている。本作を通じて得た教訓は、命を捨てる覚悟を持った時は強いが、結局命ほど尊いものはなく生に執着するほど弱腰になってしまうということだ。人生を変えたいと一念発起する人間は命を捨てる覚悟でやれば何事もなしうることができる。命がけで取り組むことは無敵なのである。

    (弘前大学/石合崇人)


  • 『麦本三歩の好きなもの 第一集』
    住野よる/幻冬舎文庫購入はこちら > 最近何もかも上手くいかなかった。自分をうまく扱えなくなり常に情緒不安定でやるべきことが溜まっていきそれがさらに私を悩ませた。優しい恋人といるときも泣いてばかりで困らせて、そんな自分が大嫌いだった。唯一、自分に出来たことが、読書だった。昔読んだこの本を手に取り、再び読み始めた。涙が出た。なんて三歩は優しいんだろう。自殺未遂をした友人に放った言葉。そして、私の恋人もまた同じ言葉を言い聞かせてくれていたことに気が付いた。自分を大切にしてくれている人がいる。この本はそれを教えてくれる。

    (大阪大学/かぼちゃ)


  • 『天国はまだ遠く』
    瀬尾まいこ/新潮文庫購入はこちら > 日々の生活が上手くいかず自殺を考える主人公。学校や会社などの組織に属していると、その組織が社会の全てであるように感じてしまうけれど、その社会から一歩外に出てみると、世界は私たちが思っているよりもずっと広くて、逃げ道もたくさんある。属している組織から逃げ出すという勇気を持つことも大切だと思わせてくれます。人間関係に悩んだり、日々の生活が辛いと感じていたりする人にはぜひ読んでもらいたい1冊です。自殺がテーマですが重苦しくなく、ページ数が少ないので普段あまり読書をしない人にもおすすめです。

    (愛媛大学/カワウ・)


  • 『明け方の若者たち』
    カツセマサヒコ/幻冬舎文庫購入はこちら > 物事にはいつか終わりが来る。好きな人と過ごす時間は倍速で進んでいく。「一生この人のことが好きなんだろうな」と思っても、その前提には切っても切り離せない関係性や環境が存在する。この物語は、主人公の彼女が不倫をしていると知りながらも、その事実に背を向けながら過ごす儚くて夢のような日々を描いています。学生のみなさんも沢山思い悩む青春を駆け抜けている最中ではありませんか? この作品は恋愛で苦しんだ思いのある人なら必ず共感できるはずです。特に最後の学生生活を過ごす大学生の皆さんと共有したい作品です。

    (明治薬科大学/pua)



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