読書マラソン二十選 176号


読書の秋がやってきました。猛暑で疲れた身体と脳を、活字のシャワーでクールダウンしましょう。今回も第18回全国読書マラソン・コメント大賞のナイスランナー賞授賞作品から、みなさんにオススメの20点をピックアップ。お気に入りの1冊が見つかりますように。読んだら、コメント大賞にもぜひ応募してみてくださいね。

 


  • 『エデュケーション』
    タラ・ウェストーバー〈村井理子=訳〉/
    ハヤカワ文庫NF購入はこちら > 大学って、教育って何だろう。今や日本人の2人に1人が大学に行く。大学は個人の可能性を広げることができる場だ。どんなバックグラウンドであっても大学という空間は平等に知を提供してくれる。しかし、与えられる知を受け止めることができる受け皿の大きさは千差万別だ。さて、教育は少なからず各人がそれまでの人生で培ってきた価値観を変える力を持つ。何者かになろうとするタラとそれを全力で拒む周囲の人間。変化には常に痛みが伴う。何かが変わるということは何かを捨てることだ。私たちは大学で何を学び何を捨てるのだろう。

    (関西学院大学/ウエオロ涼)
     


  • 『ハイパーハードボイルド
     グルメリポート』

    上出遼平/朝日新聞出版購入はこちら > 「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ!?」という単純な疑問から、人食い少年兵、台湾マフィア、ロシアンカルト、ゴミ山で暮らす少年などを直接取材するテレビ番組の書籍化。「ご飯を撮らせてください」という一言を印籠の如く携え、一人で危険地帯を取材するルポは臨場感に溢れている。その視線は、思想、暮らし、言語など環境は違っても人間に共通する「食べる」ということをひたすら見つめ、ページをめくるたび、日常絶対に見ることのない世界を読者に届ける。今、ここで生きている自分、そして遠くの人々を顧みたくなる一冊だ。

    (早稲田大学/みこ)


  • 『新版 いっぱしの女』
    氷室冴子/ちくま文庫購入はこちら > 今の私は、少女から「いっぱしの女」へと変化しようとする最初のタイミングを迎えていると思う。これから、恋愛や仕事、その他さまざまな人生の転機に直面し、自分が自分でいられなくなることが恐ろしい。しかし著者の氷室冴子は、他者の気づかない痛みに気がついてひとり怒ったり、変わっていく人間関係の中でそれでも揺らがない愛を信じていたり。大人の女性として強く生きながらも、鋭い感性やしなやかな心を大切にして、時に傷ついても自分の道をまっすぐに進んでいる。その姿が時代を超えていつでも私を勇気づけてくれるのだ。

    (金城学院大学/あんこ)
     

 

  • 『本屋の新井』
    新井見枝香/講談社文庫購入はこちら > 22年生きてきて、本を読む人でいたことはあっても本を売る人にはなったことがない。物語の登場人物の心情は分かっても、本を棚に並べた人が何を考えていたのかは分からない。だから、書店員さんの切実なご苦労や、それでも本を売らずにいられない「書店員根性」が垣間見える文章がたまらなく楽しく、頼もしい。本好きが「本売り好き」になれる一冊だ。この本を私のもとに届けてくれた書店員さんに感謝。この際だから行きつけの書店何軒かと、大学生協のスタッフさんたちにも(心の中で)一礼。いつもありがとうございます。

    (早稲田大学/遊娯)
     


  • 『先生、どうか皆の前で
     ほめないで下さい』

    金間大介/東洋経済新報社購入はこちら > 自分に対する自信のなさを払しょくするための方法は、他者からの承認を得ることでも大勢の中に埋没することでもなく、自分の成長を実感することだ。きついと思うのは、それだけ成長したことを意味する。楽な方へ楽な方へと流され、締め切りに追われるあまり場当たり的な行動を繰り返すうちは自分を伸ばすことはできない。いつもより一歩早く動き始めることで、結果的に冷静に自分を見つめる時間ができる。浮いたらどうしようというネガティブな妄想はすべて主観であり、ポジティブな妄想に転換することで、行動を変えられるのだと思う。

    (法政大学/クルリ)
     


  • 『学校では教えてくれない!
     国語辞典の遊び方』

    サンキュータツオ/角川文庫 購入はこちら > 小さいころから辞書が好きだった。電子辞書じゃなくて紙の辞書。開くと大好きな文字が一面書いてあって、隣を見ると知らない言葉が載っている。分からない言葉があって開いたのに、気がついたらどんどんどんどんほかの言葉に飛んでいく。まるで辞書の中を旅行しているみたいだ!
     いつどこのページを見ても楽しめる本はきっと辞書だけではないだろうか。私はこれからも辞書を手元に置いて、気軽に言葉の旅に出たい。

    (武蔵大学/素子)


  • 『人魚の眠る家』
    東野圭吾/幻冬舎文庫購入はこちら > 私は選択をすることが苦手だ。勉強や人間関係、いつのまにか正解ばかりを追い求めるようになっていた。大学からは自分一人での選択を迫られることが多くなり、頭がパンクしそうになっていた時にこの本と出会った。脳死状態となり目を覚ますことはない娘に、ひたすら愛情を捧げる母親。どの選択が正解だったかなんて誰にも分からない。今までたくさんの選択をしてきたけれど、後悔したことなんて一度もない。過去の選択があるから今がある。自分の選択に自信を持とう、そう思わせてくれる一冊だった。

    (愛媛大学/カワウ・)
     


  • 『Humankind 希望の歴史 上』
    ルトガー・ブレグマン〈野中香方子=訳〉/
    文藝春秋購入はこちら > 大講堂に教授の声が響く。「スタンフォードの監獄実験が明らかにしたのは、人間は看守の役割を与えられると、暴力的になることです。そんな恐ろしい性質が人間にはあります。」違う! その実験は捏造だ!僕は心の中で叫んだ。なぜなら、この本を読んだから。
     法律や教育で縛られた近現代。それは“性悪説”をもとにつくられた。イースター島の悲劇、ミルグラムの電気ショック実験、割れ窓理論。“性悪説”を裏付ける言説が世の中には溢れている。しかし、これらは本当なのか? 人間の本質は“善”か“悪”か。決着をつけよう。

    (北海道大学/うしーぷ)
     


  • 『とりこしふくろう』
    滑川まい/白泉社購入はこちら > 私はこの絵本に恩がある。
     毎日見えない何かと闘い、がむしゃらに勉強をし続けた高校3年生の夏、ささくれた私の心をこの物語はいとも簡単に優しく包みこんだ。
     ふくろうのおじいさんが心配することのほとんどは取り越し苦労で終わる。だからこそ、その姿は一見、滑稽にも見える。しかし、そこには誰かを思う温かな気持ちが溢れているのだ。
     大学生になった今でも、疲れた時や辛い時はつい、この絵本を開いてしまう。純粋で優しい世界が、私の荒んだ心を抱きしめてくれるのだ。
     いつも、ありがとう。

    (愛知教育大学/北極星)
     


  • 『汝、星のごとく』
    凪良ゆう/講談社購入はこちら > まさに現代を切り取ったような作品だ。情報化された社会という見えなくて広い架空の檻と、金や家族、現実というべき可視の狭い檻の二重苦のなかで私たちは生きている。スマートフォンの画面を見れば、夢や希望がたくさん詰まっている。そこから目を離すと、お金とか、環境とか、自分ではどうしようもない障害に押しつぶされる。それでも、この作品の登場人物たちは令和を生きている。彼らのように、何年かかってでも自分が生きる理由となる大切なものを見つけていきたい。

    (慶應義塾大学/nico)
     


  • 『スター』
    朝井リョウ/朝日文庫購入はこちら > ユーチューブやツイッターなどネット上で人気が可視化されていくような現代で、本当に価値があるものは何なのか、問いを突き付けられた。SNS時代、ネット時代の価値観のゆらぎに改めて気づかされる。普段自分がなんとなく感じてもやもやしつつも、曖昧にしていた部分をうまく切り取って言語化し鮮やかにみせる語り方はさすが。物を作ってネットにあげているクリエイターの人などにはきっと刺さるはず……。

    (早稲田大学/くるみ)
     


  • 『推し、燃ゆ』
    宇佐見りん/河出文庫購入はこちら > 主人公をジャニーズオタクの妹と重ね合わせ、登場人物の一人である姉視点で読んでしまった。姉の妹への態度が、まるで自分の描写のように感じられて苦しかった。それに加え、命を懸けて「推し」を推している気持ちを汲み取らず、ひどい態度を取られている主人公の苦しさが読んでいてつらかった。まさに味方がいない「絶望」状態。好きな人を推すことは自由であるが、理性を保ち、自分を見失わないでいるべきだと思った。しかし、「絶望」を感じたからこそ、人にとって家族という味方が必要なのだ。

    (東京農業大学/アオイジー)
     

 

  • 『ふしぎな図書館』
    村上春樹、佐々木マキ/講談社文庫購入はこちら > 大きな秘密が隠された広い図書館は独特で不気味な世界に包まれている。この世界観に浸かってしまうと感情がジェットコースターのように目まぐるしく動く。後半に近づくにつれて、ジェットコースターは勢いを増し、わたしは振り落とされそうになりながらも必死にしがみつく。最後までスピードを緩めないそのジェットコースターがゴールに辿り着いたとき、ドキドキとワクワクを全身で浴びきったわたしは、やっとひとつ息をついて本を閉じた。

    (京都大学/佐藤さと)
     


  • 『タスキメシ』
    額賀澪/小学館文庫購入はこちら > 表紙を開くと飛び込んでくる「あきらめる勇気があったんだ。続ける恐怖なんてきっと乗り越えられる。」という言葉。最初は「いい言葉だな」としか思わなかった。しかし、これが物語に登場したとき私は驚愕した。「その言葉を、お前が語るのか」と震え、「やってやる」という熱い感情が胸に広がった。私は大学3年生だが、最初の2年間はコロナ禍で制限された生活だった。少しずつ緩和されたかと思えば、大学生活はあと1年程しかない。否、あと1年ある。残りの大学生活を何もしないで終えるくらいなら、目標・願望に突っ走って壁にぶつかってやろうと思う。

    (東京学芸大学/まつっきー)
     


  • 『十角館の殺人』
    綾辻行人/講談社文庫購入はこちら > 自分が推理小説にハマっていく原点となった作品の1つです。分量も多いですが、ドキドキハラハラの展開で、ページはすぐに捲られていきます。推理小説を読みながら仮説と空想の時間に浸るのが好きな私ですが、そのなかでも本作品は場面情景を思い浮かべながら読む時間をフルに楽しませてくれました。何を書いてもネタバレになりますが、推理小説界の伝説の一文は是非ご覧になって欲しいです。本作品が楽しめた方は「館シリーズ」を全巻読破してみても良いかも?

    (神戸大学/生ラムネ)
     


  • 『熱帯』
    森見登美彦/文春文庫購入はこちら > この物語、いくら読んでも次から次へと話が重なっていくばかりで終わりも真相もなかなか見えない。じれったいような腹が立つような感覚に私は取り憑かれた。
     最初は『熱帯』という本やその展開を追いかけた。次に京都に行った池内さんたちを追いかけた。その後も誰か、何かを追い続けた。一体いつになったら『熱帯』に辿り着けるのか。
     読み終えてようやく気がついた―― 私がこの本を手にした時点で『熱帯』は始まっていたことに。この『熱帯』をうっかりどこかに置き忘れてみようか。いつか不思議な読書会に誘われる日が来るかもしれない。

    (慶應義塾大学/シロクマ)
     


  • 『つめたいよるに』
    江國香織/新潮文庫購入はこちら > 人生最後の日に読みたいのは、きっとこの本だ。この短編集のなかには、本当にありふれた日々がつまっている。ありふれていて、とてもあたたかい。この本を読んでいると、自分の周りの人やものがうかぶ。そして、自分は彼らに愛されて、今ここにいるのだと感じる。それだけで、本当に涙がでるのだ。生きていてよかったと、本当に思えるのだ。だから、死んでしまう最後の日に、この本を読みたい。読んで、自分の人生を大好きになって、一生を終える。なんて素敵なんだろうか。

    (お茶の水女子大学/まる)
     


  • 『イマジン?』
    有川ひろ/幻冬舎文庫購入はこちら > 映画やドラマを観る時、それを作っている人のことを考えたことがありますか? 私は裏方さんの存在は知っているけれど、目の前の映像しか観ていませんでした。
     この作品は、映画やドラマ作りには欠かせない、けれど目立たない、そんな制作会社の物語です。スポットが当たることはないけれど、華やかさの裏側ではこんなことがあるのか、こんなことをしているのかと、ハッとしました。読み終えた後、きっと映像作品の見方が変わり、広がっていくと思います。

    (東京農業大学/ふぁくせ)
     


  • 『どうぞ愛をお叫びください』
    武田綾乃/新潮文庫nex購入はこちら > 男子高校生4人で、ゲーム実況ユーチューバーを始める。実在しそうな設定に惹かれ、ゲーム実況好きの私はこの本を手に取った。
     私の直感は正しく、「愛ダサ」メンバーがわちゃわちゃとゲームを楽しむ様子にワクワクしながら読み進められた。さながら、実況動画を楽しむ視聴者の気分だ。しかし、青春は楽しいだけではない。「自分はこのグループに必要?」「どうしたらアイツみたいになれる?」そんな思春期のモヤモヤした感情がリアルに描かれ、強く共感しながらページをめくっていた。楽しいけどもどかしい「青春」が詰まった一冊だ。

    (甲南女子大学/きなこもち)
     


  • 『儚い羊たちの祝宴』
    米澤穂信/新潮文庫購入はこちら > 始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな―― 多くの人の耳に馴染みのあるフレーズだ。私はもう、この歌を聞くと否が応でもこの本の存在が脳裏に浮かんでしまう。
     本書に収録された五つの短編。それぞれの真相に辿り着くたびに、ほの暗い笑いが込み上げてきた。もしかしたら、その口元は引き攣っていたかもしれない。登場人物の心理に思いをはせ、最後の最後に突き落とされる。できることならば記憶を消して、もう一度あの騙された快感と衝撃を味わいたい。

    (関西学院大学/さち)
     

  • 2023年度 第19回
    全国読書マラソン・コメント大賞
    開催期間:
    2023年7月3日~11月24日

     今年も全国読書マラソン・コメント大賞を開催しています。
     応募用紙は大学生協のお店にご用意しています。
     専用Webサイトでも応募受付中。あなたの素晴らしいコメント力で、お気に入りの本を紹介してください。
     たくさんのご応募をお待ちしています。

     

    詳しくはこちらから

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