卒業生のひとりごと
18.わたしの推し作品



 みなさんに「推し」はいますか。人物でも作品でも場所でも、何か推したいものがあると、人生がほんのり楽しくなるような気がします。今回は、わたしの推し作品をご紹介しますので、人の頭の中をちらりと覗くような感覚でゆるりとお楽しみください。
 
 

ARIA

天野こずえ
『ARIA 完全版
ARIA The MASTERPIECE
(全7巻)』

マッグガーデン ブレイドコミックス/
定価1,324〜1,528円(税込)
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 何となく人生に疲れたときには、気持ちがゆったりする作品を摂取したくなります。『ARIA完全版 ARIA The MASTERPIECE』(天野こずえ/BLADEコミックス)は、「アクア」と呼ばれる未来の火星にある観光都市ネオ・ヴェネツィアを舞台にした作品です。主人公の少女・灯里ちゃんはネオ・ヴェネツィアで、一人前のウンディーネ(ゴンドラ漕ぎ)になるために修行をしています。四季の美しさや人々のあたたかさ、何でもない日を楽しむことの大切さなどが描かれており、読むと穏やかな気持ちになります。アクアに本当に行くことができるなら、ぼんやりゴンドラに揺られたり、ふらりと入ったお店でパニーニを買ったり、外で風を感じながらそれを食べたり、時間を気にせずのんびりと過ごしてみたいものです。
『ARIA』は原作の漫画はもちろん、アニメも素敵。きれいな映像と穏やかな音楽がマッチしており、疲れたときにぼんやりと眺めるだけでも癒されます。
 

 

凍りのくじら

辻村深月
『凍りのくじら』
講談社文庫/定価990円(税込) 購入はこちら >

「小説の主人公に心から共感する」という自分にとって大きな体験をしたのが、大学生のとき。作品は『凍りのくじら』(辻村深月/講談社文庫)でした。わたしはどちらかというと主人公に自分を重ね合わせるよりも、第三者として物語を眺めてしまう傾向にあるため、『凍りのくじら』を読んだときは驚きました。たとえ追体験であっても、物語の主人公になることはできないのではないかと思っていたわたしにとって、主人公に「わたし」を重ねながら物語を楽しめたことは、忘れられない経験となったのです。
 その体験だけでも、この作品を自分自身の「特別なもの」にするには十分すぎるほど十分ですが、さらにエピソードを付け加えるなら、わたしの『凍りのくじら』には辻村深月さんのサインが入っています。わたしが大学生の頃、幸福なことに辻村さんにお会いする機会があり、その際に書いていただきました。辻村さんのお名前が入った一冊は、お会いしたときのエピソードとともに、ずっとわたしの宝物です。
 最近は身軽になりたくて身辺整理をしており、紙の本も大半を手放してしまったのですが(その代わり電子書籍にどっぷりです)、『凍りのくじら』は相変わらず本棚のいちばん良い場所に置かれています。きっとこれから先も、ずっとわたしのそばにいてくれるでしょう。
 

 

薬指の標本

小川洋子
『薬指の標本』
新潮文庫/定価539円(税込)購入はこちら >

 もし自分だけの標本を作るとしたら、何を標本にしますか。わたしは眼球が良いです。つるんと丸くて、つややかで、可愛らしいからです。ふたつあるので、ひとつくらい標本にしても良いのではないでしょうか。
薬指の標本』(小川洋子/新潮文庫)は、人々が様々なものを持ち込む「標本室」で働いている女性と標本技術士の物語。ひそやかで、静謐で。耳元でそっとささやかれているような、そんな作品です。この物語がすきなことは、できれば秘密にしておきたい。誰とも共有せずに、自分だけの宝物として、心のうちに秘めておきたい。そのように思わせられる、不思議な魅力のある物語だと思います(とはいえここに書いてしまっているので矛盾していますね)。
 先に「標本にするなら眼球が良い」と書きましたが、やっぱり『薬指の標本』を標本にしてしまうかもしれません。標本になったとしても、きっと色褪せることなく、宝石のような物語であり続けてくれるでしょう。
 

 

下妻物語

 ファッションは武装です。外界から自分自身を守るための。その鎧がフリルとレースとリボンあふれるものであったら、どれほど素敵なことでしょう。
 映画「下妻物語」は、フリル全開のロリータファッションを愛する少女・桃子の物語。深田恭子さん演じる桃子は、ロリータファッションに身を包んで茨城県の下妻を闊歩している、孤高の少女です。彼女は友達がいなくても気にせず、ひとりで自分らしく生きています。その姿のかっこいいことと言ったら! 人と群れず、人に媚びず、周囲から浮くことを恐れない彼女の姿からは、勇気をもらえます。
 また作中に登場するロリータファッションがかわいすぎるため、心を撃ち抜かれて倒れてしまわないように注意。わたしは見事に撃ち抜かれ、その結果ロリータファッションを愛好するに至りました。これからも桃子のように、ふんわりとスカートをなびかせながら、自分らしくこの世界に存在していたいと思います。
 
執筆者紹介
門脇みなみ(かどわき・みなみ)
いずみ卒業生。推しの存在は健康に良いとされています。

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