世界の本棚から⑯

 

R.F.Kuang
Babel : An Arcane History
HarperVoyager
ISBN : 9780008501822購入はこちら >

 オックスフォード大学に留学し最終学歴はイエール大学の博士号という中国系アメリカ人作家、R. F. Kuangによる歴史ファンタジー小説。
 1830年代、孤児になり英国人ラベル教授に保護された中国人少年ロビン。才能を見込まれ英才教育を受け、オックスフォード大学の王立翻訳研究所、通称バベルに入学する。そこでは世界のあらゆる言語とその翻訳の研究がおこなわれ、豊富な資料、立派な教授陣、才能豊かなクラスメイトに恵まれたロビンは、生活の心配もなくラテン語や中国語の研究に没頭する。
 バベルで優秀な翻訳者は銀の加工を手掛けている。銀の延べ棒に特定の言葉とそれに意味の近い異国の言葉を彫り、両方の言葉を完璧に理解しているバベル研究員がそれを読み上げると銀に力を授けられる。英国はこの延べ棒により産業革命が進み、海外との取引で巨万の富を得ていた。銀加工のため青春を擲って言語習得に励むロビンはやがて尊敬するバベルの活動が植民地政策に利用されていると教えられ、複雑な思いを持つ。そして次第に大英帝国の覇権主義と人種差別に気づき、アヘン戦争前夜の悲劇に巻き込まれていく。
 前半でオックスフォードの美しい様子と学びの喜びにうっとりする分、後半ではバベルが支える帝国主義の醜さに打ちのめされる。果たしてロビンが選ぶのは体制側か、反乱か?

 
 

Walt Bogdanich and Michael Forsythe
When McKinsey Comes to Town
Doubleday
ISBN : 9780385549448購入はこちら >

 世界各地で活躍する経営コンサルタント会社マッキンゼー。就職先としても人気で、ある情報サイトによれば、今年からMBA取得者には初年度年俸19万2千ドル(2,800万円)でオファーするそうだ。最高のサービスを提供するためクライアント・ファーストを掲げ、守秘義務を完璧に守り、社員には信条に合わない案件をパスする権利を与える優れた企業なのだが、本書では負の面も描かれている。例えばクライアント・ファーストを徹底するあまり多くの企業側の利益が増えるよう従業員解雇を進めたこと。過去にはディズニーランドで乗り物の安全確認に必要な人員を削減し重大な事故を誘発。人員削減を解雇と呼ばずに”rightsizing”と表現してポジティブを装うやり方が批判された。またクライアントの一つである薬品メーカーPurdue Pharmaに強い中毒性のある鎮痛剤オキシコンチンの販売アップ計画を持ち掛け、莫大な売上と共に全米の中毒患者増のきっかけを作ったと言われる。
 本来マッキンゼーの社員は守秘義務を忠実に守るので情報漏洩はないのだが、NYタイムズ記者2名によってまとめられた本書には現役・OB合わせて100人が取材に協力。マッキンゼーが掲げる「世の中のために」を信じる社員の良心がそうさせたのでは、と著者は結んでいる。

 
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外店舗網を持つ書店チェーン・紀伊國屋書店の洋書専門店店長。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

「世界の本棚から」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ