平凡社ライブラリー30周年×『読書のいずみ』企画 第一弾

※平凡社の「平」の字は、二つの点が漢字の八になった旧字体のため、実際の表記と異なります。

Essay 「〈平凡社ライブラリー〉をご存じですか?」

竹内 涼子(平凡社ライブラリー編集長)
 
 皆さま、〈平凡社ライブラリー〉というシリーズをご存じでしょうか。
 本のカバーの両サイドと、背の上下にオレンジ色のマーブル模様をあしらったあの本、文庫より少し大きめのサイズの、あれです。書店や図書館でご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれません。
 この〈平凡社ライブラリー〉が創刊されたのは1993年6月。今年で30周年を迎えます。そこでこの機会に、皆さまに〈平凡社ライブラリー〉をより身近に感じていただけるよう、30年の歴史を振り返りつつ、その魅力をお伝えしたいと思います。
 まずは、なぜ〈平凡社ライブラリー〉が生まれたか、ということからお話ししたいと思います。
 平凡社では1914年の創業以来、数十年おきに百科事典を刊行してきました。今はウィキペディアのようなインターネット上のデータベースもあり、百科事典といってもなじみがうすいかもしれませんが、インターネットがない時代には、何かを知りたいと思ったら百科事典、というように、百科事典はまず最初に情報を得る手段の一つでした(私が入社した頃も、まだインターネットはありませんでしたので、何か知らないことがあって周りに聞くと、すぐに先輩編集者が百科事典を引いて教えてくれたものでした)。全30巻以上におよぶ大冊、執筆者は各分野における精鋭ばかり。百科事典とは、まさにあらゆる分野(百科)において蓄積された知見のエッセンスを集め、専門家以外の人にもわかりやすく示した、知の宝庫といえます。そんな百科事典の最新版を平凡社が刊行したのが1988年。百科事典編集の傍ら、様々な分野の一線の研究に触れ、多くの執筆者との繋がりを深めた編集部では、単行本の刊行にも一層力を入れるようになります。
 時を同じくして、出版界では、値段も手ごろで、書店の棚にシリーズとしてまとめて長く置いてもらえる文庫化の動きが加速し、新しいシリーズが次々と創刊されました。今はもうない〈岩波同時代ライブラリー〉〈NHKライブラリー〉〈小学館ライブラリー〉など、文庫(150ミリ×105ミリ)より少し大きめの「ライブラリー」サイズ(160ミリ×110ミリ)のシリーズが次々と生まれたのもこの頃のことです。
 平凡社もその流れに乗り、単行本として刊行してきた数々の本を、よりたくさんの方に届けたい、ということでペーパーバック・シリーズの創刊を決めました。論文や大部な翻訳書も多いので、判型は文庫より大きめで文字もたくさんはいる「ライブラリー」判でいこう!——ということで、1993年6月、西郷信綱『古代人と夢』や、網野善彦『異形の王権』、エドワード・サイードの『オリエンタリズム』を含む15冊で〈平凡社ライブラリー〉がスタートしたのでした。
 その後、巻数が増えるにつれ書目もより多様になり、既刊本の再版だけでなく、『丸山眞男セレクション』『藤田省三セレクション』といった新編の評論集や、東雅夫さんによる宮沢賢治『可愛い黒い幽霊』や江戸川乱歩『怪談入門』などの新編怪異小品集、『ゲイ短編小説集』『レズビアン短編小説集』やまい短編小説集』といった新編新訳のアンソロジーなども刊行するようになります。これらに収録されているのは著名な著者ばかりですが、従来読まれてきたのとは異なる文脈におくことで新たな魅力が見え、現代にふさわしいものとして再読することができます。
 また、ダーウィンの最後の論文『ミミズと土』の新訳や、デリダの『グラマトロジーについて』に英訳者であるガヤトリ・C.スピヴァクが寄せた序文の新訳『デリダ論』なども刊行しました。これらは、短いけれどもその著者の思考のエッセンスが詰まっていて、入門書としても読める秀作です。
 さらにプルードン『貧困の哲学』やサルマナザール『フォルモサ』など、書名は知られてはいても、日本語で読むことができなかった名著・奇書の翻訳も出しました。
 複数巻ものでは、『中世思想原典集成 精選』がありますが、これは『中世思想原典集成』(全21巻、定価183,160円(税込)の中から選りすぐりの文章を7巻にまとめ、1冊2,000円代で読めるようにしたものです。
 このように、〈平凡社ライブラリー〉は、そもそも人文学の名著をよりたくさんの方に読んでもらいたい、というところから出発し、内容的にも、大学で学ぶ上で欠かせない古典・現代の古典を数多くそろえています。まさに、「大学生のためのシリーズ」といっても過言ではありません。
 文学・哲学・現代思想・日本史・世界史等、様々なジャンルの名著の数々。授業の合間やお友達との待ち合わせの時など、ちょくちょく棚をチェックしていただければ、きっとお気に入りの一冊が見つかるはず。
 ぜひ皆さまだけの一冊を見つけていただければうれしいです。
 
 
執筆者紹介

竹内 涼子(たけうち・りょうこ)

新入社員時代に〈平凡社ライブラリー〉創刊メンバーに。9年前に戻ってきました。白川静先生の本や翻訳書なども担当しています。営業S田とTwitter(@Heibonsha_L)やってます。ぜひフォローしてみてください。

 
 

平凡社ライブラリー 竹内編集長おすすめ!


『増補 憲法は、政府に対する
命令である。』

C.ダグラス・ラミス
定価1,100円(税込)
購入はこちら >「憲法とは、政府が従うべき最高規則であり、国民ではなく、国会議員や政府にこそ、日本国憲法を遵守する義務がある」。そもそも憲法とは何か、護憲・改憲はそれぞれ何を意味するかがよくわかる。選挙に行く前にぜひ。

『30周年版 ジェンダーと歴史学』
ジョーン・W.スコット〈荻野美穂=訳〉
定価2,420円(税込)
購入はこちら >「男は〜、女は〜」という慣習実践の積み重ねが、やがて強固な社会制度となって差別的権力構造を生み出してゆく様を丹念に辿り、歴史や社会の強力な分析手段としての「ジェンダー」を広く世に知らしめた画期的名著。
 

『自分ひとりの部屋』
ヴァージニア・ウルフ〈片山亜紀=訳〉
定価1,320円(税込)
購入はこちら >女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分一人の部屋を持たねばならない——女子学生に向けた講演をもとに、ものを書こうとしてきた女性たちの苦難と葛藤を綴った名随想。女性の未来への励ましと優しさ溢れる一冊。

『開かれ ―― 人間と動物』
ジョルジョ・アガンベン〈岡田温司+多賀健太郎=訳〉
定価1,430円(税込)
購入はこちら >人間と動物の交錯する場を振り返り問い直す時、そこには死の判定や臓器移植といった医学的・倫理的な問題や、強制収容所や難民をめぐる政治的・法的な問題が立ち現れる―― 行き詰まる世界を新たな視点から考える入口に。
 

『少年愛文学選』
折口信夫、稲垣足穂ほか〈高原英理=編〉
定価1,980円(税込)
購入はこちら >武者小路、乱歩、川端ら近現代日本の男性作家たちによって書かれた、少年が少年を愛する物語15編。少年愛文学は明治末から昭和半ばの国家的・家父長的暴力へのアンチテーゼとして生まれた、とする編者解説も必読。
 

●平凡社ライブラリー コメント大賞を開催中です●

全国の大学生協で開催中の「平凡社ライブラリー 創刊30周年記念フェア」にあわせて、
平凡社ライブラリーに限定した感想コメントを募集しています。(開催期間:2023年5月8日~8月31日)
詳細・ご応募は下のボタンからどうぞ!

平凡社ライブラリー30周年✖️『読書のいずみ』企画 平凡社ライブラリー コメント大賞

 


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ