たすけあい情報室 共済パワーアップ講座

コロナ禍の「学生相談」の現場から〜オンラインとリアルの狭間で~

座談会

2020年は誰も予想すらしなかったコロナ禍の1年となりました。
大学生活も一変し、大半の学生が変化に対応できずストレスを抱えてしまったことでしょう。
新年度を控え、なお予断を許さない状況が続く中で、我々は学生のために何ができるのでしょうか。
今回は実際にカウンセリングもされている専門家の先生方にリモートでお集まりいただき、「学生相談」の現場から見たこの1年を振り返っていただきました。

コロナ禍の「学生相談」の現場から〜オンラインとリアルの狭間で~

コロナ禍の「学生相談」の現場から〜オンラインとリアルの狭間で~

  • 東京工業大学 保健管理センター教授 齋藤 憲司先生
  • 京都大学教授 学生総合支援センター センター長 杉原 保史先生
  • 甲南大学文学部教授 学生相談室カウンセラー 日本学生相談学会理事長 高石 恭子先生
  • 甲南大学生協 内田 真紀子専務理事(司会進行)

調査や相談からうかがえる学生のストレス

内田:最初に2020年新学期からの学生の変化を教えてください。

京都大学教授 学生総合支援センター センター長 杉原 保史先生
京都大学教授
学生総合支援センター
センター長
杉原 保史先生

杉原:本学の新入生の相談件数は例年に比べてかなり少なく、さまざまな悩みや混乱を抱えていると推測されるものの、4月当初は実態がつかめませんでした。前期途中に行われたアンケート調査により、やはり新入生は不安や憂鬱等ストレス性の反応を示す傾向が高いことが分かりました。下宿生も半分以上は京都に来ないで、自宅で家族のフォローを得て何とか支えられているようでした。ハイリスクのグループにはその他に、修士の新入生、留年している学生、留学生、留学ができなくなった学生がいます。また、大学生活に不適応を抱えながらも部活や趣味の活動でバランスをとっていた学生が、心の支えとなるそれらの活動を失い、ストレスを訴えるという案件も結構ありました。

齋藤:4月~5月前半は出校制限がかかってほとんど動きがとれない中、急遽オンライン授業、オンライン相談の準備を進めました。教職員が新入生にさまざまな発信を熱心にしてくれたので、例年よりはむしろ学生との結びつきができていた面もあります。ただ、サークルや部活を含めたキャンパスライフを楽しみにしていたのにそれが一向に始まらない、講義はほとんどオンラインという状態が1年近く続き、1年生はこの間2、3回しか大学に来ていません。これから徐々に出校が始まると、リアルな問題が生じて相談件数が増える可能性があります。
在学生は比較的スムーズにオンライン授業に順応しましたが、東工大は理工系の研究に重きを置く大学なので、出校して実験や調査をしなくては学業が進みません。そこに制限がかかったのでストレスが随分大きかったようです。とりわけ他大学から東工大の大学院に入った修士・博士の1年で、葛藤状態が強くなった学生の相談はかなりありました。

甲南大学文学部教授 学生相談室カウンセラー 日本学生相談学会理事長 高石 恭子先生
甲南大学文学部教授
学生相談室カウンセラー
日本学生相談学会理事長
高石 恭子先生

高石:本学は約8割が自宅生で、下宿生も地元に帰った学生が多く、ほとんど自宅から遠隔授業を受けていたようです。学生相談室では緊急事態宣言発令中も支援の必要な学生に対面の面接を継続していたので、相談体制にはそれほど混乱はありませんでした。ただ、新入生には最初のアクセスができず、前期は保護者の方から深刻な相談の電話を何件も受けました。親御さんが日々の学習を近くで見守り、学生と共に非常につらい思いを抱えておられるのが伝わってきました。
7月の前期終了時のアンケートでは、一度キャンパスライフを経験してから遠隔に入った2年生以上の学生が自分のつらさを大学や先生への不満という形で表現する傾向があるのに対し、大学生活を知らないまま一人で受講する新入生は自分と同級生との比較ができず、うまくいかないと自分がダメなのだと思い込む傾向があることが分かりました。

オンライン授業のメリット

内田:報道ではオンライン授業の負の側面が強調されがちですが、実際にはどうだったのでしょうか。

東京工業大学 保健管理センター教授 齋藤 憲司先生
東京工業大学
保健管理センター教授
齋藤 憲司先生

齋藤:コロナ禍のオンライン授業では、孤立の問題と、家の中の非常に密な関係から起きるトラブル等が弊害として挙げられます。一方で、不登校、対人恐怖、発達障害的な特性を持つ学生の中には、家族一体となって授業に取り組む姿がうかがえました。第2・第3クオーターで飛躍的に単位が取れて進級や卒業が見えてきた学生もおり、この状況が本人と家族にとってプラスに働いている場合とそうでない場合とでは極端な状況が生じています。

杉原:コロナ禍で授業がオンライン化されたことで、結果的にこれまでになかった仕方で授業が第3者にオープンになりました。本来授業は学生だけが受けるもので、オンラインになってもそのはずなのですが、家庭では家族に見られたり聞かれたりする可能性が出てきて、教員により緊張感をもって質の高い授業を行う意識改革をもたらしました。

齋藤:オンライン授業は準備からして本当に大変で、教員は一つの授業の準備で1週間がつぶれかねません。エッセンスが凝縮した授業を実現するために教員側が随分鍛えられたという面もあり、より精査された授業になっている可能性は高いと思います。

高石:中には学生さん以上に熱心に授業を聞いておられる保護者もいらっしゃるので、それに耐えうる倫理的な授業を心掛けるという点では非常にプラスだったと思います。
在学生のコロナ禍の体験には本当に多様性がありました。4年生で引きこもりや不登校で卒業を諦めかけていた学生がとても希望を持って、一人でなら頑張れると卒業を視野に励んでいる方もいます。

齋藤:授業ではなるべく交流を深めたいと思い、遠隔でも4、5人のグループワークを行っています。
一人で落ち込んでいたが少し気が晴れた、この状況をプラスに生かしている他の学生の話が参考になった等、そこで得られることが大きく、非常に意義があったと思います。ただ、グループワークにすくんでしまうタイプの学生もいるので、オンラインなのに不登校に入ってしまう学生もゼロではありません。

高石:変化に対して柔軟な学生は、オンデマンドの授業を活用して空き時間に友達とオンラインゲームを楽しんだり、リモート飲み会をしたりしていたようです。一方でそういう変化に対する適応が苦手で、真面目な一部の学生が、5月の連休明けぐらいから心身の調子を崩し、相談室を訪れることも増えてきました。後期は、それがさらに増加しています。

2021年春、大学は君たちを待っている

甲南大学生協 内田 真紀子専務理事
甲南大学生協
内田 真紀子専務理事
(司会進行)

内田:次年度の新入生と保護者の皆さんに先生方からアドバイスをお願いします。

杉原:“コロナ後の世界”には数年かかるとも言われます。2021年度に関しては「見通しがつかない」という見通しがついているところが2020年との違いで、見通せないことを前提に入学後の準備ができるというメリットはあるかと思います。多くの授業がハイブリッド形式で行われると思われるので、ネット環境を十分に整えることがキャンパスライフを柔軟に活用するうえでの鍵になると思います。

齋藤:今年度の受験生の方にとってこの1年間は、イメージしていた高校時代の区切りとは大きく異なっていたのではと思います。大学入学後も同様な生活が続くという側面も何割かはあるでしょう。でもそれ以上に、我々教員も先輩学生も新生活を始めようとしている新入生のためにさまざまなことを準備しています。高校時代に比べてはるかに活動の可能性は広がりますし、オン・オフどちらにおいてもつながれる術はきっとあります。新しい交流・交友も絶対にできるのだという思いで前向きに大学受験に励んでいただきたい。夢と希望をもってキャンパスライフに参入してほしいと願っています。

高石:今、全ての新入生に該当するアドバイスはなかなか思いつきません。一人一人本当に違うし、授業の受け方も多様になっていく中で、今自分にとってどういう学び方が一番合っているのかを選び取れる主体性、自信をぜひ身に付けていってください。そのために多様な方法で学びを保障していくのが、私たち教員の来年度の責務だと思っています。
大学生活では社会に向けた自立のためにいろいろな練習を積んでいくことも必要で、その練習に付き合ってくれるのは同級生や先輩学生など同世代の力が大きいのです。保護者の方も不安を感じられることがあるとは思いますが、お子さんの自立への第一歩を応援し見守っていただけたらと思います。

杉原:学生同士の交流も対面・オンライン・テキストなど多様な様式が整えられつつあります。こういう状況だからこそ、自分に合った方法で積極的に交流し情報交換しながらこの状況を乗り切っていただきたい。コロナ禍での豊かな生き方を模索できるようになればいいなと思います。

内田:先生方のお話をうかがい、生協としても新入生を迎えるためにいろいろな活動ができるのだと改めて感じました。本当にありがとうございました。

profile


東京工業大学
保健管理センター教授
齋藤 憲司先生

東京大学教育学部、同大学院教育学研究科で教育心理学を学ぶ。在学時より私立大学の非常勤カウンセラーとして学生相談に携わり、東京大学学生相談所助手(専任カウンセラー)を経て現職。日本学生相談学会前理事長。


京都大学教授
学生総合支援センター
センター長
杉原 保史先生

京都大学教育学部、同大学院教育学研究科で臨床心理学を学ぶ。公認心理師・臨床心理士。大谷大学文学部専任講師、京都大学保健管理センター講師、同大学カウンセリングセンター講師を経て現職。


甲南大学文学部教授
学生相談室カウンセラー
日本学生相談学会理事長
高石 恭子先生

京都大学教育学部、同大学院教育学研究科で臨床心理学を学ぶ。臨床心理士・公認心理師。精神科病院の心理士、母子療育教室のセラピスト等を経て、甲南大学で学生相談に従事。


甲南大学生協
内田 真紀子専務理事
(司会進行)

甲南女子大生協を経て、現在 甲南大生協と神戸薬科大生協の専務理事を兼務。

『Campus Life vol.64』より転載

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