読書マラソンWEB版 5月特別号

『向こう側の遊園』著:初野晴 出版社:講談社

向こう側の遊園

『向こう側の遊園』
著:初野晴
出版社:講談社

あなたは、ペットと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。多くの人が犬や猫,鳥などを飼い、それぞれの接し方で彼らと生きています。その一方で、飼い主が責任を放棄し、捨てられたり,虐待されたりといった例も後を絶ちません。これは,社会で生きるペットたちと身勝手な人間の物語です。

私は暗い色で構成された不思議な表紙に惹かれ、この本を手にとりました。「廃園となった遊園地には秘密の動物霊園があり、墓守をする青年がいる」その噂を頼りに、様々な人がこの廃墟を訪れます。ある者はペットの埋葬を願いに、ある者は青年に話を聞きに…日常で起こった動物にかかわる事件が、月の光に照らされて幻想的な真実を映し出していきます。
ファンタジーの織り交ぜられたミステリー作品ですが、動物たちを主体としながら描き出しているのは人間の自己中心的な考え方です。霊園にたどり着くまでに交わされる青年と訪ね人の会話から、人とペットの在り方にいくつかの疑問が生じます。

「ペット」という言葉に私はあまり良い印象を抱いていません。動物は好きですが、彼らをかわいがるというのはこちらからの一方的な表現で、何か違うと思ってしまいます。しかし、彼らの想いを言葉で知ることはできません。
この本に登場する動物たちは、一途に人の思いをくみ取ろうとします。生に執着し、犠牲を生みつつも発展を続ける人間の生き方など意に介さず、ただ必死に今を生きています。私はその姿に胸を打たれ、自分の取り巻く環境を考えてみようという気持ちが沸き上がってきました。

様々な生き方があり、今を築いてきた犠牲も確かに存在するということを感じた作品です。

静岡大学
森川悠