リレーエッセイ
高津 咲希(読者スタッフ・千葉大学3年生)

P r o f i l e

高津 咲希(たかつ・さき)
千葉大学3年生。
大学1年生の時に「読書のいずみ」に出会い、読書体験を共有する楽しさを知った。大学では分子細胞生物学や免疫学の講義が興味深い。最近は、あいみょんの「愛の花」にハマっており、ついつい口ずさんでしまう……。
 
 春休みにミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』を観に行った。観劇後に感じたほんのり心温まるような幸せをお裾分けすべく、ここで少し語りたい。
 原作は2007年公開のイスラエル・フランス合作映画で、その後ブロードウェイ・ミュージカルとして上演されると2018年のトニー賞10冠に輝いた。そしてついに今春、日本初上演の運びとなったのだ。
 物語はエジプトの警察音楽隊がイスラエルの辺境の街に迷い込むことから始まる。隣国同士のエジプトとイスラエルは中東戦争で幾度も敵対した歴史があるうえに、互いに全くの異文化なので、音楽隊と街の人たちの出会いはぎこちない雰囲気だったが、彼らはやむを得ず一晩を共に過ごすことになる。
 音楽隊ということで、様々な楽器が登場した。ウードやダルブッカなど中東の楽器は初めて名前や音色を聞くものばかりだった。また、バイオリンやクラリネットなどの馴染みのある楽器もクラシックとは異なる演奏法でアラブ音楽を表現しているそうで、語りかけるような、哀愁漂う繊細な音色に心を打たれた。そして、会話では語られない登場人物たちの心の声が歌となって観客にだけ届くとき、何だか切ない気持ちになった。
 描かれたのはたった一夜の出来事。大きな事件が起こるわけでも、登場人物たちが国境を越えた唯一無二の友になるわけでもない。ただただ、他愛のない話をして共に時間を過ごす。でも、その何気ない会話によって心なしか人々の気持ちが前向きなったり、少し報われたり、背中を押してもらえたりするのだ。
 夜明けの別れの場面は意外にもあっさりしており拍子抜けした。彼らはもう二度と会うことはないだろう。ありふれた日常の延長にある偶然の出会いと心の交流を描いた本作は、私にとって忘れられない演劇の一つとなった。
 私は演劇を見たら必ずと言って良いほどプログラムを買う。作品の歴史的な背景や、舞台への思い、苦労したこと、役作りや音楽などの舞台裏を知ると見方も変わる。例えば今回は、海外の作品を日本人キャストで上演したため、言語や国民性の違いが台詞の間の取り方などの演出にも影響したそうだ。英語をそのまま日本語にすれば良いというわけでもないのだ。奥が深い。
 劇場という限られた空間があらゆる世界に様変わりする。生のお芝居の独特の緊張感と臨場感はたまらない。私は演劇が大好きだ。
 

次回執筆のご指名:木村 壮一さん

4月から読者スタッフの木村さん。着任早々いきなりのご指名で恐縮ですが、木村さんの趣味がとても気になります! ぜひご紹介ください〜♪(編集部)

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