「実際には行っていない国」編
つい最近、世界一周旅行からようやく帰国しました。とはいってもそれは、気づけば地球を一周していた私が、これまで旅した国々の文化や歴史をたどる「読書での旅行」です。
今回は、そのなかから、実際には行っていないものの、勝手に寄り道して見つけた面白かった本を2冊紹介します。
『悪しき愛の書』
フェルナンド・イワサキ
〈八重樫克彦、八重樫由貴子=訳〉
『悪しき愛の書』
作品社/定価2,420円(税込)
南米文学というと、私には、ボルヘス(アルゼンチン)、ガルシア・マルケス(コロンビア)、バルガス・リョサ(ペルー)、ロベルト・ボラーニョ(チリ)といったザ・文学という分厚い壁がありました。
そこで、もっと気楽に読める南米文学を探していたなか、出会うことができたのがこの本です。
ラブコメ的な失恋物語にもかかわらず、仰々しく語られる本書。その軽妙な内容と堅めな文章との取り合わせは、まさに絶妙です。いかにもうまくいくような盛り上がりをみせるものの、最終的にはふられてしまう毎回のお間抜けなその展開。やはり笑ってしまいました。
そんな、失恋した女性の名前が各章のタイトルになっている全10章の本書ですが中でも私が最も好きなのが、第10章の失恋。果たして、主人公の惨敗ぶりとは?
『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』
ミア・カンキマキ〈末延弘子=訳〉
『清少納言を求めて、
フィンランドから京都へ』
草思社/定価2,200円(税込)
この本は、またしても見つけてしまった、出会ってしまったと感動した、まさしく私の心臓がぎゅっとなる本でした。
少女時代、「いとをかし」の文章を一度は真似する清少納言と、自分ひとりの部屋を持ち、本を書き、そのお金で旅することを女性たちに勧めたバージニア・ウルフという憧れの女性二大巨頭が合体したら、こんな素敵なエッセイになるとは!
とはいえ、本書の内容は、常に清少納言に「セイ」と話しかけるちょっと不思議ちゃんなアラフォー女性の著者が、日本語がわからないまま快適とはいえないゴキブリハウスで日本に長期滞在する無謀さもあるうえ、邦訳が少ないフィンランド語で書かれた書籍業界的にはマイナーな分野であるノンフィクション・随筆というマニアックな内容です。そのため、このような本が出版されたことに、私は感謝さえしています。
しかも、読み始めてみると、著書の考えていることは、至極真っ当。非常に論理的で、共感しかありませんでした。たとえば、清少納言の正体を追っていると必ずぶちあたる紫式部の存在。紫式部の方が、世界では比べものにならないくらい注目されていることへの疑問や千年以上前の日本では、女性たちのサロンや女性による文学が存在したことへの著者の感動など。まさに本書は著者が称する「自伝紀行文学」なのです。
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
2004年入協。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著書に『東大生の本の使い方』(三笠書房)。間もなく『読んで旅する海外文学』(大月書店)が刊行の予定。
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