「WEB読書マラソン」の総評(2024年4月~2025年3月)

大学生の読書習慣とWeb読書マラソンの展開 

全国大学生活協同組合連合会副会長理事
米山 高生

「大学生は本を読まない」といわれています。たしかに大学生協による「学生生活実態調査」によれば、本を読まない学生が50%近くいます。直近の2024年の調査では、一日平均の読書時間が0分であると答えた学生が45.6%ですが、2021年には50.5%と過半数となり、深刻な事態であるとして一般紙で報道されました。

他方で、「若者の読書離れはウソである」、という主張が行われているなど(飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ』、平凡社新書、2023年)、若者の読書離れについては、あらためて分析する必要があるのも事実です。そこで、「学生生活実態調査」を子細に見ますと、1日平均で120分以上読書すると答えた学生の比率は必ずしも減っていないことがわかります。過去10年で6%から8%の学生がこのように回答していますし、またこの傾向はこの10年で傾向的に増加しています。その意味では、単純に「大学生の読書離れ」を論じるわけにはいかないと思われます。

なお「若者の読書離れはウソである」を主張する新書については、ひとこと留意すべき点を述べておく必要があります。この新書のタブタイトルは「中高生はどのくらい本を読んでいるのか」とあり、分析の対象が「若者」といっても「大学生」ではありません。この本では、中高生が必ずしも読書離れしていないことを指摘しています。

となると、中高生では読書の習慣があったのに、なぜ大学生になると、読書の習慣をしなくなる学生が半分近くになってしまうのだろうかということが本当の問題となります。このことの理由は様々に考えられますが、ひとつには、大学受験が読書の習慣を断絶してしまったのではなかろうかと思います。

学習も読書も習慣であるといっても過言ではないと思います。大学教育の場で、大事なことのひとつとして、中高生の時に身についていたはずの、読書の習慣を復活させることがあるのではないでしょうか。新入生へのライブラリー・ガイダンスをはじめとして、本を手に取って読むということを習慣とするための様々な働きかけが、学生に対して行われています。個人的な体験で恐縮ですが、昨年まで東京経済大学の図書館長をしていた時に、ビブリオバトル、読書会、学生による書籍展示コーナーの作成など、学生の読書習慣を促進する活動を多数試みてまいりました。

いずれの大学でも、学生の読書習慣を促進するための様々な工夫が行われていることでしょう。なぜならば、「大学らしい大学」であり続けるためには、読書時間0分の学生がキャンパスにあふれるのは問題だからでしょう。そこで、大学には、ハードとして図書館、書籍販売ショップがあり、またソフトとして大学や図書館が企画する様々な読書関連のイベントが展開されています。教育ととおして頭の栄養、学食をとおして体の栄養とすれば、読書習慣をとおして心の栄養がそろえば、大学キャンパスは学生にとってきっと素晴らしいものとなるにちがいありません。

大学生協では、書籍部ばかりではなく、様々な読書推進活動を行ってまいりました。大学生に、読みたいときに読みたい本を適宜提供することは、大学の福利厚生施設としての生協の大切な使命であると位置づけられるものです。学生に知性の扉を開いてもらうこと、学生が他人を思いやる豊かな心を育んでもらいこと、生きにくい世の中を生きていく力を蓄えてもらうこと、これらいずれも大学生協がお手伝いしていかなければならないことです。このような使命を果たすために、生協の書籍部とその活動は、各大学にとってなくてはならないものになっていかねばなりません。

大学生協は、読書マラソンという活動を続けてまいりました。この活動の目的のひとつは、全国の大学生に読書の習慣を身につけていただくことです。とくに昨年から読書マラソンは、これまでのコメントカード記入中心型からWebをとおしたコメント投稿型に大きな舵を切りました。これにより、各大学の単位生協ごとにコメントカードを活用することから、より全国的にコメントカードを集計し、優れたコメントを表彰するようになりました。また、全国の大学生の読書習慣を一律に促進するほか、全体の傾向なども分かるようになりました。そして分析した結果は、コメント執筆者のブライバシーに十分に配慮した上で、全国の大学生や生協の書籍部などと共有していくことが出来るようになりました。

このような流れの中で、大学生協は学生の読書習慣を促進したいという各大学の図書館の皆様や教員の皆様と強い協力関係を築きたいと考えております。また生協書籍部も供給側だけの視点ではなく、学生組合員の需要側の傾向を取り入れながら、「読みたいときに読みたい本を読みたいだけ提供できる」ように、態勢を整えていく必要があると思います。各大学の図書館及び教員の皆様には、学生の読書習慣という観点から、学生さんに読書マラソンへの参加を勧めていただき、またこの件について何かありましたら、お気軽に生協職員にお声をかけていただけたら幸いです。

PROFILE

全国大学生活協同組合連合会 副会長理事
米山 高生 Takau Yoneyama
(2024年度大学生協の読書マラソン・ナイスコメント選考委員)

一橋大学名誉教授
前東京経済大学図書館 館長
信州大学人文学部経済学科卒業。横浜国立大学大学院経済学研究科 修士課程修了。一橋大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得満期退学。一橋大学大学院商学研究科教授などを経て、2017年から東京経済大学経営学部教授(2024年に退職)。
著書に『リスクと保険の基礎理論』『物語で読み解くリスクと保険入門』ほか。生活経済学会会長、日本保険・年金リスク学会会長、アジア太平洋リスク・保険学会(APRIA)会長、経営史学会監事、総務省情報通信審議会委員、金融行政モニター委員なども務める。

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