リレーエッセイ
手賀梨々子(読者スタッフ・慶應義塾大学4年生)

P r o f i l e

手賀 梨々子(てが・りりこ)
慶應義塾大学4年生。初めまして。合唱、ビブリオバトル観戦、旅が好きです。最近の衝撃体験は、韓国での垢すり!垢すりおばあちゃんの手際の良さにされるがままの私は、まさに「まな板の上の鯉」状態。体験後はこの上ない爽快感に包まれて、おばあちゃんの技術に感服しました。
 
 私はこの夏10年ぶりにカリフォルニアを訪れた。10年前は全てが新鮮に感じられた。
 異なる言語、文化、気候……まるで未知の「違う世界」に足を踏み入れた中学生にとっては、その全てが〝wow。
 大学生になった私は、ホストファミリーと晩酌をしながら、家族のあり方、将来の仕事についても語り合った。日本では聞かれないような疑問を投げかけられて「当たり前だから」を使わずに答えを考える。自分が選択してきた道に「なぜ」をぶつけて再考する。日本の習慣、文化を理由にせずに私個人の気持ちをさらけ出してみる。すると、欧州で生まれ育ち、米国で仕事と家庭をもったホストファミリーと、人と人としてわかり合える部分も多くあった。笑顔だけでなく、しんみりした顔、納得がいかないという顔も覗かせながら、私たちは語り合った。自分自身のアイデンティティが垣間見える晩酌タイムだった。
 母国語以外で会話したことも、共感がうまれた一要素だと思う。英語で話すことで自分を客観視でき、立場がよく見えてくることもある。使える英単語がポジティブなものが多いことも起因しているのか、心を開いて思いを伝えられていた。言葉は、振る舞い方や思考にまで影響する。会話を通じて共感ができると「違う世界」という感覚はなくなっていた。そして、時を経て同じ国、同じ都市を訪問することで、見えるもの・感じることの変化を実感した。それはそのまま、私自身の変化であり、ささやかな成長を感じるものであった。
 帰国を2日後に控えて訪れたテーマパークで、日本人スタッフと出会った。現地の大学に通う彼は、卒業後も米国で働きたいと言う。そんな大学生同士のたわいないおしゃべりをした。今回の訪米中、母国語を使った唯一の時間。ぴんと張った糸が緩んだような安心感。米国にいる間、私はずっと背筋を伸ばしていたのだと気がつく。日本語という言語は、時には世界から私を過剰に防御したり、人との間に壁を作ったりするけれど、私という人間を形づくる、欠けてはいけない一ピースなのだ。今後も、自分の身を「違う世界」におく旅をしよう。
 
窓の外を見たり、なにかほかのものを見るとき、自分がなにを見てるかわかるか? 自分自身を見てるんだ。
 フレドリック・ブラウン『シカゴ・ブルース』より
 

次回執筆のご指名:山崎ひかりさん

山崎さんは毎回、企画を丁寧に提案してくださる心強い味方(と思っています)で、お会いしてみたい読者スタッフのおひとりです。突然の振りで恐縮ですが、ぜひ近況をご紹介ください。(編集部)

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