Reading for Pleasure No.52

Music, the language of life

水野邦太郎
「音楽……音。なんという不思議な力をもった存在であろう」と、ヴァイオリニスト、音楽教育家であった鈴木鎮一氏が『愛に生きる』という著書の中で述べています。この本は、昭和41年(1966年)に出版され、音楽関係者だけでなく教育関係者からも読み継がれてきました。私はこの英語訳と、アメリカに留学していたとき書店で出会いました。Nurtured by Love というタイトルに心を奪われ、「この本との出会いは、自分の人生を変えるかもしれない」と直感的に感じ、購入しました。その直感は当たり、その本で述べられている Education rather than instruction (教えるのではなく、育てることだ)という言葉を胸に、現在、教育学科で小学校と中学校の教員養成の仕事に携わっています。

 本書を『読書のいずみ』で紹介したいと思ったのは、この秋学期に、アメリカのノース・ダコタにある高校で音楽の授業を担当しているL先生との交流が関係しています。L先生は、自らチェロの演奏家としても活躍されています。L先生のクラスの生徒たちと私が教えている学生たちは、Flipというアプリを使い、非同期で動画の投稿を通じて様々な話題について意見交換をしています。Intercultural Classroom Connections (ICC)プロジェクトと呼んでいます。

 ICCプロジェクトが成功するように、L先生とは5月からFlipとメールで打ち合わせを重ねてきました。そして、あるときL先生がNurtured by Love について話をしてくださいました。以下は、L先生と私が共感したその本の一節です。

When the human race created the culture of speech and writing, it also produced the sublime culture called music. It is a language that goes beyond speech and letters − a living art that is almost mystical. This is where its emotional impact comes in. Bach, Mozart, Beethoven — without exception they live clearly and palpably in their music, and speak forcefully to us, purifying us, refining us, and awakening us in the highest joy and emotion.(p.83)

「人類は、ことばと文字という文化を創造すると同時に、音楽というすばらしい文化をつくりました。それは、ことばや文字を超えた生命のことば — 神秘ともいうべき生きた芸術です。そこに音楽の与える感動があるのです。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン…は、ことごとく、その音楽のなかに、まざまざと生きて、わたしたちの生命に強く語りかけ、わたしたちを浄化し、高め、無常の喜びと感動を与えてくれている。」

Why do all children possess the marvelous ability to speak their mother tongue quite effortlessly? Therein lies the secret of how to educate all human ability. Schools instruct and train as hard as they can, without good results. There must be something wrong in their method. My thirty years of experience make me firmly believe this. With the emphasis put only on informing and instructing, the actual growing life of the child is ignored. … The word education implies two concepts: to educe, which means to “bring out, develop from latent or potential existence” (Concise Oxford Dictionary), as well as to instruct. But the emphasis in schools is only on the instruction aspects, and the real meaning of education is totally forgotten. (pp.84-85)

 ここに、スズキ・メソードの真骨頂が語られています。education 「教育」とは、その言葉の語源をたどると、接頭辞の e が「out (外へ)」を意味するように、bring out 「外へ引き出す」こと、すなわち「一人ひとりの子どもが持っている才能や真価を引き出す」ことです。本書は、「音」を通した「教育 (「教える」ばかりではなく「育てる」こと)」について深く考えることができる、名著中の名著といえるでしょう。
 

今回ご紹介の本

 

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。神戸女子大学文学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授、福岡県立大学人間社会学部准教授、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授を経て、2022年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。

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