読書で世界一周②

「1冊で周遊」編

 前回から始まった読書での世界旅行。今回は、1冊でも周遊した気になれる何とも贅沢な本に出会いましたので、その中から2冊を紹介します。

 

『20ヵ国語ペラペラ』

種田輝豊
『20ヵ国語ペラペラ』
ちくま文庫/定価880円(税込) 購入はこちら >

 本書を読んでいると、やはり、大学生にどうしてもお勧めしたくなり、ポップの文面ばかりが思い浮かんできました。
 例えば、「もし、学生時代に読んでいたら、今頃私も、20か国語ぺらぺらだったかも!?(アラフォーの読者より)」とか。
「20か国ぺらぺらの著者にも、もちろんあったビギナー時代。英語の文法の本があることも知らず、自作ラジオで外国の放送をきいて、語学学習をスタートした著者は、いかにして言語マスターになったのか?」とか。
「7か国語話せても天才ではない!? 何か国語話せても、受験も就職も一苦労!? カメ方式はもう古い!? 語学の勉強は、大きなベルのめざまし時計をもったウサギ方式でのぞめ!? それぞれの真意とは!?」などなど。
 まさに言語の世界一周をやり遂げた著者が明かす人生の物語や外国語勉強法、言語への考え方など、どこを読んでも興味深いです。初版は1969年でしたが2022年5月にちくま文庫で復刊されました。
 

 

『絶縁』

村田沙耶香、アルフィアン・サアット、ハオ景芳ほか
『絶縁』
小学館/定価2,200円(税込) 購入はこちら >

 日本・韓国・中国・香港・台湾・チベット・タイ・ベトナム・シンガポールといったアジア9都市9人の若手作家たちが、「絶縁」をテーマとして書いたアンソロジーですが、その中からどの短編を紹介するべきか、それだけでもかなり迷います。
 まず、村田沙耶香さんの「無」から始まる本書ですが、多くの人たちが「無」ブームにはまる様子は、軽々しくブームにのめり込む人たちへの懐疑的な視線の描写も相まって、今回も村田ワールド炸裂です。
 とはいえ、人間の感情とともに建物が色を変える世界を舞台とした中国のハオ・ジンファン「ポジティブレンガ」(大久保洋子=訳)にもハマりましたし、チベット文学もシンガポールの作家アルフィアン・サアットさんも以前から好んで読んでいましたので、今作も光景が思い浮かび印象的です。
 また、何より、連明偉「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」(及川茜=訳)は、台湾との国交がある南米を舞台に、台湾人と現地の少年たちが卓球を通して交流する深い物語になっている上、最後の「絶縁」(チョン・セラン〈吉川凪=訳〉)はちょっとした価値観の違いから人間関係に溝ができる文句なしの韓国フェミニズム小説です。やはり、すべてがお勧めのアンソロジーです。
 
執筆者PROFILE
重松 理恵(しげまつ・りえ)
 2004年入協。広島大学、東京大学、名古屋大学生協など各大学生協での書籍担当者を経て、現在、大学生協事業連合書籍商品課に在籍。著者に『東大生の本の使い方』(三笠書房)、最新刊は『読んで、旅する 海外文学』(大月書店)がある。


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