たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

【座談会】学生の“こころ”を支える

【座談会】学生の“こころ”を支える

コロナ禍を乗り越えて、これからの人生を力強く生き抜くために

長崎大学は日本で最古の医学部を擁し、わが国の感染症研究をリードしてきた存在です。
しかし、コロナ禍は、長崎大学の学生たちにも大きな影を落としました。
心身に想像以上のダメージを被ったこの2年間が彼ら彼女らにもたらしたものは、いったい何だったのでしょうか。そこから、私たちは、何を学ばなければいけないのでしょうか。
長崎大学病院 腎臓内科教授 保健センター長の西野先生をはじめ、3人のキーパーソンの皆さんにお話を伺いました。

(左から)

  • 国立大学法人 長崎大学 長崎大学病院 腎臓内科教授 保健センター長 医学博士
    西野 友哉先生
  • 国立大学法人 長崎大学保健センター 保健師
    前田 真由美さん
  • 国立大学法人 長崎大学 保健センター助教 博士(医学)公認心理師・臨床心理士
    小川 さやかさん
  • 長崎大学生協 店長
    井上 清美

藤本 昌

[進行]
藤本 昌
全国大学生協共済生活協同組合連合会

学生と教職員の健康を守る保健センターとヘルシーキャンパスプロジェクト。

藤本: 実質的に2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大は、学生たちの心身はもちろん、生活面にも大きな影響を及ぼしてきました。特にコロナ禍を想定することなく入学してきた2年生にとっては、 まさに想像を絶するキャンパスライフが現在も続いていると言えるでしょう。こうした状況を目の当たりにされてきて、どのように感じてこられましたか。また、コロナ禍で長崎大学が推進されているヘルシーキャンパスプロジェクトの活動についても合わせて教えてください。

西野 友哉 先生
西野 友哉 先生

西野:一昨年の4月、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃に保健センター長を拝命しました。就任して最初にやらなきゃいけなかったことは、計画されていた学生の健康診断の中止・延期です。併せて全くキャンパスに来られないという新入生の状況を踏まえ、彼らのメンタルヘルスについて調査するよう学長から指示を受け、その調査を実施しました。
保健センターは、学生と教職員の安全と健康を守ることがミッションですが、より能動的な健康づくり推進のためには、起爆剤となる取り組みが必要だと思います。それがまさにヘルシーキャンパスプロジェクトであり、その推進を通じて、保健センターとしてのプレゼンスも向上していくのではないかと思っています。

小山:保健センターは学生と教職員の健康を守るのが使命であり、その延長上にあるのがヘルシーキャンパスプロジェクトだと思っています。そういう意味では、特別なイベントも大事ではありますが、日常の学生相談や健康診断なども、実はヘルシーキャンパスの一環として捉えてもいいんじゃないかと私は思っています。

前田:私は保健師として、学生の健康診断とか、臨床実習や教育実習に行く学生の感染症対策などの企画と実施を担当しています。このコロナ禍を通して感じているのは、やはり2年生ですね。入学式もない、友達もいない、情報からも孤立。孤独にさいなまれているそんな彼らにいかに寄り添うことができるか、を最大のテーマとして取り組んでいます。

井上 清美 さん
井上 清美

井上:ヘルシーキャンパスの立ち上げの時から関わらせていただいています。私は一昨年の夏に坂本キャンパスに異動して以来、さまざまな取り組みを進めさせていただいてきたのですが、急に何もできない厳しい状況に陥り、コロナ禍での実施という難しさというのをすごく思い知りました。気持ちと裏腹に、何もできないもどかしさというのを改めて感じました。

感染症治療の中心地でもある長崎大学にほころぶ明日への萌芽。

藤本:新型コロナウイルスの感染拡大が始まって約2年と長期化していますが、最近の学生たちの様子を見て何か変わってきていると感じることはありますか。

小川:最近は「感染予防をしながらも、外に出られるようになったのが、すごくうれしい」という声をよく聞くようになりました。これからはもう少し友達とも仲良くしていきたいとか、そういう前向きな言葉を少しずつ聞けるようになったのは、本当にうれしく思います。ようやくではあるのですが、今までは結構ピリピリしていた学生が少しずつ穏やかな表情になっているのを感じます。

前田 真由美 さん
前田 真由美 さん

前田:学生が相談だけでなく、自由に保健センターを訪れて、自ら体重を測ったり…。以前は当たり前だった光景が、少しずつではありますが戻ってきているようです。ただ、以前と違うのは、毎回消毒しなければいけないというひと手間。それも学生たちはちゃんと消毒してくれていたので、まさにafter/withコロナの意識が出来上がってきているのかもしれません。

西野:保健センターが中心になって、ワクチン接種、職域ワクチン接種を実施しました。当初はどれほどの学生が接種してくれるかと、われわれも心配していましたが、さすがに長崎大学は感染症研究の中心地ということもあって、むしろ積極的な接種を実施できたと安堵しています。
ワクチンは自分の体を守るだけじゃなくて、周囲の人、高齢者や接種できない幼児とか、そういった人たちの命を守るために必要なんだというところで、理解を広げていったということと、それに学生も理解を示してくれたというところは大きかったと思いますね。

学生への食育の一端を担う大学生協の役割。

藤本:大学および地域のコミュニティーの中に存在している大学生協が現在果たしている役割について、またこれからの大学生協に対する期待などあればお聞かせください。

西野:学生たちには、ぜひともきちんと朝食を食べてほしいと思っていました。昨年はコロナ禍だったこともあり、お手軽にテークアウトできるような形で展開しましたけれども、最終的には大学生協の食堂に行ってもらって、おいしく、温かい朝食を食べる習慣を付けてほしいと思っています。大学生協さんには、非常に期待しているところです。やはり食事は食育、これからの人生を歩むうえでも大切なことですから。本当に健康的な食事というのは、こういうものなんだという意識を持ってほしいと思っています。

小川 さやか さん
小川 さやか さん

小川:一人暮らしの学生とよく話をするのですが、大学生協さんを利用している学生はやはり多くて。一人暮らしだと生活リズムが崩れてしまう学生も少なくありません。ミールカードを使っている子は親も安心みたいなことも、親御さんから聞いたりはするんですが…。そういう意味では、大学生協さんで食事をしたり、お弁当を買ったり、飲み物を買うついでに健康情報に触れることができるとよいのかなと思ったりしています。

西野:確かに大学に入る前から食育についても、各家庭でしっかりと習慣づけておくことが重要です。でなければ大学に入ったからって栄養バランスを考えた食事を自ら取ろうとはしませんし、できませんよね。親も一緒にずっとコンビニを食べていた子が、一人暮らしして生協へ行こうという子はいないと思います。

コロナ禍の経験を武器に、人生を生き抜く強さを手に入れろ。

藤本:今春に卒業する学生をイメージいただいて、彼ら彼女らにこの長崎大学での経験をその後の人生にどう活かしてほしいと思われますか。

西野:やはり、ピンチはチャンスだと思うんですね。世の中には戦争もあります、災害もあります、地震もあります、津波もあります。それでも、そこがいつまでも焼け野原のままということはなくて、時間とともに立派に復興、復旧していきます。それは、それぞれの地域や住民の人たちが、ピンチをチャンスに変えていっているんだろうと思います。そういう意味では、コロナ禍における経験も同じです。先ほどワクチンのお話をしましたけれども、自分の身を守るだけではなくて、社会を守るという意味での自覚を早い時期から考えるきっかけには、こういう経験もなるのではないかなと思います。

小川:コロナ禍だからこそ、希望していたことがかなわなくて、メンタル不調になる学生も少なくないのですけれども、やはり私としては、健康を大事に、という思いでいっぱいです。本当に健康は一番大切なもので、自分にしか守ることのできないもの。だから、自己管理の一環として健康を大事に生活してほしいなと思います。
あと学生の中には思いあまって、消えたくなったり、死にたくなったりする学生が時々来るのですが、「一番は命が大事だよ」というのを伝えて、5年後、10年後とかに、あの時に死ななくてよかったと思ってもらったらいいよと。コロナ禍もその一環で、どうしようもなかった世界の話なんですが、いろいろあったけれども乗り越えられたねというところで思い出してくれたらいいなと思っています。

前田:学生の中には不自由な環境の中で立ち止まる人もいたりしましたが、そんな彼らも少しずつ前を向いて行かないといけないという気持ちになって、乗り越えている人もたくさんいます。この不自由さの中から、かけがえのない強さを身に付けてもらって、これからも起こり得るであろう困難にも、その経験を武器にして乗り越えていってほしいと思います。

藤本:本日は本当に貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。

(2021年12月7日 長崎大学 保健センターにて取材)

『Campus Life vol.69』より転載

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