世界の本棚から⑮

 

Nita Prose
The Maid
Harper Collins
ISBN : 9780008435738購入はこちら >

 格式あるホテルにメイドとして勤めるモリー。清潔が一番と信じ、どの部屋も完璧に掃除して、昼休憩も取らずに働くほど熱心で真面目な社員だ。ただ、彼女は人づき合いやコミュニケーションが苦手。同僚たちからは変わり者と思われ、陰口を叩かれている。友達はいない。彼女は大好きな祖母を亡くしたばかりで悲しみに暮れているが、グッと我慢しながら今まで通り仕事を続ける毎日を送っている。
 ある日ホテルの客室で上得意で大金持ちのブラック氏が亡くなり、モリーが第一発見者に。不審死の疑いで聴取が始まる。真っ先に疑われそうなブラック氏の若くて美人な妻・ジゼルは、モリーに優しくしてくれる数少ないお客だ。ところがジゼルからあるものを隠してほしいと頼まれて断れずに従うと、すぐさま警察に知られてしまい、モリーが殺人容疑で逮捕されてしまう。果たしてモリーは疑いを晴らせるのか?
 優しくてお人好しのモリーの視点で描かれるため、読者はハラハラさせられる。前半は彼女に徹底的に不利。明らかに怪しいイケメンバーテンダーのロドニーに好意を寄せたり、彼女を騙す人に気づかなかったりする。でも後半でモリーの味方が現れ、彼女の天才的な反撃が始まる。あちこちに細かい展開があり、最後まで楽しめる小説だ。

 
 

Tiago Forte
Building a Second Brain
Atria Books
ISBN : 9781668004937購入はこちら >

 先日、上司に作業のやり方を聞いた時に、瞬時に過去の事例の資料が送られてきてびっくり。資料探しに時間のかかる自分を反省し、ちょっと読んでみようと思ったのが本書だ。
 米マイクロソフト社の調査によれば、アメリカの一般社会人は年間76時間を資料探しに費やすとのこと。日常的に現代人がさらされる情報量は一日に34ギガバイトあるというNYタイムズ紙のデータもある。あれもこれもいつか役立つと思いながら、次々と忘れてしまう能力の限界を認めて「Second Brain」と呼ぶバーチャル脳にまかせてしまおうというのが本書の趣旨。
 バーチャル脳といっても、簡単にいえばデジタルメモ術。興味を持った記事や写真をスマホやパソコンのメモに登録し、クラウド保存しておく。保存するものは自分がときめいたこと・今まで知らなかったことが一つの指針。そこで定期的にメモを整理。そこで「音楽」などジャンルで整理するのではなく、すぐにアクションを起こすものか、そうでないかで区別していく。
 整理のあとは著者が「distillation」と呼ぶメモ内容を読み込んで本当に必要な内容をマークしながら自分の言葉で要約する作業を経て、仕事や勉強、趣味のアウトプットに使っていく。終わったら資料をアーカイブするのを忘れずに。この作業を繰り返すうちに、second brainがあることに我々自身が慣れ、情報処理ではなくクリエイティブな活動に専念できるようになるそうだ。
 書き出してみると当たり前に思える段取りだが、そこが大事かもしれない。しかし本書の終盤になるとsecond brainの効能が長々と書かれていて頭に入ってこなかった。まずは著者に従い、本書の内容をメモし不要な部分を除いて整理して……。

 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

「世界の本棚から」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ