読書マラソン二十選 175号


 第18回全国読書マラソン・コメント大賞のナイスランナー賞授賞作品の中から、夏休みにじっくり読んでほしい作品を20点ピックアップしました。気になる本がみつかったら、旅のおともに、エアコンの効いたお部屋で、カフェで……みなさんのお好きな場所で、お楽しみください。

 


  • 『愛じゃないならこれは何』
    斜線堂有紀/集英社購入はこちら > ずっと殺され続けている。全部奪われている。骨の空洞に、愛が詰め込まれている。
     帯に恋愛地獄小説集と書かれるように、この本に収録されている5つの短編小説は、「愛」という言葉にある美しさや純粋さではなく醜さとどうしようもなさをこれでもかと詰め込んでいる。一番心に残った言葉として選んだのは、「健康で文化的な最低限度の恋愛」という作品から抜き出したものだ。好きの気持ちから相手に近づくために好きでもないものを好きだと取り繕い、本当に好きだったはずの趣味やその情熱から獲得した仕事への関心を急速に失っていく主人公の様子やその描写は、人間の脆さを見せつけられるようでゾクゾクとした面白さを感じた。

    (東京学芸大学/とろうさ)
     


  • 『モノクロの夏に帰る』
    額賀澪/中央公論新社購入はこちら > タイトルと表紙の絵からは想像もできない物語でした。戦争が題材とわかり、読み進めていくと今まで私が考えられていなかったようなことばかりでした。私は第四章の高校生たちと同じです。しかしこの本を読んだことで、これから知ることはできる、そして知ったことをこれからの未来に生かしていくことはできると考えることができました。戦争だけではありません。これから先自分の体験していないことを体験している人と会っても、その人やその背景をしっかりと知り、他人を想っていきたいと、強く思います。

    (法政大学/ひまわり)


  • 『彼らは世界に
    はなればなれに立っている』

    太田愛/KADOKAWA購入はこちら > 怖かった。とても怖かった。なぜだか涙がとまらなかった。
     私はいったい何をしているんだろう。
     単位のためだけにした勉強は何も身についていない。サークルへのモチベーションも上がらない。ただ適当に生きているだけ。
     ほんとうにそれでいいの?
    〈始まりの町〉の住人たちに、問われている気がする。
     自分の頭で考えなくてはいけない。

    (東京農工大学/ぺんぎん)
     

 

  • 『方舟』
    夕木春央/講談社購入はこちら > 沈みゆく方舟から生きて脱出するためには、一週間のうちに誰か一人犠牲者を選ばなければならない。その犠牲者は、この館の中で起きた殺人事件の犯人であるべきだ。
     登場人物のみならず、無論読者もそう考えるだろう。
     しかし、その犯人を愛する人がいたのなら? そして、犯人でない人の中に、誰にも愛されていない人がいたとしたならば? あなたなら、誰に残ってほしいと願うのか。
     ミステリー初心者から、ミステリーにハマり始めたという方にオススメの一冊。貴方はきっと読了後、人間とは自己愛を超えて他者を愛せないことを知るだろう。

    (名古屋大学/天空城)
     


  • 『明日の食卓』
    椰月美智子/角川文庫購入はこちら > 物語は、「イシバシユウ」という名前の子どもが虐待を受けている場面からスタートする。その後読者は、「イシバシユウ」という名前を持つ数名のこどもの生活を覗く。名前が同じだけで、住んでいる場所や家庭環境は全く違う。果たして、虐待されているのはどの「ユウ」なのか……。
     登場する「ユウ」の中の1人が虐待を受けているということを先に知っているからこそ、それが誰なのかを探してしまう。しかし、探せば探すほど、虐待はどの家庭でも起こり得ると強く感じた。この本は、家族という関係の強さと危うさを教えてくれた1冊だと思う。

    (愛知教育大学/むー)
     


  • 『この恋は世界でいちばん美しい雨』
    宇山佳佑/集英社文庫購入はこちら > この本には「有限の人生を精一杯生きろ」という壮大なメッセージが込められていると感じた。人はみな、いつかは命が尽きることを知っている。だが、多くの人は必ず「明日」が訪れるということを信じて疑わないだろう。人生の終わりが見えたときに後悔はないと言い切れる生き方は難しいと思う。少しでも満足した生き方をするには多少困難なことでも、逃げずに目の前のことに全力でぶつかっていくしかないのだろう。「明日でいっか」これが口癖の私にとって鞭を入れるような作品だった。日々の自分と向き合うきっかけをくれる一冊。

    (長野県看護大学/れもん)


  • 『ののはな通信』
    三浦しをん/角川文庫購入はこちら > 私が初めて失恋をしたとき、忘れることに重きを置いて「すべては時間が解決してくれる」と日々感じたのをよく覚えている。しかし、この小説は時間が経ったからこそ生まれる痛みや、環境が変化したからこそお互いを分かり合える喜びに焦点を当てながら読者に寄り添ってくれる。
     この本は全ての文章が「のの」と「はな」の手紙のやりとりからなる。無邪気にお互いを愛し苦悩する高校時代の書簡をともに追っている分、後半での成長した2人が印象に残る。お互いの幸せを願いながら、過去を糧にそれぞれの道を二人が歩む姿に勇気づけられる。

    (東京農工大学/さきち)
     


  • 『彼女は頭が悪いから』
    姫野カオルコ/文春文庫購入はこちら > この本のあらすじを読んだとき、彼女が世間知らずだったが故に起きた事件だと思った。なんせこのタイトルだ。しかし、読み始めると、彼女は家事の手伝いや弟妹の世話を厭わず行なう純粋な少女であった。その彼女は被害者であるにもかかわらず、勘違い女として世間から見られてしまう。タイトルに惑わされた私も例外ではない。そして、この原因は学歴だけではなく性別や年齢、国籍の違いもあるだろう。このような先入観によって、人を判断することはよくあることだ。この本は、自分の思い込みではないか、今一度問い直すきっかけになるだろう。

    (愛知教育大学/Chino)
     


  • 『ただいま神様当番』
    青山美智子/宝島社文庫購入はこちら > 人生って、単に楽しいからやるって、それが一番の決め手だよ。
     あぁ、その言葉がほしかったんだ。それは、私自身が誰かに言ってもらいたい言葉、ということではなく、日々無意識に抑え込んでしまっている決してきれいではない感情を、私にとって痛くない言葉で優しく包み込んでくれる、ということだ。他人や環境はそう簡単には変えられない。でもそれと同じくらい、自分を変えることだって難しい。だからまずは、意識の変え方を“知って”みませんか? ただ知るだけ、が日常に隠れた新しい色を見つける手掛かりになる。“神様当番”の意味が、5つの物語を読み進める中でじわじわと心に染みていった。

    (電気通信大学/ポム)
     


  • 『いなくなれ、群青』
    河野裕/新潮文庫購入はこちら > 読むたびに新たな発見がある。
     例えば言葉について。主人公である七草は個人的な感情を人に話すことを避けている。言葉は感情を言い表すには不完全であると彼は知っているのだ。言葉を丁寧に扱いたい。他人の気持ちを簡単に分かった気になってはいけない。そう強く思った。
     言葉が不完全であるのなら、小説の中でどうやって感情を伝えるのか。この本では、美しい比喩表現を巧みに使い分け、普通の言葉では言い表せない複雑な感情を読者に想像させる。四周目を読み終えてまた一歩、七草の感情に近づくことができたと思う。

    (北海道大学/フミアキ)
     


  • 『流浪の月』
    凪良ゆう/創元文芸文庫購入はこちら > 心に刺さる作品とはこのような作品を言うのであろう。登場人物の複雑な心情を、人物の目線と、ナレーションによる俯瞰した目線を巧みに駆使して描いている文章が秀逸。
     我々は正義と称して悪を決めつけているだけなのかもしれない。多様性や個性の重視が叫ばれる一方で異端なモノへの寛容さが欠けていると感じる昨今の世の中を生きる私達へ、多面的な視点を持つことの大切さを改めて教えてくれる。誰が、どこを、どう読むかによって全く異なる作品になり得るだろう。何度読んでも違った味わい方ができるに違いない。今、読まれるべき傑作。

    (名古屋大学/ポンコツ仮面)
     


  • 『正欲』
    朝井リョウ/新潮文庫購入はこちら > まともな人間は、マジョリティの岸にいるが故に、不安を確かめ合う。マジョリティで居続けないと、という不安。世間から目を背けられるマイノリティ側の気持ちも想像せずに、多様性という「優等な言葉」を使う。性は先天性でもあり、事件等により後天的に変わることもある。この現代で、誰もがマイノリティになり得る、なんなら誰もが違った信条を持つという意味で既にマイノリティである。想像を超えて認めあうなんてことさえ、究極の理想なのかもしれない。そんな現実の見にくい側面を突きつけられる作品だった。

    (名古屋大学/Juri)
     

 

  • 『生を祝う』
    李琴峰/朝日新聞出版購入はこちら > 「親ガチャ」が社会問題となりつつある昨今。胎児が「親ガチャ」の結果を知り、生まれるかどうかの選択ができ、胎児の「合意なき出生」は重罪という社会が舞台のこの作品において、産まれる側、産む側、そして婚約者から見える景色はこんなにも違うものなのかと驚かされた。長い時間をかけて育ててきた命を、まだ何も知らない胎児本人が出生を決めるなんて、と思うかもしれないが、もし胎児にも人権が与えられているならば「合意なき出生」は単なる親のエゴで、人権を全面から否定する、修復不可能な究極の行為である。

    (東京学芸大学/ε-籠包)
     


  • 『地球星人』
    村田沙耶香/新潮文庫購入はこちら > いつも私はみんなと同じ「地球星人」になることに必死だった。「普通」に対する違和感を突き詰めても、待っているのはとんでもない孤独だと思っていた。この本は、そんな私を、うまく飲みこめなかった過去ごと優しく消化してくれた。あたたかな闇を湛える宇宙と同質になれたような、ようやく何か、まだ見ぬ誰かと一緒になれたような気持ちになった。常識に当てはまらないことが孤独なのではない。それに近づくためにありのままの自分をどこかに置いていってしまうことが孤独だったんだ。そう思えた本だった。

    (北海道大学/牛肉の手羽先)
     


  • 『サロメ』
    原田マハ/文春文庫購入はこちら > こんなにも人に対して狂おしく求めたことは、私はないなと思った。それでも、誰かに対して強く嫉妬する様子や深く愛情を持って接する行動というのはものすごく共感したし、誰しもが持っている感情なのではないかと思う。
     だけど、世紀末のロンドンで起こった本作の事件ではより強い嫉妬が渦巻いていたと思う。姉弟と作家とその恋人で作られる四角関係、その渦中には必ずサロメがいるのだ。きっとこの四人は自らサロメに口づけられたのだろう。この耽美な物語をどこか美しいと感じる私も、サロメに口づけられたのだろう。

    (立命館大学/黒猫)
     


  • 『ザリガニの鳴くところ』
    ディーリア・オーエンズ〈友廣純=訳〉/
    早川書房購入はこちら > 憎悪や親しみ、恋慕が、湿地に独りで住む強かでありながらどこか脆い少女、カイアと交わり、溶け合い、そして過ぎ去っていく様が、静かに胸を打つ。カイアの目を通して語られるかすかにきらめく自然描写や、ときおり彼女が胸の中で諳んじる詩も魅力的。波乱の展開は無いが、ボートで波に揺られるようなストーリーはきっと染み入る読書体験になるはず。読んだ後は大切な誰かに会いたくなる、そんな物語。

    (愛知県立大学/肘木)
     


  • 『菊と刀』
    ベネディクト〈角田安正=訳〉/
    光文社古典新訳文庫購入はこちら > 日本で生まれ育った私には、日本において大方共通しているしつけのあり方を客観視することは難しい。ましてやその是非などはなおさらだ。私にとって、言語化が極めて難しい感覚的事柄を、ベネディクトは淡々と言葉にしていく。時折それはあまりにも端的な言葉に集約され、読者の一部に違和感をもたらすが、この違和感こそ、「日本人」の思考が「アメリカ人」にどのようにして不可解だと受け取られていたかを表わすのではないか。あくまでベネディクトは基本的な立場を自身のカルチャーに据えて論じているため、客観性を得るには良い本だ。

    (法政大学/くるみ)
     


  • 『国境のない生き方』
    ヤマザキマリ/小学館新書購入はこちら > 私は安全圏に居続けて、傷つかないように生きている。ずっとこのままで良いと思っていた。
     しかし、ヤマザキマリさんのアクティブな人生に触れ、そんな自分を心の底では退屈に感じていると知ることができた。それだけでもこの本に出会えて良かったと思える。特にさとり世代の典型である私は「省エネで生きると損をする」という言葉を重く受け止めた。経験値がなく、大事な場面で自分を頼れなくなるから損をする。いざというときにブレブレの自分しかいないのは恐ろしい。未来の自分のために省エネ人生はここまでにしよう。脱・さとり世代!

    (法政大学/ボイヌン)
     


  • 『ちぐはぐな身体』
    鷲田清一/ちくま文庫購入はこちら > 服を着るということ。「他人の眼にどんなふうに映っているか?」に意識を向けること。時代や規範に対する反発や逸脱、趣味や趣向を表現し、「他者の他者としての自己」を確立するということ。つまり洋服について考えることは自分と向き合うことなのだ。それこそデートの前の一人ファッションショーみたいに。もちろん私も他人の眼が気になるし、できることなら好かれていたいと思うけれど、自分の好きに嘘はつきたくないと思う。決して自己が一貫している必要なんてなくて、どんな自分も自分であるってこと。今日も好きをまとっていたい。

    (大阪大学/にいはちさん)
     


  • 『居るのはつらいよ』
    東畑開人/医学書院購入はこちら > 現実が「不在」を突きつける。だから、最終回は寂しくて、つらい。だけど、最終回は同時に与えもする。
     このような視点があることに驚き、その後じわじわと心に沁み込んできた。何かを失ったときにあるのは喪失感だけではなく、その喪失感を乗り越えてから新しいものを自身の中に生み出す機会もあることを教えてくれる。
     沈んだ気持ちのときに、ほんの少し前を向こうと思わせる言葉だと感じた。

    (名古屋市立大学/烏龍茶)
     

  • 2023年度 第19回
    全国読書マラソン・コメント大賞
    開催期間:
    2023年7月3日~11月24日

     今年も全国読書マラソン・コメント大賞を開催します。応募用紙は大学生協のお店にご用意しています。webでの応募も受け付けております。
     あなたの素晴らしいコメント力で、お気に入りの本を紹介してください。
     たくさんのご応募をお待ちしています。

     

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