
カポーティなりカフカなりドストエフスキーなり、海外文学を語る上で欠かせない作家は幾人もいるだろうが、読書習慣を後天的に身につけた僕はそういう素養がすっぽりと抜け落ちている。基礎のない応用ほど頼りにならないものはないので、とりあえず『老人と海』(ヘミングウェイ〈福田恆存=訳〉/新潮文庫)を読むことにした。
東工大の一年生は全員「立志プロジェクト」という文系教養科目を取らされる。賛否はあるけど、僕はこの授業が好きだった。文系を知らない理系はつまらないから。この講義の最終課題は指定図書の書評で、図書ラインナップの中に『苦海浄土』(石牟礼道子/講談社文庫)があったのを覚えている。単位関係ないけど読もうか。
別役実から本格的に演劇の世界にのめりこんだ僕からすると、アングラ演劇の旗手たる唐十郎は外せない。テント劇場の内部で繰り広げられるエネルギッシュな演劇は唯一無二。今度演劇部の有志で唐組の紅テント公演を観に行く予定だ。
ああ、美術館に行きたいなあ。『妄想美術館』(原田マハ、ヤマザキマリ/SB新書)は私をそんな気持ちにさせた。表題の通り、お二人の妄想がどんどん膨らんでいくのがとても面白かった。ティツィアーノ・ヴェチェッリオの「手袋をもつ男」から当時と今のファッション事情にまで話が広がったり、自分が美術館をつくるなら、誰のどんな作品を集めたいかを熱く語ったり……読んでいるだけでワクワクが止まらない。これを機にアート巡りを始めようかしら。
「演劇」がテーマの小説を読みたくなり、『チョコレートコスモス』(恩田陸/角川文庫)を手に取った。夢中になって読み終えると、演劇がもっともっと好きになっていた。演劇は、夢を見ることに似ている思う。芝居が始まると、舞台上には全くの別世界が突如として現れ、観客はいつの間にかその世界観にぐっと引き込まれている。幕が下り、気づいた時には舞台上にはもう何もない。でも確かな心の震えと簡単に冷めそうもない興奮が現実なのだと教えてくれる。この不思議な緊張感は演劇の醍醐味だと私は思う。
朗読は面白い。視覚の情報は何もないはずなのに、心地よく発せられる言葉の一つ一つに耳を傾けていると、段々と情景が見えてくる。同じ文章でも読み手や読み方によって全く違った印象を与えるのだから、まるで魔法だ。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。