読書マラソン二十選! 177号


今年度は『読書のいずみ』では第18回全国読書マラソン・コメント大賞のナイスランナー賞作品をご紹介してきました、それも今号で最後。次号からはいよいよ第19回の受賞コメントをお届けする予定です。お楽しみに!
 


  • 『そして誰もゆとらなくなった』
    朝井リョウ/文藝春秋購入はこちら > 笑って、笑って、笑って、笑った。
     頭の中空っぽにして、文章を読むことの楽しさを改めて認識できる本。作家としての苦悩ではなくケーキに対する煩悩が、執筆中の葛藤ではなくトイレでの奮闘が書かれたエッセイ。いろんなことに挑戦し空回る作者の姿に、勇気を貰い、自分も新たなことに挑戦したいと思えた。明るくて、くだらなくて、ばかばかしくて、爆笑できる本。何か辛いことや嫌なことがあったときにぜひ読んでほしい。きっと全部忘れて、前を向けるから。

    (愛知教育大学/アサ)
     


  • 『恋する寄生虫』
    三秋縋/メディアワークス文庫購入はこちら > 特殊な恋愛小説が読みたい。そんな私の需要に完璧な供給を果たしてくれた本作を、人肌が恋しくなる冬に是非とも読んでいただきたい。潔癖症の主人公と視線恐怖症の女子高生が織り成す歪な恋と切ない運命の行方に、読み進める手を止めることが出来なくなるだろう。突拍子もないようで現実味のある展開は、一般的な恋愛小説とは比べることができない面白さがある。題名にもある通り寄生虫が本作の鍵となるが、同時に、恋愛感情についても考えさせられる。恋とは、残酷でありながらも儚く美しいものだと感じる結末に、私の脳はバグってしまった。

    (宇都宮大学/ばね)
     


  • 『鳥人計画』
    東野圭吾/角川文庫購入はこちら > 「スポーツの勝負に個性は必要ない」。私は違うと思う。水泳であれば一人一人が違ったフォームで泳ぎ,陸上であれば一人一人違った走りを見せる。個性があるからこそ、スポーツ界の勝負は見ていて面白いのだと思う。この本に出てくる杉江翔は,なんとしてでも素晴らしい選手に仕立て上げたいという父の願いのもと,人体実験のような訓練を受けていた。訓練を受けているときの翔は個性はなく,ただコンピュータのいいなりに動いていたのだった。私が知らない現実社会で,このようなことが行われていると思うと,とても恐ろしく悲しい。

    (愛知教育大学/たけこ)

 

  • 『スターティング・オーヴァー』
    三秋縋/メディアワークス文庫購入はこちら > “僕”の二周目の人生は十歳のクリスマスから始まった。今まで幸せで充実した日々を過ごしていた僕の望みは「一周目の人生をそのまま再現すること」だった。しかし、些細なことから“歯車”がずれていき、二周目の僕は一周目の僕とはかけ離れた人生を送っていく。人生の“歯車”はちょっとしたきっかけから良い方向にも向くし、悪い方向にも転んでいく。しかし、その“歯車”の向きを変えられるのは自分自身しかいない。だから、ただ待っていても何も始まらなくて、自分から行動してその“歯車”を合わせていくことが大事なんだと思った。

    (宇都宮大学/げっこー)
     


  • 『姑獲鳥の夏』
    京極夏彦/講談社文庫購入はこちら > 現実と知りながら夢に迷い込むようである。この物語に触れる感覚は、夢の中にいるとき非現実を現実と思ってしまう、その感覚に似ている。『姑獲鳥の夏』は一言で表せばミステリー小説であるが、言葉の独特な言い回しや幻想を感じさせる部分が魅惑的であり、世のミステリー小説と一線を画しているように思う。不可解な現象が題材であるこの物語は、登場人物に曲者が多いため面白く感じる部分はありつつも、やはり現象の異常さに恐怖を覚えずにはいられない。一種の壮大な夢を見ていたような、余韻の残る小説だった。

    (横浜国立大学/紗幕)
     


  • 『和菓子のアン』
    坂木司/光文社文庫購入はこちら > 和菓子はお好きですか。
     主人公が働くお店には様々なお客様がいらっしゃいます。一見「ヤ」のつく職業の和菓子の師匠、OL風の女性、年配女性……。そしてその買い物にはロマンがつきもの。送り手に込めたメッセージ。お菓子を取り巻くロマン。お饅頭の皮が餡を包むように心をそっと包み込んでくれます。
     甘いお菓子を片手に、日常でほんわかほっと一息。そんな場面を垣間見ることができます。垂涎三尺な描写を堪能してみてはいかが。

    (関西学院大学/NY)


  • 『ウエハースの椅子』
    江國香織/新潮文庫購入はこちら > 眠りにつく前、とてつもない孤独に襲われることがある。僕には家族がいて友人がいて恋人がいるはずなのに、常に独りぼっちである気がする。幸せと絶望を往来する「私」は、とても僕に似ている。心から大切にしたいと思える人に出会ったとき、人は2つの感情に板挟みになっている気がする。この人がいればそれだけで人生は満たされると思える幸せ。この人がいないと何も希望が見出せなくなるのでは、という絶望。僕はどんな人生を歩むのか。誰しもが感じたことのある静かな感情をさらけ出すこの作品に、僕は安堵し未来への望みを描いた。

    (関西学院大学/しょうた)
     


  • 『喜嶋先生の静かな世界』
    森博嗣/講談社文庫購入はこちら > 社会で生きていくのは、非常に面倒だ。幾度となく人間関係に悩ませられ「何のために生きているのだろう」と、この世界に絶望する。主人公の橋場君は、大学で研究に没頭していく。研究している時、彼は社会から隔離された宇宙空間にいた。純粋な法則だけで構成されるその宇宙は、とても静かで美しかった。しかし、そんな彼も守るべき存在ができ、研究からは遠ざかるようになった。私もそのうち社会人になる。騒がしくて面倒なその世界でたくさん苦しむだろう。でもそんな時、この本を思い出したい。私にも「静かな世界」があることを。

    (関西学院大学/井上愛理)
     


  • 『手紙』
    東野圭吾/文春文庫購入はこちら > 「差別はね、当然なんだよ」。犯罪者家族として虐げられてきた直貴にとって、それは衝撃的な一言だった。「差別はいけない」という当たり前を覆す、鋭さを孕んでいたからだ。しかしその言葉には、一時的な同情や道徳的建前を取り払った、本質が込められている気がする。
     ストレートに突き付けられた現実は絶望を伴う。しかしそれと同時に、周囲の道徳心と自分至上主義のジレンマから、直貴を解放するきっかけでもあった。
     優しさだけでは人は救えない。誰かに優しくする事が当たり前だった自分の、誤魔化しに気づくことが出来た作品です。

    (関西学院大学/Rea)


  • 『早朝始発の殺風景』
    青崎有吾/集英社文庫購入はこちら > 学校生活を送るうえで何とも言えない「気まずさ」を感じた人は多いだろう。少なくとも高校時代の私には教室に入ることさえ憂鬱だった日もある。ただ、卒業してみれば何のことはない。脳内で思い出が曖昧になるにつれて、徐々に「何となく楽しかった気もする」という補正された感情が思い出を包み込んでいく。お年寄りが過去を「いい思い出ばかり」と語るのはこの現象のせいだそうだ。しかしこの本の主人公たちはまだそれを知らない。不安定な毎日でゆっくり生きて突然の謎に悩んでいる。きっとこれが私の忘れていた正しい青春なのだろう。

    (新潟大学/黒川蛍)
     


  • 『本を守ろうとする猫の話』
    夏川草介/小学館文庫購入はこちら > 速読、要約……効率的に本の内容を知ることが、読書というのだろうか。本好きといえるのだろうか。いわゆる実用書の類いで読書観について述べられている書籍は多くある。しかし、この本では物語に落とし込んでいる。そして、本好きなら気がつく小さな仕掛けも散りばめられているため、物語としても楽しむことができる上、本を読むって自分にとってどういうことなのだろうと深く考えることもできる。おとぎ話のようだが、わたしたちの身近にも起こりうる問題が描写されており、自分に当てはめてハッとする瞬間もある。やっぱり本が大好きだ。

    (北海学園大学/nagi)
     


  • 『きみの鳥はうたえる』
    佐藤泰志/河出文庫購入はこちら > 甘いとか、苦いとか、酸っぱいとか、そんな青春小説ではない。肝心な所は淡く、その解決をいつまでも引き延ばす。大人になりきることを拒否する三人は、曖昧な三角関係のなかで、刹那的な楽しみに溺れた。「この夏がいつまでも続くような気がした」、「続いて欲しい」ではないのだ。願望ではなく、感覚としてただあったもの。そして「この夏」は必ず終わるのだった。非生産的で無意味に思えるような、あの日々。それでもそこには、生活や行動に意味なんか求めなくとも、確かに「幸せ」があった。

    (北海道大学/Ataro)

 

  • 『うらおもて人生録』
    色川武大/新潮文庫購入はこちら > 著者は別名・阿佐田哲也。麻雀の神様、雀聖とも呼ばれた。戦後まもない頃から、博打を生業に修羅場を経験してきた著者の人生哲学が詰まっている。文章は十代の若者に話しかけるような語り口で、中身も苛烈かと思いきや、悩み、苦境に生きる人たちに寄り添う優しさがあり、著者独特の「運」のとらえ方には説得力があった。目から鱗の人生論。

    (群馬大学/コウタロウ)
     


  • 『赤朽葉家の伝説』
    桜庭一樹/創元推理文庫購入はこちら > 時代が人を作り、人が時代を作っていく。そして、よくも悪くも人は自分が生まれた時代を生きることしかできない。この作品から、私はそんなメッセージを受け取った。昭和初期から平成に渡る三代の女たちの物語だが、平成生まれとしては、やはり第三章の主人公である瞳子に共感した。偉大な先祖達に対し、自分は、自分の生きる時代は余りにも矮小に感じられる。だが、実の所、先人たちも、彼らの生きた時代も、自分達と同じかそれ以上に不器用なものだったのだ。ラスト、次の時代へと進んでいく瞳子の姿に、勇気をもらった。

    (北海道大学/茶碗)
     


  • 『僕の明日を照らして』
    瀬尾まいこ/ちくま文庫購入はこちら > 隼太の新しいお父さん、優ちゃん。中学生の隼太の何気ない日常とともに、虐待を繰り返してしまう優ちゃんが描かれている。2人は日記をつけたり、ご飯を作ったりして「男の絆」で克服しようと必死だ。
     この物語はどこに行きつくんだろうかと心配になるように毎日が繰り返されていく。しかし、ところどころ環境の変化があり、隼太と優ちゃんも少しずつ変わっていく……。
     2人のほんのひとときの思い出を覗いたような話。不思議と穏やかな気持ちになり、明日を照らしてくれるような1冊。

    (信州大学/さぼてんおにぎり)


  • 『猫を棄てる 父親について語るとき』
    村上春樹、絵=高妍/文春文庫購入はこちら > この本を読んでから、冗談ではなく世界を見る目が変わった。街を歩く高齢の方々は、村上春樹氏の言葉を借りると「時代に邪魔をされて」、やりたいことをできないまま戦争・復興という形で国を支え、大人になった。彼らの耐え忍んだ時間がなければ今の日本はないだろう。彼らを精一杯敬わねばならないと思った。村上文学において度々出会う現代では現実味のない喪失感が現実のものであった時代があり、その存在を引き継ぐために、村上春樹氏は文学を生み出しているのだと気づかされた1冊だ。

    (東京農工大学/ジュン)
     


  •  『子どもを蝕む空虚な日本語』
    齋藤浩/草思社購入はこちら > 現代を生きる子どもたちは、自分の思いをきちんと表す言葉を知らない。 「ウザい」、「キモイ」、「わかんない」、「無理」。
     子どもたちが簡単に発するこの言葉の真意を、大人たちは考えたことがあるだろうか? どうして、しっかりと自分の思いを伝えられないのか。どうして、周囲の意見に同調し、自分の個性を出さないのか。
     それらは単純に「出来ない」で済ませていい問題なだろうか。 「語彙力」その大切さを、この本をきっかけに、今こそ考えてほしい。

    (北海道教育大学釧路校/かぼちゃ)
     


  • 『隠れ貧困』
    荻原博子/朝日新書購入はこちら > 教育的視点から。
     この本は日本の行く末を危惧している。なぜ大学に行くの? いい会社に入るため? 周りからの賞賛のため? 今はお金で学歴を買える時代。それなのに学校で点数を取れる子が賢いという価値観をもつ日本人は馬鹿らしい、と感じてしまう。人それぞれ能力や適性が違うのだからお金を払って学歴を買うのではなく、自分に合った場を探す技術を買えば良い。そんな価値観をもてる日はいつ来るのだろう。義務的教育のはずが格差的教育。もっと教育にかける資金を調達してほしい。
     気づいてください。未来ある子供たちの行き先見えない不安に。

    (愛知教育大学/さこ)


  • 『構造と力』
    浅田彰/勁草書房購入はこちら > 「人間とは何か」「言語はなぜできたか」ーそんなこと考えたこともなかった。  本編は「生命とは何か」という壮大なテーマから始まり、人間、国家、言語の生成過程をたどっていく。様々な哲学者や思想家の考えに触れるので、本当に知的好奇心が刺激される。読み進めていくうちに、構造主義者たちの思想を旅しているかのような感覚になる。
     約40年前に書かれた本だが、明らかに現代の私たちに対してもこれからの生き方を提案している。この本で新たな知をツマミ食いすることをおススメする。

    (愛知教育大学/フィリップグラス)

    ※『構造と力』は、2023年12月中央公論新社より文庫判が発売されました。


  • 『布団の中から蜂起せよ』
    高島鈴/人文書院購入はこちら > この社会で生きていけるのか、という漠然とした不安。もっといえば、どうしようもないのでは、という諦め、絶望。それらを抱えている人に、切実に手に取ってほしい一冊だ。
    「蜂起」「革命」というと、何やら仰々しく、ごく一部の限られた人たちのための行動、と思ってしまうかもしれない。社会も、それを変えるための運動も、アクションしない人、できない人をしばしば置き去りにする。けれどそうではないのだ。生き延びることそのものが理不尽への抵抗になりうる。今日を、明日を生存していくための、あなたへの祈りがここにはある。

    (金沢/深緋)
     



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