Reading for Pleasure No.55

英単語がもつ「独自の意味世界」を味わい
英語が「わかる楽しさ」を経験できる辞典

水野 邦太郎
水野 邦太郎Profile

●今回ご紹介の本●
政村秀實
『図解 英語基本語義辞典』
アドスリー 定価3,080円(税込)
ISBN : 9784904419830
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 英会話の約70% は「中学校で学ぶ 100語」で占められていることがコーパス言語学の研究でわかっています。その100語の単語の多くは、英和辞典を引くと何ページにもわたって様々な場面・状況で使われることが説明されています。そして、各場面・状況に応じて、ひとつの単語にいろいろな意味 (日本語訳) が当てられています。このような単語は「多義語 (複数の意味を持つ単語)」と呼ばれています。例えば、ある英和辞典はhave の説明に「4ページ」を割いて、「持っている、所有している」「(思い・考えなどを)心に持っている、いだく」「(仕事などが)ある」「食べる」「(経験として)持つ」「〜する」「(病気に)かかる」「させる」「してもらう」……といった《日本語訳》を列挙しています。have の使い方を学ぶのに、私たちはひとつひとつの日本語訳をバラバラに丸暗記していくしかないのでしょうか。

 上記のような疑問に答えてくれるのが、今回、紹介する『図解 英語基本語義辞典』です。 この辞典は、ひとつの単語がもつ「核」となる意味のイメージを描き出しています。そして、そのイメージ図を通して、複数ある意味の「連続性」や有機的な「関連性」が示されています。換言すれば、イメージ図からひとつの単語がもつ「独自の意味世界」 と「意味の全体像」を把握することができます。

 そこで、多義語のhave のイメージ図と例文を挙げて、have の意味世界とhave の様々な使い方をみてみましょう。
 

主体に対象が付随している状態にあること,
また付随の状態になること.

【図版】政村秀實:“図解 英語基本語義辞典”、P.222、アドスリー(2019)
 
 上記の have のイメージ図は「主体の近くに(主語の身近なところに)、対象 (ものや人、出来事)が、在る/くっ付いている」状態を表しています。この have のイメージを「投影」させて以下の例文の意味を捉えると、次のように理解することができます。

 What do you have in your hands? 「あなたの身近なところに(手の中に)、何がくっ付いているのか」 →「手に何をもっているのかね」
 She is going to have a baby.「彼女の身近なところに、一人の赤ちゃんがくっ付く予定である」→ 「彼女は、赤ちゃんが生まれます」
 He has started just now.「彼の身近なところに、たった今出発した状態が在る(くっ付いている)、だから「もう手遅れだ」とか「急げば間に合う」といった気持ちが込められている」→ 「彼は、たったいま出発しました」

 もうひとつ、head という名詞の使われ方のイメージを見てみましょう。
 

①頭とその働き,②物の上部,③組織体の長.

【図版】政村秀實:“図解 英語基本語義辞典”、P.222、アドスリー(2019)

① The horse I bet on won by a head.「私の賭けた馬は、頭差で勝った」
② Your company’s name is at the head of this column.「君の会社の名は、この欄の一番上のところに出ている」
I was at the head of the line.「私は列の先頭にいた」
Strike at the heads of the nail. 「くぎの頭をねらってたたきなさい」
③ Who is the head of the committee ?「誰が、委員長ですか」

 本辞典は、「中学校で学ぶ100語」をはじめとする「英単語500語」に対して、上記のような視覚化に挑んでいます。ぜひ、本辞典を読んで英語という外国語がもつ独自の「思考様式 (ものの見方・考え方)」を深く味わいながら、「わかる英語はこんなにも楽しい!」という経験をして欲しいです。

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P r o f i l e

水野 邦太郎(みずの・くにたろう)

千葉県出身。神戸女子大学文学部教授。博士(九州大学 学位論文.(2017).「Graded Readers の読書を通して「主体的・対話的で深い学び」を実現するための理論的考察 ― H. G. Widdowson の Capacity 論を軸として ―」)。茨城大学 大学教育センター 総合英語教育部准教授、福岡県立大学人間社会学部准教授、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授を経て、2022年4月より現職。

専門は英語教育学。特に、コンピュータを活用した認知的アプローチ(語彙・文法学習)と社会文化的アプローチ(学びの共同体創り)の理論と実践。コンピュータ利用教育学会 学会賞・論文賞(2007)。外国語教育メディア学会 学会賞・教材開発(システム)賞 (2010)。筆者監修の本に『大学生になったら洋書を読もう』(アルク)がある。最新刊『英語教育におけるGraded Readersの文化的・教育的価値の考察』(くろしお出版)は、2020年度 日本英語コミュニケーション学会 学会賞・学術賞を受賞。

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