Report 編集者と作家の向き合い方を訊く
~リーダーズ・ネットワークとKADOKAWAのイベント報告~

 

 リーダーズ・ネットワークでは、メンバーで毎年出版社訪問をしていますが、今年は株式会社KADOKAWAのご協力でオンライン懇談会を10月12日に開催しました。
 KADOKAWAからは藤田孝弘さん(辻村深月さん担当)、細田明日美さん(恩田陸さん担当)、そしてKADOKAWAいちおしの新人作家、君嶋彼方さんご担当の吉田真理さんの3人の編集者にご参加いただき、5大学17名の大学生と2時間の交流をしました。
 当日は二部構成。前半は編集の仕事に関して質問にお答えいただく内容です。皆さんが担当されてきた作家は、東野圭吾さん、辻村深月さん、恩田陸さんと超大物ぞろい。編集者の声を聞ける機会はめったにないので、作家さんとの仕事の進め方から日常の過ごし方までたくさん質問が出ます。
 後半は、発売されたばかりの君嶋彼方さんの最新作『夜がうたた寝してる間に』の読後感を話し合う予定でした。
 ところがなんと、作者の君嶋彼方さんがサプライズ参加。実作者と作品の感想を語り合うめったにない幸運に恵まれました。
 それでは、紙幅の都合で要約になりますが、内容をご紹介いたします。

 

リーダーズ・ネットワークとは?

 リーダーズ・ネットワークとは、首都圏の大学読書サークルの連絡会です。
 毎月集まって、交流を行ない、本と人を結び読書を推進する企画も行なっています。
みなさんも、読書を通じた大学の垣根を越えた交流の場、リーダーズ・ネットワークで一緒に活動してみませんか。
※お問い合わせは、こちらのアドレスまで

 


 

1.編集者の仕事に迫る

Q:
 編集で大切にされていることは何ですか。

A:
 作家さんももちろん大切ですが、作品が最終的には主役。作品が一番いい形で読まれることのお手伝いをするのが、編集者だと思っています。時に作家の方と意見を戦わせることもありますが、意見した編集者が想像していたものをはるかに超える作品を返してこられるのが作家さんのすごいところです。

Q:
 編集者は作家さんとどのように向き合っていますか。

A:
 (作家さんが)柔軟で編集者と一緒に作るタイプなら、プロットを書いていただく段階で「盛り上がりを作りたいので、一つシーンを挟んではどうでしょう」とか、「このラストはちょっと後味が悪すぎませんか」とか話し合うことはあります。

A:
 作家さんによっては、次にどんな作品を執筆するか決めるにあたり、アイデアが欲しいとおっしゃることもあるので、映画やドラマをヒントに「こんな設定、きっとお好きだと思うんですけど、取り入れてみるのはどうですか」などと提案することもあります。

 このほかにも、編集という仕事の苦労話や、編集者として出版社に就職するために何を準備されたかなど、たくさんの質問にお答えいただきました。
 
 

2.『よるうた』制作に迫る

 後半は『夜がうたた寝してる間に』(以後『よるうた』)について話し合いました。
 君嶋さんの最新作である『よるうた』は、特殊能力を持った(持ってしまった)学生が社会で生きていく姿を描く作品です。著者とオンラインで交流するという想定外の嬉しい展開に話が弾みます。

Q:
 その場の雰囲気に合わせて生きていく主人公の姿が描かれていたのですが、ご自身が学生時代にそのような経験をされていたのでしょうか。
 
君嶋:
 作中に我妻というキャラクターがいるんです。うちにこもって、周りから壁を作って、一人で生きていこうとするような性格で。どちらかと言えば、彼のように周りに合わせるのが難しいなっていうタイプではありましたね。

Q:
 感銘を受けた本はありますか。

君嶋:
 山本文緒さんの『ブルーもしくはブルー』(角川文庫)という本がありまして、読んだのが中学生の頃だったと思うんですけど、すごく面白くて。ドッペルゲンガーを扱った小説ですが、それを主とするのではなくて、それがいることによる周りの関係や主人公たちの心情描写をすごく繊細に書いた物語でして、こんな書き方があったんだと思いました。そこから山本文緒さんにハマるようになって、「小説家になりたいな」と思うようになりました。

Q:
 (『よるうた』作中の)特殊能力の種類というのは、どのように決めていかれましたか。

君嶋:
 今回出していた特殊能力は、時間を止める、心を読める、瞬間移動と(SFでは)オーソドックスな能力だと思います。しかし書きたかったのは、能力を使って何かをするというよりも、能力を持ってしまったことによって、苦しんだり悩んだりするという部分だったんです。

Q:
 学園×超能力者ということで浅倉秋成さんの『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)を思い浮かべましたが、影響を受けていますか。

君嶋:
 実は失礼ながら、その作品を僕はもともと読んでいなくて。浅倉さんと対談させていただくにあたって読んでみたら、「テーマが似てるな」とびっくりしました。それでいうと、『うちのクラスの女子がヤバい』(衿沢世衣子/講談社)という漫画には影響を受けました。思春期の女子中高生だけに、一定期間変な能力が芽生えるというお話です。息を切らしたら人の服が透けて見えたり、変わった能力を扱った話なんですけれども、能力の日常への溶け込ませ方がものすごくうまくて、それを面白さに繋げているのが、素晴らしいと思いました。そこから、(自分でも)そういった作品を書いてみたいなと思ったのがきっかけです。

Q:
 作品を書く上で一番見てほしいと思っている点を教えていただきたいです。

君嶋:
 主人公に寄り添ってもらいたい。「こういった気持ちってやっぱりあるよね」という風に思ってもらいたいというのは、一番考えているところです。

Q:
 うまくいったな、と思ったシーンなどはありますか。

君嶋:
 心を読めるキャラクターが、心情を吐露するシーンですね。
 主人公に向かって、「心の中の言葉ではなく、どうにか伝えようとしてくれた言葉を信じたい」と伝えるんです。(彼女は)心を読めるので、言葉の裏にあるいろんな感情っていうのを、一緒に読み取ってしまう。でも、言葉を発した人が隠している心ではなくて、いろんな感情を経てどうにかして絞り出したその一言の方を信じたいと、彼女は思っているんです。自分の中では結構核心をついたシーンなんじゃないかな、と思っています。
 
 

3.終わりに

 初めて君嶋さんの作品を読ませていただいて、心情描写が繊細だと感じました。 読者の気持ちに寄り添っているような、読者に「これは自分のことだ!」と思わせる力がありました。 
  今回は参加者同士で感想を共有する時間があまりありませんでしたが、参加した皆さんもどこかで自分と重なる部分を『夜がうたた寝してる間に』の登場人物に見出せたのではないでしょうか。
 お忙しい中楽しい時間を作っていただいた君嶋彼方さん、KADOKAWA の皆様、ありがとうございました。
 リーダーズ・ネットワークでは全国の本好きが参加する作家イベント「リーダーズ・フェスタ」を計画しています。ご期待ください。
(文=古本 拓輝)
 
 

イベントに参加した編集者より

  • 藤田 孝弘さん

    皆様、イベントへのご参加ありがとうございました。君嶋彼方さんの『夜がうたた寝してる間に』ゲラの読み込みの深さ、いただいた質問の熱量に、感心しきりでした。文芸編集者は職業であり、小説をビジネスにすること、つまり小説を読者=市場に届けることを考えなければならないのですが、その根底にあるのは小説と作家への愛着であるべきだと思います。我こそはという方、いつでもお待ちしております!

    藤田さん担当の書籍 闇祓やみはら
    辻村深月
    定価1,870円(税込)KADOKAWA購入はこちら >
     
     
  • 細田 明日美さん

    イベントではありがとうございました。読書が好きな学生のみなさんとお話しでき、とても嬉しかったです。「作品にどう関わるのか」「頼みづらいことを頼むにはどうしたらいいか」などなど、これという正解のない質問をいただいて、自分自身も日々迷いながら道を模索している最中だなと改めて思いました。これから就活をされる方も、正解のないことに悩まれるかと思いますが、何事もよい経験になるよう願っています。

    細田さん担当の書籍 『ドミノin上海』
    恩田 陸
    定価1,870円(税込)KADOKAWA購入はこちら >
     
     
  • 吉田 真理さん

    貴重な機会をありがとうございました! 参加者のみなさまに『夜がうたた寝してる間に』を読んでいただき、感想を伺えたことは大変貴重かつ幸せなことでした。編集という仕事のお話をするなかで、おもしろい小説を多くの方に買ってもらい、読んでもらいたいというシンプルな願いや目標を私自身が再確認できたのも収穫でした。今後も君嶋彼方さんにはどんどん新作を書いていただきたいと思いますので、ご注目いただけましたら幸いです。

    吉田さん担当の書籍 『夜がうたた寝してるあいだに』
    君嶋 彼方
    定価1,650円(税込)KADOKAWA購入はこちら >
     
     
 

イベントの模様はこちらでもご紹介しています。
KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」

 


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