たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

【座談会】コミュニティーに根付かせたい 学生の心の安全・安心 ~学生の心を支えるためにできること~【座談会】コミュニティーに根付かせたい 学生の心の安全・安心 ~学生の心を支えるためにできること~【座談会】コミュニティーに根付かせたい 学生の心の安全・安心 ~学生の心を支えるためにできること~

「日本一学生に優しい大学」を標榜する弘前大学。
学生たちにつらい時間を強いてきたこのコロナ禍においても、
弘前大学は、弘前大学生協は、学生たちに寄り添い続けてきました。
保健管理センターで日々学生たちと向き合う佐藤所長とカウンセラーの田名場先生を中心に、
大学生協の学生組織に所属するお二人にもお集まりいただき、
コロナ禍の2年間を振り返っていただくとともに、今後への思いについてお話をしていただきました。

[司会進行役]大学生協共済連
藤本 昌

弘前大学
保健管理センター 所長
佐藤 研 先生

2011年:弘前大学 医学部・附属病院 助教
2009~2011年:弘前大学 医学部附属病院 助教
現在:弘前大学保健管理センター センター長
(医学博士/医学系 臨床医学領域)
【所属学会】日本内科学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本心身医学会、日本心療内科学会

弘前大学
保健管理センター
カウンセラー
田名場 美雪 先生

1998年:東北大学 文学研究 心理学
2002年:弘前大学保健管理センター 助教授
現在:弘前大学保健管理センター 准教授(カウンセラー)
(医学博士/医学系 臨床医学領域)
【所属学会】日本心理学会、全国学生相談研究会議、日本応用心理学会、日本心理臨床学会、東北心理学会

弘前大学生協
新入生サポートセンター
アドバイザー/
学生委員

佐々木 華穂 さん
(弘前大学 医学部 保健学科3年)

弘前大学生協
新入生サポートセンター アドバイザー/
弘前大学生協 常務理事

松本 雄大 さん
(弘前大学 大学院 理工学研究科 修士1年)

弘前大学生協
新入生サポートセンター 職員

中田 陽子

健康な人ばかりではない、改めて感じるその事実。

藤本:まず、佐藤先生と田名場先生にお伺いします。コロナ禍における弘大生の2年間を見てこられて、何を感じられますか?

佐藤 研 先生
佐藤 研 先生

佐藤:次々と変異株が出現して、感染状況や感染対応が刻々と変化していく中で、保健管理センターとしてどのような形で健康管理を進めていけばいいのかを考えてきました。大切なのは、学生や職員といかにコミュニケーションを取り正確な状況を把握して対応できるかです。しかし、直接お話を聞く機会を設けるのも難しく、関係が希薄になりがちなところがあります。また、どうしても目が届かない学生の存在というのが出てきてしまうのも悩みの種ですね。

田名場 美雪 先生
田名場 美雪 先生

田名場:相談に来る人も、来ない人も、孤独や不安を抱えて毎日を過ごしている。でも、それは、みんな同じですよね。3歳の子どもも、20歳の人も、60歳の人も…近所に住んでいる80歳過ぎのおばあさんが、「最近、誰とも話していないの」とおっしゃっていました。ただ、みんな同じだから、自分一人じゃないから頑張れるのではないか、とも思います。YouTubeを見て何か新しいことを始めようという気になれるのも、ある程度健康だからです。一方で、そうではない人たちが一定数いることも確かです。全てをコロナのせいにするのはどうかと思いながらも、つい「こんなはずじゃなかったのに」というのがどこかにある。私自身その気持ちをなかなかコントロールできなくて、もやもやしています。

藤本:田名場先生の『大学生のもっている対人関係充実に関するしろうと理論』という論文を読ませていただき、非常に感銘を受けました。

田名場:心理学にはたくさんの理論がありますが、専門家でない人たちもたくさんの着想を心の中に持っています。専門的な知識も重要ですが、相手から教えてもらいながら、一緒に歩いていくことが大事なのだということです。『しろうと理論』という考え方は、相手の言葉で語り、相手に受け入れてもらえる理屈で話をしなければ、何も始まらないということを教えてくれました。

大学4年間の中にもある、世代間のギャップ。

藤本:松本さんと佐々木さんは、現役の学生という立場で、お感じになっていることを率直にお聞かせください。

松本:プラスにもマイナスにも考えることができるという意味では、まさにそうだと僕も感じています。弘大のような地方の大学であれば、オンラインが就職活動をよりやりやすくしてくれたことも確かです。また、感染拡大前を知っている3、4年生は、またこれをやりたいとか、またみんなでこうやって集まりたいといったより明確な希望を抱いていますが、2年生以下の世代は、本来できるさまざまなことを見落としているような気がします。こうした点を解消するためにも学生同士がつながれるプラットフォームを作るというのが当面の課題だと思っています。

佐々木:やはり最初から何かが制限されている状態で大学に入ってきて、こうした中で何ができるのかが、全く思い浮かばない時期がありましたね。意識はしていないんですけれども、「こんなはずじゃなかったのに」とちょっとネガティブな思考になっていたのかもしれません。

藤本:では、普段から生協職員として学生に近いところで、また大学とも近いところでお仕事をされている中田さんはいかがですか?

中田 陽子
中田 陽子

中田:生協の共済には「無料健康相談テレホン」という、無料でこころやからだの相談ができるサービスがあります。電話での相談から見えてくる傾向として、コロナ禍では人間関係によるトラブルの相談が減少傾向にあるという点です。人と人とのいざこざがなくなるのは一見いいことのように思いますが、私はそう楽観的に捉えてはいません。人との関わりの中で傷付いたり、慰め合ったり、落ち込んだり、励まされたり、笑ったり…、 20歳前後のこの時期はそういうことを経験してこそ、豊かな人間形成が成されるのではないかと思うからです。
その一方で、コミュニケーションが苦手な学生もいるので、こういう学生はオンラインになったことで、「とてもすっきりしている」ようです。一人でいること自体は否定もしないし、一人でいるのが好きな人はいるでしょう。ただ、何か本当に困ったときに助けを求められるような人がいれば、の話です。それさえもいない学生がいる、そういう状況がとても深刻な問題だと思っています。

日本一学生に優しい大学の、大学生協とは?

藤本:学生の健康維持と経済的支援のために「100円夕食」など既にさまざまな取り組みをされていますが、これから生協と一緒に何ができるかを考えてみていただけませんか?

田名場:学部とか学年とかそういう壁を取っ払って、直接誰かとテーマのない話をしてみるのはどうでしょう。何気ない会話って、とても栄養になる。目的のある話は電話でもメールでも、ウェブでもできますけれども、意味のない会話は対面でないとできないんですよね。オンラインの時間というのは、目的的行動のみに限定されていますよね。15分でも20分でもくだらない話ができる、目的的行動でないことを目的としたこんな場を作りたいですね。

佐藤:そうですね、確かに直接相手の顔を見ながらする、非言語的なコミュニケーションは大事ですよね。講演や講義でもそうですけれども、相手の表情を見て、雰囲気を感じ取って言葉も変えるわけですし、そういうコミュニケーションが少なくなると、どうしても機械的な交流になってしまうことは否めないと思います。やはり、ある程度感染対策をした上で、そういう機会を持つということも大事かなと思います。

藤本:実際に新入生、保護者と対応されていて、今だからこそ思うこと、伝えたいことなどがあれば教えてください。

松本 雄大 さん
松本 雄大 さん

松本:今、大学生活に不安を抱えている新入生や保護者の方が多くいらっしゃいます。ただ、実際に大学生活を過ごしてきた身からすると、大学にはやっぱりまだまだ楽しいことがたくさんある。その部分を伝えていきたいと思いながら、最近は働いています。福田学長が「日本一学生に優しい大学」という目標を掲げていらっしゃいますが、大学生協の一員である自分としては、日本一学生に優しいというだけでなくて、学生同士のつながりを通じて「日本一学生が学生に優しい大学」を実現していきたいと考えています。

中田:福田学長先生が目指しているところの、「日本一大学生に優しい大学」の大学生協はどうあるべきなのか? 私なりに思うのは、困ったときに頼ってもらえることはもちろんですが、困らないように何ができるかというところも、同じように考え続けていくこと、そして、それを目に見えるかたちで実現していくことが大事だと思っています。

人との直接的なやり取りこそが、環境を変える特効薬。

藤本:最後に、本日の座談会を通じて、皆様より一言ずついただきたいと思います。

佐々木 華穂 さん
佐々木 華穂 さん

佐々木:自分たちの学生生活のことを考える、俯瞰して見る場だったのかなと自分では今日思いました。たった1時間ではありましたが、現在の状況もそんなにネガティブに考えることもないのかなって思えるようになったのが大きいですね。これから後輩たちのために何ができるかについても考えることができたので、4月以降の活動も含めて反映していきたいと思いました。

松本:やっぱりこの環境に対する特効薬というのは、環境を作るというだけではなくて、その先にある人と人との直接的なやりとりが何よりの特効薬になるんだと思います。こういう時代の中で大学生活を送って、人と人とのつながりの大切さというのを、やっぱり僕自身は学んでいったので、これからもどんどん楽しいことをしていきたい。恐らく歴史の中で僕たちがコロナ直撃世代として、これからの時代を担っていくと思うんですが、何よりも強い世代でありたいと思います。

中田:今の新入生、保護者の方々が抱く大学生活に対する不安というのを、やはり感じます。共済に関わっている人間として言えることは、共済はケガをしたらお金が出るというだけのものではないということ。共済がもたらす安心があるからこそ、その安心を支えに大学生活で果敢なチャレンジができると信じています。共済は、「生きて学ぶための保障」であることを新入生の人たちにも伝えて、学生生活を送る中で困った時は私たち生協職員もしっかりサポートしていきたいと思っています。

田名場:大学は学生が宝です。今日ここには2人しかいないけれども、会えてよかったです。学生の姿を見ることが本当に少なくて、姿を見るだけでうれしくなるんです。今日は肉声を聞くことができて、元気とアイデアをいただきました。目下の課題は、新入生ですね。新入生たちに、どうやって大学生になってもらうか、考えなければなと思っています。今日は貴重な機会をありがとうございました。

佐藤:なかなかこのように時間を取って生の声を聞ける機会はなかったので、こちらも大きな刺激を受けました。これからもこういう機会を積極的に作っていきたいと思います。

藤本:本日は、お忙しい中、貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。

『Campus Life vol.70』より転載

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