気になる! ミニシアター

 

ミニシアターとは?

 大型ショッピングセンター等に併設されるシネマコンプレックス(シネコン)は、スクリーン数が多く、上映されている作品のほとんどが商業的な成功を期待される大作映画だ。
 今回、紹介したいミニシアターは、スクリーン数が少なく、上映されている作品のほとんどが作家性・アート性が強い小規模映画だ。僕は、ここ数年でミニシアターの虜になっている。あの暗闇の世界は、時に困惑させ、時に楽しませ、時に勇気づけてくれる。
 
 

初めてのミニシアターの話

『永遠に僕のもの』
【DVD】発売中 1,257円(税込)
発売・販売元:ギャガ
©2018 CAPITAL INTELECTUAL S.A / UNDERGROUND PRODUCCIONES / EL DESEO
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 上手くなじめなかったサークルとバイトを辞め、ほとんどの時間を1人で過ごしていた大学2年の春に初めてミニシアターで映画を観た。作品は、孤独な連続殺人犯を描く「永遠に僕のもの」だ。
 画面から目を背けたくなるほどの猟奇的な殺人行為を続ける主人公に不快感を抱くと同時に、彼の視線や表情から垣間見える、心の奥底の寂しさに僕は共感してしまっていた。この映画は、主人公が共に踊りたかった相手の部屋で、1人ダンスをする映像の後、本作のモデルとなった事件のニュース映像が流されエンドロールに入る。
 彼のダンスに自分を重ねた事実と彼に理不尽に命を奪われた人がいるという現実に戸惑いながら映画館を出たときの感覚はどう表現していいのか今でもわからない。
 

久々に行ったミニシアターの話

『スウィング・キッズ』
Blu-ray&DVD 好評発売中
【デラックス版 Blu-ray】5,720円(税込)
【デラックス版 DVD】4,620円(税込)
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
©2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
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 緊急事態宣言後、最初にミニシアターでみた作品が「スウィング・キッズ」だ。
 朝鮮戦争が起きているなか、収容所で働くアメリカ軍のアフリカ系アメリカ人ジャクソンは、上司の命令で、捕虜になったアジア系の人々とタップダンスチームを結成する。人種や立場は違うが、同じく抑圧されている者同士が連帯していく過程が生き生きと描かれる一方で、イデオロギーの大きな対立である戦争の影が押し寄せてくる。
 物語の後半、政治的な策略が蠢くなか、彼らが練習を積み重ねてきたタップダンスを披露する。
 ステージの上で、ジャクソンは不毛なイデオロギー闘争を続ける体制に対して「ファッキン、イデオロギー!」と怒りの声をあげる。その叫びから始まる圧巻のタップダンス。
 悪化していくばかりで先の見えない状況。こんな時こそ繋がらないといけないのに生じる分断。映画、音楽、踊りといったエンターテインメントに呑気に触れていいか迷ってしまう。彼らと同じような葛藤に飲み込まれそうな日々が続くコロナ禍で、なんとか逃げ出すように向かったミニシアターで映し出されたダンスシーンに、当時の僕はとてつもなく救われた。
 
 

最近のミニシアターの話


『カモン カモン』
Blu-ray&DVD好評発売中 6,600円(税込)
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 
  ©2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.
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 昨年ミニシアターで観て一番よかったのが、「カモン カモン」だ。
 ラジオ番組の制作者ジョニーは、9歳の甥っ子ジェシーと共にアメリカの各地に住む子ども達にインタビューをしに行くことになる。
「カモン カモン」は、ジョニーとジェシーが心を通じあわせていく過程を特に大きな事件が起きることなく丁寧に描いている。
 当初、ジョニーは甥っ子のジェシーにあくまで「面倒を見てあげる相手」として接する。だから、面倒を見ないといけないジェシーに段々とイライラして、声を荒げてしまう。上手く接することができないことを妹に相談していくなかで、ジョニーは自分が怒ってしまったのは、言うことを聞いてくれないジェシーが何をするか分からないのが不安で、怖いからだと気づく。
 先生、親が上下関係の優越性や「あなたを思って」といった大義名分を盾にして、理不尽な説教をするのは、思い通りにしたい/しないといけないと思い込んでいるのに、それができない弱さや不安を隠すためだ。
 ジョニーはジェシーに謝る。
「声を荒げてしまったのは、守ってあげないといけない君が何を考え、何を感じているのか分からなくて不安なんだ」と。
 僕は、お互いに弱さをさらけ出しながら少しずつ距離を縮めていくジョニーとジェシーを見ていて一刻も早く映画館から飛び出したくなった。
 普段は隠している悩みや傷を誰かに伝える時の緊張感、抱えていた何かが無事に分かち合えたときの喜び。日々の中で直面する不安や弱さを信頼できる友人と共有することの尊さ。暗闇の世界を飛び出して、自分の今いる世界で本作が思い出させてくれる数々の瞬間を味わいたくてたまらなくなったのだ。
 シネコンや自宅で映画を観るのも好きだけど、忘れられない映画体験ができるのはミニシアターだと思う。それは、目の前の映像をみることのみが許される状態での鑑賞ができ、商業的な成功に過度に縛られていない作家性の高い作品、馴染みのない国の作品と出会えるからだ。
 
 

個人的ミニシアターの楽しみ方

 オススメのミニシアター鑑賞方法は、鑑賞する作品のレビューを全く読まず、1人で複数回いってみることです。
 アート性・作家性の高い作品は能動的な態度が必要である以上、どう感じたかは個人が普段から考えていることや過去の経験に大きく影響します。他人の評価は見ずに観たほうが、個人的な映画体験を楽しめます。
 また、鑑賞後にどんな思いを抱くのかがわからず、作品によって不快感だけが残ったり、自己嫌悪に陥ったりして、人と話したくなくなることがよくあります。なので、誰かと行くのはオススメしません。
 色々書きましたが、僕はミニシアターで観る作品の5本に1本くらいは内容がよく分からないまま終わったり、途中で寝ちゃったりしています。なので、たまたま初めの作品が楽しめなくても、もう1回くらいはチャレンジしてみてください。
 
 
執筆者紹介
 

光野 康平(みつの・こうへい)

名古屋大学法科大学院2年生。大作映画も好きです。MCU作品は全作品を観ますし、去年は「トップガン マーベリック」「THE FIRST SLAMDUNK」「RRR」に熱狂しました。そして、今年はミッションインポッシブルシリーズ最新作が楽しみで仕方がない!

*「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。


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