たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

特集座談会 Campus Life Symposium 学生の心身の健康を支える キャンパスに広がる健康と安心・安全の試み。特集座談会 Campus Life Symposium 学生の心身の健康を支える キャンパスに広がる健康と安心・安全の試み。

山口大学発、「ヘルシーキャンパス宣言」のもとでコロナ禍を乗り切る

コロナ禍の中、「ヘルシーキャンパス宣言」をし、学生の心身の健康維持に新たな取り組みを推進してきた山口大学。
オンライン授業や行動制限、ワクチン接種の実施、感染防止対策だけでなく、現場ではその状況の深刻さを実感するとともに、学生にいかに寄り添い、サポートできるかに心を尽くす日々でもありました。
今回は、保健管理センターの奥屋 茂先生を中心に、山口大学で保健管理に関わっておられる皆さんにお話を伺いました。

Symposium Member

奥屋 茂 所長
1983年山口大学 医学部医学科卒業
2020年~山口大学教育・
学生支援機構保健管理センター所長・教授・医師、
全国大学保健管理協会・理事、フィジカルヘルス研究会世話人

樋口 尚子 先生
2005年山口大学医学部医学科卒業、
現在、山口大学保健管理センター・精神科医

森福 織江 さん
山口大学保健管理センター・
保健師

安部 樹 さん
山口大学2年
(山口大学生協・
新サポ加入推進リーダー)

池田 康恵
山口大学生協
暮らしの自立支援事業グループ
共済担当

[司会進行役]藤本 昌
全国大学生活協同組合連合会広報調査部、
全国大学保健管理協会ヘルシーキャンパス運営委員

新型コロナウイルスの感染拡大の中、宣せられた「ヘルシーキャンパス宣言」

藤本:山口大学でも「ヘルシーキャンパス宣言」をされたとお聞きしましたが、宣言に至ったのはどのような経緯からだったのですか。

奥屋:2017年だったと思いますが、京都大学で初めての「ヘルシーキャンパス宣言」がなされました。そのお話をお聞きして、山口大学でもそれができないか、ということになりました。そこで学長、執行部の先生方にも相談して、昨年の6月1日、山口大学の創立記念日に合わせて、晴れて「ヘルシーキャンパス宣言」をすることになったというわけです。
実際に何をすべきかについても学内で十分な検討を重ねました。具体的には、新型コロナウイルスの感染拡大をいかに防ぐか、コロナ禍における健康診断の実施方法の検討、新型コロナウイルスワクチンの接種勧奨など、当時は新型コロナウイルスの感染拡大による業務が大変な時期でもありましたから、取りあえずやれることからやりましょうということでスタートしました。

藤本:コロナ禍での取り組みにも少し触れていただきましたが、皆さんはコロナ禍で何を感じておられましたか。

樋口:私が精神科医として保健管理センターにお世話になるようになったのは、ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃です。
コロナ禍になって気になったのは、帰省が容易にできなくなったことです。一人暮らしが初めての新入生であれば、新しい環境の中でホームシックになるのも当然ですし、不安になることも多いと思います。ただ、通常であればこうした場合、連休を利用してちょっと故郷に帰って、地元の友達に会ったり、家族と一緒に過ごしたり、生活リズムを整えたり気分転換を図ることができました。しかし、コロナ禍ではそれができません。精神の安定を自分の力で保つ、その方法の一つが奪われているというのは本当につらいことです。

森福:保健師である私の目から見ても2020年以降の学生たちの日常は、とても大きく変わったと思います。行動制限があったり、家族にも満足に会えなかったり、アルバイトができなくて経済的に苦しかったり、友人・先輩との交流が持てなかったり…。ただ、こうした中でも新型コロナウイルス感染症がもたらす影響を受け入れて、うまく付き合っていこうとしている学生がいることを知ることができました。例えば、オンラインで就職活動ができるので、交通費がかからないなどポジティブに捉えて過ごしておられ、そこには希望を感じました。「大変だけどそれだけじゃなかった」を共有できる場や機会があるといいですね。

池田:暮らしの自立支援事業グループで共済保険の担当をしていますが、学生たちには何かあったらひとまず大学生協の暮らしのカウンターに来るように言っています。私たちの共済保険で助けられることもあるでしょうし、もしなくてもプロとしてのアドバイスがきっと役に立つと思うんです。少しでも来た学生に笑顔になって帰ってほしいというのが、私たちスタッフ全員の思いなんです。

新型コロナウイルスがもたらした学生たちの心身の健康への影響

藤本:コロナ禍における学生たちの心身の健康について、特に心配していたのは、どのようなことでしたか。

奥屋:一人暮らしをしている新入生にとって、特に気をつけてほしいと思っていたのは、きちんと朝食を摂ることでした。特に4月、5月と新入生の生活がガラッと変わった時に、どうしても生活のリズムも狂ってしまいます。そこで、大学生協の皆さんの協力を得て、コロナ禍であっても食事だけはしっかり摂れるよう、さまざまな取り組みを実践してきました。
また、大学生協の皆さんとのコラボで「健康の森」という企画を行っています。普段、保健管理センターに足を運ぶことのない、あるいはできない学生たちに、学生スタッフの皆さんなどから声をかけていただいて、私たちが彼らと接する機会をつくっていただいています。

樋口:コロナ禍になって、確かにオンラインを利用する機会が増えました。ただ、これには悪い面ばかりでなく、よい面もあります。例えば、実家にいても講義に出席できたり、グループワークに参加できるのは、孤独感を強めないよう大学とのつながりを維持できる良い面です。ただ、夜にバイトが終わって、ようやくみんなが集まれる時間帯にオンラインミーティングを始めると、夜寝る時間が遅くなります。場合によっては、ミーティングが終わった後に一人反省会を始めてしまったり。そうすると眠れなくなり睡眠リズムが崩れやすくなってきます。彼らに対する睡眠アドバイスのようなことも、行っていかなくては、と思っています。

森福:この3年間は、学生が保健管理センターを利用する機会も少なく、彼らの中での存在感が薄まっていたように思います。そういう意味では、もっと日常的に保健管理センターがどのようなことで利用できるかをお知らせして、心身の不調だけでなく健康増進のための利用なども通常どおり戻ってきたらよいと思っています。

安部:私は学生スタッフとして大学生協で活動していますが、やはりコロナ禍の中では給付事例学習会が一番に思い浮かびます。新型コロナウイルス感染症に関わる給付も多くなっていて、事例を通じてこうした給付が学生生活の中で本当に必要なことを実感しました。私も大学生協に関わるまでは、自分がどんな保険に入っているのか何も考えずに過ごしていたので、保険も自分から見直して、自覚して、安心感もありつつ、ちゃんと事故のないように心がけて過ごしていけるようになりたいと思います。

池田:新型コロナウイルス関連でいくと、給付件数は今までに類を見ないくらい増えています。去年の9月からの給付事例を月ごとにまとめた冊子を作っているんですが、去年は月平均30件くらいだったのが、この6月には100件近くにまで増えています。全国的にも給付が10億円を超えた月でもありますが、大学生協に来てくれる人がすごく増えた実感はあります。

「3年生問題」の当事者たちといかに向き合っていくか

藤本:新型コロナウイルスは学生生活に大きな影響をもたらしましたが、特に「3年生問題」と呼ばれる現3年生へのそれはより深刻です。

奥屋:入学した時からコロナ禍だったこともあり、本来ならばしたであろう人との出会いやコミュニケーションをほとんど経験できず、その影響があらゆる局面で顕在化しています。最も顕著なのがクラブ活動ですね。1・2年生の時に年代が違う先輩、あるいは後輩と同じ目標に向かって一つのことに打ち込む。これからの人生を生きる上で、一生の財産になる出会いと経験の機会を新型コロナウイルスが奪ってしまいました。

樋口:奥屋先生が言われたクラブ活動問題でみられたのは、メンバーが少ないからちょっと休みたくてもなかなか休めないというストレスなんです。責任ある立場にいればなおさらで、体調が多少悪くても代わりがいないために無理をしてしまう。そうなる人は、大抵、責任感が強くて、何とか頑張って、結局もう駄目っていう感じになってしまうんです。

森福:オンライン授業から始まって、オンラインの操作にもやっと慣れてきたと思ったら対面授業に戻る。対面授業に戻ったら、教室がどこにあるのかわからず、大学の中を右往左往。本当に今の3年生は大変な時期を過ごしたんだなと思います。ただ、これも人生というスパンで考えれば、きっと良い経験だったと思えるはず。将来に無駄になることはないと思います。今と未来、その一部を保健管理センターでも何か関われたらいいと思っています。

安部:クラブの3年生の方に入学当初はどうだったか聞くと、緊急事態宣言が発令され、ほぼずっとオンライン授業で外出は自粛。クラブ活動がしたくても、勧誘もイベントもない。当然人との出会いそのものが制限されているから、友達をつくる機会すらない。つまり、最悪だった!と言っていました。自分だったらもう何も手につかなくなってしまったんじゃないかなって思ったりもしましたね。

池田:一つ思い出したのが、生協の前理事長がちょうどコロナ禍に入った時におっしゃられてた「生協の役割は日常性を保つことなんだ」というお話です。コロナ禍では来る学生も少ないけれど、できるだけ今まで通り続けるし、来てみたら何ごともなかったように営業している。大学生協を通じて、大学生活はここにあるんだと思ってもらえるようにすることが使命だと。直接声はかけられないけど、あの子、毎日パン買いに来てくれてるなみたいなのを私たちが知っておくだけでも、その子たちのためになることってあるのかなって、ちょっと余談ですけど思ったりはしました。

Withコロナ・afterコロナのキャンパスに広がる新たな可能性

藤本:これからの山口大学生協に対して、何か要望や期待することなどがあればお聞かせください。

森福:毎年4月の健康診断の時期に、健康診断の会場周りを新入生を連れてツアーをしています。それも大学生協さんですよね。コロナ禍で中断されていたようですが、去年あたりから復活されたようで。保健管理センターの前に来ると生協学生委員の学生が利用について詳しく説明してくださるので、スタッフ全員でありがたく思っていました。ぜひこれからも続けていただけたらうれしいですね。

樋口:去年メンタルヘルスチェックで引っかかった学生が半年後どうなったかを追跡調査しました。結果、メンタルヘルスに改善が見られない学生は、日常生活とか大学生活での不安を抱えている学生が多かったんですよね。そんな学生たちに、どうアプローチしたらよいかを考えていた時に目に留まったのが、大学生協の「学内ウォークラリー(新入生歓迎企画)」でした。このツアーは、一人で参加してもいいし、無理にしゃべらなくてもいい、ただ自分がそこにいていい。メンタルヘルスに問題を抱えている学生にとっては、そんな緩さがかえって心地よいのではないか、と。友達をつくるいい機会にもなりますし、いるだけでいいみたいな感じだったら意外と参加しやすい。これっていい方法だなって思いました。

奥屋:大学生協の活動というのは、基本的にどのようにアピール、周知されているんですか。

池田:SNSの発信とポスター、学生スタッフによる口コミなど、さまざまな手段で周知を図っています。

奥屋:学生相談所や保健管理センターについては、発信が上手にできず、その活動がまだまだ周知されていません。今は多くの学生が集う食堂などに仕切り板が設置されていますけど、保健管理センターに行ったらこういう相談ができるよとか、そういったこともぜひそこに掲載させていただければなと。

池田:カフェのところにはモニターが置かれていて、いろんなコンテンツを流しています。保健管理センターに関するデータをいただければ、すぐにでも流すことができますよ。

安部:よくお昼にFAVO Cafeを利用しますが、モニターでいろいろ流れているのはすごく目に付きます。

藤本:コロナ禍をいかに乗り越えてこられたか、そして、これからどのような可能性があるのか、たくさんの貴重なお話を伺うことができました。考えてみれば、互いに協力し合うことでまだまだいろいろなことができそうです。本日は、どうもありがとうございました。

『Campus Life vol.72』より転載

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