たすけあい情報室 共済パワーアップ講座

学生のこころとからだの安全のために、「いま」できることとは…

座談会

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの大学が閉鎖。
新学期を学生不在のキャンパスで迎えることを余儀なくされました。
その災禍は、半年を経てもなお、社会に、暮らしに大きな影響を与え続けています。今回は、大学・学生・生協のそれぞれの立場から、感染拡大真っただ中の当時の様子や今後の課題などについて話し合っていただきました。

学生のこころとからだの安全のために、「いま」できることとは…

学生のこころとからだの安全のために、「いま」できることとは…

(左から)

  • 全国大学生協共済連 寺尾 善喜 専務理事(司会進行)
  • 東京大学生協 石幡 敬子 専務補佐
  • 東京大学 相談支援研究開発センター 准教授(医学博士)渡邉 慶一郎 先生
  • 東京大学 工学部3年 松田 響生(ひびき)さん

「オンライン環境に苦労しながら順応した半年間」

寺尾 まず、コロナ禍における新学期の様子をそれぞれの立場から教えてください。


東京大学 相談支援研究開発センター
准教授(医学博士)渡邉 慶一郎 先生

渡邉 私は保健センターの精神科での臨床を主な仕事にしております。毎年新入生を最初に把握するのは新入生健康診断です。通常であれば、問診票のメンタル的な質問に沿って対面で聞き取りをして助言したり、希望があれば保健センターの精神科につなげたりしますが、今年はまだ全員の健康診断が終わっていません。
一部健康診断をした人も2m位の距離をとって伺ったので、踏み込んだ話はできませんでした。
登校の抑制と遠隔授業が初期の大きな変更でした。遠隔授業は、登校する必要がなく余計な人間関係に煩わされなくて楽だという人もあれば、逆に普段の何げない会話がなくなったと嘆く人もいます。新入生は迷いや不安を受け止めてくれる仲間ができにくく、心配なところです。
保健センターも学内のルールに従わなくてはなりません。入校制限がかかれば学生は来ないし、スタッフの出勤も制限され、医療機関であってもなかなか機能を発揮できず、かなりストレスやジレンマを感じます。精神疾患の多くは慢性の方が多いので、電話診察で薬を処方するなどして、なんとか診療を続けています。
留学生に関しては、入国・帰国ができない、休学するとビザが下りなくなるので休学もできないなど、かなりダメージを受けています。

松田 東大生協学生委員会では4月に学部生へ『緊急アンケート』を行い、新入生3,500人中543件、全体で869件の回答を得ました。
集計して特に印象的だったことを述べます。まず経済的な問題では、多くの学生が家族収入やアルバイト収入の減少を挙げ、学業の継続に不安を感じていました。1年生のアルバイト従事者は4月時点で2割程度、現在でもかなり少ないと思われます。
オンライン授業への不満は1年生に最も多く、「パソコンの使い方が分からない」人が他学年では2~3%だったのに対し、1年生は1割強でした。在校生は人に聞いてセットアップしたようですが、新入生は突然のことで戸惑ったと思います。生協では例年、新入生サポートスタッフを結成して新入生向けのパソコン講習会を行いますが、今年は対面での実施がかないませんでした。
オンライン授業の感想で上位は「孤独感を感じる」、「集中力が続かない」。最も多かったのはパソコン画面を見続けて「目が疲れる」でした。過半数の1年生が対面授業を望んでいますが、学年が上がるほどオンライン授業の継続を望む声が多く、この先はオンラインのメリットを生かしつつ対面を再開していければと思います。
また、本学には多くのサークルがあり、例年新入生は3月末から4月初めにさまざまな新歓活動に参加します。しかし今年は新歓が全部オンラインになり、1年生で4月末に「サークルに加入した」人は22%、「参加したい活動はあるが未加入」が4割でした。
1年生は相談相手が「いる」と答えた人も高校の友達にとどまり、「新しい友達は何人できましたか」という質問に29%が「0人」と回答したのが非常に印象的でした。


東京大学生協 石幡 敬子 専務補佐

石幡 生協では院生アンケートも実施し、約200人の声を拾いました。図書館が閉鎖され必要な文献にアクセスできなかったり実験や実習が滞ったりすると、研究に支障が出ます。
短期間で論文を求められる院生のもどかしさが自由記入欄いっぱいに書かれ、非常に切羽詰まった感じを受けました。
一方で「生協の食堂が密になり不安」という意見に基づき、6月8日からの営業再開にあたっては、安心して食べていただくために保健センターの先生からアドバイスを頂きました。

松田 学生委員会では年2回、栄養士さんや保健師さん、保健センターの方のご協力を得て健康フェアを開催しています。例年200人以上が参加し、学生の食生活や健康への意識向上に一定の効果を果たしていましたが、今年は実施が中止になったので急きょオンライン開催に踏み切りました。事前に申し込んだ相談者とアドバイザーにZoomのブレイクアウトルームで話をしてもらったので、プライバシーの面で抵抗のある学生も相談できて良かったと思っています。

「大学生協に求められる役割とは」

寺尾 コロナ禍の今、学生のこころの健康のため、互いに連携・協力して何ができると思いますか。

渡邉 我々も対面やウェブでメンタルに不調を持つ人の相談を受けますが、大学には話しづらいと思う人もおり、相談先の選択肢に生協があると安心して利用できるかと思います。
生協の取り組みでは、学生が実際に食堂に来て食事を受け取ることで、バランスの良い食事を摂ることが出来るだけでなく、そこで働く人たちが、工夫をしながらご自分の仕事に一心に取り組んでいる姿に触れると思います。
私はそこから元気をもらうのが非常に大きいと思っています。いろいろと各論的な支援はなされていますが、次に必要なのは生きる姿勢を打ち出すことです。


東京大学 工学部3年
松田 響生(ひびき)さん

松田 学生同士が語り合う“場”として食堂が機能しているように、生協は大学の中に共通の場所や話題を提供する役割を担っています。生協が保有・運営する場所を開放してキャンパス人数を分散させ、大学が取り組む感染リスク低減に協力することができます。キャンパスの滞在人数モニタリングに協力してくれる東大生も大勢おり、学生と大学・生協が協力する下地はあると思います。
大学にお願いしたいのは、将来を見据えたメッセージが学生にはあまり伝わってこないという印象があるので、意思決定や情報発信の場では学生目線の受け止め方を尊重していただきたいという点です。新型コロナウイルスにも、学問の場である大学として根拠に基づいた科学的な方針を打ち出してほしいと思います。

石幡 学生が健康であることは大学のミッションであり、生協のミッションとも重なります。大学生協の「学生総合共済」ではこころの早期対応も始まっており、少しでも異変を感じたら相談できるような環境が整っていることを広くお伝えしたいと思います。

寺尾 大学生協共済連は全国大学メンタルヘルス学会、日本学生相談学会の賛助会員にもなっており、先生方や相談員の方々の知見を頂きながら、学生のこころの健康を支える取り組みに関わっています。学生生活無料健康相談テレホンでは、学生本人や親御さんから心身両面の相談を受け付けています。これからも大学と大学生協の連携を深められれば幸いです。

「未来への希望を胸に大学に来てほしい」


全国大学生協共済連
寺尾 善喜 専務理事(司会進行)

寺尾 コロナ禍で勉強に励む受験生や受験指導をされる先生方に、メッセージをお願いします

石幡 院生アンケートの声をご紹介します。
「生活が一変した。大学に行けず、自分の居場所を失った感がある。(略)しかし、どんな困難な時代にあっても研究を続け次世代に継承してきた先人に倣って、未来への希望を胸に最善を尽くしていくつもりだ」。大変励まされました。
さまざまなご苦労がある中でも勉強して自分を高め、世の中のためになりたいと願う学生を、生協はさまざまなサービスを通しバックアップしていきたいと考えています。

松田 コロナ終息後も、恐らく大学は元通りの状況には戻らないでしょう。それはつながりを失うということではなく、むしろオンライン・オフライン双方を活用して、より自分に合ったかたちで人とつながり学問を修める場所へと大学が「進化」していくと思っています。
大学って、同じ不安、同じ希望、同じ趣味を持つ人が高校よりも集まりやすく、一緒に高め合える人に出会えるところです。ぜひ希望を捨てずに学習を進めてほしいと思います。

渡邉 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、解決不能な課題を受容する能力のことです。
いろいろな制限がある中で学生さんには希望を持ってもらいたい。「希望」を、若い人たちに実のある言葉として伝えるには、私たちの中にも希望がないといけません。それを私たちの課題とし、意識して進めていきたいと思います。

寺尾 大学人として、そして大学の中の一組織である大学生協として、学生の命と暮らしを守り、そして学生の学びとこころを守る。
学生同士のつながり、生協と大学のつながりを、ぜひ実現していきたいと思います。

2020年8月7日(金)東京大学生協第2食堂にて

『Campus Life vol.63』より転載

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