たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

特集座談会 Campus Life Symposium 学生の心身の健康を支える キャンパスに広がる健康と安心・安全の試み。特集座談会 Campus Life Symposium 学生の心身の健康を支える キャンパスに広がる健康と安心・安全の試み。

東洋大学ウェルネスセンター(学生の心身を健康面からサポートする保健管理室・カウンセリングや修学環境の調整を行う学生サポート室・ピアサポートルーム)にスポット。
東洋大学の矢口学長が進める合理的配慮義務の実現において、どのような役割を果たしているのか。

副学長であり、ウェルネスセンターのセンター長を兼任される早川 和宏先生を中心に、東洋大学の学生の心身の健康に寄り添っておられる方々にお話を伺いました。

Symposium Member

早川 和宏 先生
東洋大学 副学長
ウェルネスセンター センター長

鳥井 いおり さん
東洋大学ウェルネスセンター
学生サポート室・学生相談員

栃倉 晴美 さん
東洋大学ウェルネスセンター
保健管理室・看護師

千葉 結衣 さん
東洋大学 文学部2年

中津 拓人 さん
東洋大学 経済学部1年

柏木 浩樹 さん
東洋大学生協 専務理事

合理的配慮義務を支える中核、東洋大学ウェルネスセンター

司会:先日、矢口学長にお話を伺う機会があり、その際に出た「3 万人への合理的配慮」というフレーズがとても印象的でした。合理的配慮とは、障害者が社会の中で出会う、困りごと・障壁を取り除くための調整や変更のことです。これを矢口学長は、すべての学生に対しても、という姿勢でいらしたわけです。東洋大学ではどのような体制で合理的配慮を支えているのでしょう?

早川:矢口学長のおっしゃるすべての学生への合理的配慮を支える、その中心的な役割を果たしているのが、東洋大学ウェルネスセンターです。そもそも「ウェルネス」とは、「自らの健康な力を高めるとともに、それを活用してより積極的に生きようとする意志と実行力を有する状態」のことを指します。センターは、保健管理室、学生サポート室、ピアサポートルームという3つの部門で構成されています。各部門には専門職スタッフが配置されていて、常に連携しながら、一人ひとりの学生のウェルネスの実現を支援しています。

栃倉:白山キャンパスの保健管理室には、現在、看護師5名と校医がおり、急な体調不良やけがなどがあった際に適切な診療を施し、必要な薬を処方するといった業務を行っています。また、こころの不調がからだの不調に現れることは少なくないので、メンタルヘルスに関する最初の対応の窓口になることもあります。

鳥井:東洋大学は学生数3万人、ここ白山キャンパスだけでも2万人もの学生がいます。それに比例して白山キャンパスの学生サポート室も大変な大所帯で、ここだけで9名もの学生相談員がいます。英語でのカウンセリングが可能な相談員も3名在籍しています。具体的な活動としては、個人カウンセリングはもちろんのこと、学内での居場所づくりや交流会などさまざまなグループ活動を行っています。コロナ禍にあっては、これらの活動も基本的にはオンラインで行っていました。さまざまな障害はありましたが、何とか対応してきたという感じですね。

早川:ピアサポートルームについては、私の方から。ピアサポートルームは障がい学生への支援を専門スタッフだけでなく、仲間である学生たちが支えてくれるような体制を整えています。ピアサポートには、同じような立場の仲間が相互に助け合い、支え合うという意味があります。ピアサポートルームでは、学生同士の交流や仲間として支え合う体験を通して、学生一人ひとりが成長していけるよう、さまざまなプログラムを展開しています。現在行われている主なサポートとしては、聴覚障がい学生に対するノートテイク支援を一般学生から募って行っています。

コロナ禍を経て急速に増加する障がい学生支援件数

司会:新型コロナウイルスの感染拡大というような状況を経てきて、訪れる学生やその相談内容などについて変化はありませんでしたか?

早川:コロナ禍においては、キャンパスに来る学生自体が少なかったのです。しかし、徐々に状況が改善されてキャンパスに学生が来るようになると、支援を求める障がい学生の数が激増してきました。オンラインであれば家で受けられた授業が、対面になると通学電車に乗ってキャンパスに来なければ受けられない。電車に乗る際の困難であったり、教室という閉鎖空間が与えるプレッシャーで精神的に不安定になったり…、どうしても支援の依頼が増えざるを得ない状況になってきているようです。

鳥井:障がい学生に対して合理的配慮を行うにあたって、ピアサポートルームでは障がい学生支援登録というものを行っています。その数を検証してみると、やはり申請者数が10月の時点で、2022年度は2021年度の1.5倍の人数になっています。支援を申請した学生の多くが 精神障害、発達障害の学生であり、同時に学生相談を利用する傾向にあることでこちらの相談件数も増加しています。

栃倉:コロナ禍になって全てがオンライン授業になってからは、保健管理室を訪れる学生はほとんどいなくなりました。それでも学生が体調面での不調を相談できるよう、電話やメールでの相談対応を行っていました。また、健康診断の受診率が低下しましたね。感染への配慮から大学としては無理に勧めるわけにもいかないのですが、私たちの立場からすると心配なところではあります。

中津:ピアサポートルームで行われているノートテイクについて、こうした制度があることを全く知りませんでした。また、after・with コロナという流れの中で、障がい学生支援の申請者が増えてきているというのも初めて知りました。しかし、その背景を考えてみれば無理からぬことかもしれません。ノートテイカーへの応募を含めて、私自身が合理的配慮を支える一助となれるようにお手伝いをしていきたいと思いました。

大学の、大学生協の準備したセーフティネットをいかに知らしめるか

司会:いずれにしても重要なのは、学生生活の中に、いかに充実したセーフティネットが準備されているかどうかだと思います。そういう意味では大学生協の「学生総合共済」もその一つだと思うのですが…

柏木:東洋大学の学生を対象とした共済の給付件数および給付金額については、昨年11月までの1年間の給付件数が385件、給付金額は3,700万円超と一昨年のそれを大きく上回っています。また「こころの早期対応」という保障や「からだとこころの健康相談」というサービスの利用も増加傾向にあり、いずれもコロナ禍ならではの傾向と考えられます。

早川:大学生協の共済もそうですし、 大学のさまざまな支援制度もそうですが、それを周知し、行き届かせていくことの難しさというのがあると思います。先ほど、中津さんがノートテイクのことを知らなかったと言っていましたが、要するにそういうことなんだと思います。準備されたセーフティネットを使うかどうかは別として、まずは学生一人ひとりを「知る」というところに連れていけるかどうかがポイントだと思います。

鳥井:周知という意味でいうと、コロナ禍になって、毎年春に行われる新入生ガイダンスをここ数年は実施できずにいました。要は物理的に知らせる機会が減ってしまっていたんだとも思います。ただ、それは仕方のないことなので、そうした中でいかに知らせるべきセーフティネットの存在をアピールしていくかが重要です。特に精神障害や発達障害の学生は、デジタルへのアクセスそのものにウィークポイントがあったりしますので、そうした面でのサポートも必要です。

千葉:学生の目線で言わせていただくと、使用する媒体について、もう少し検討する余地があるのではないかと。例えば、学生は東洋大学のアプリを使って情報を得ることが多いと思うので、そこといかにリンクして情報発信するかを考えるべきではないでしょうか。もちろん、私自身も学生委員として、そういった提案をもっと積極的にしていけるよう頑張っていきたいと思います。

コロナ禍を経て学生たちは、きっと、もっと強くなる

司会:では、最後に「ともに学生のこころとからだのウェルネスの実現を考える」というテーマに関して一言ずつお願いいたします。

栃倉:人生というスパンで考えれば、今の学生生活というのは通過点にすぎません。今の備えは、20年後、30年後、40年後の健康につながっています。だからこそ、長い人生を健康で過ごすためにできるアドバイスを、心掛けて行っているつもりです。だから、何でもいいのです。少しでも気になることがあったら、気軽に保健管理室を訪れてほしいと思います。

鳥井:学生相談という視点でいいますと、メンタルケアのみならず、その学生さんが社会に出てからどのように生きていくかというところに、大きなウエートを置いて学生と日々接しています。そうした中で、ほんのりですけど、生き方の方向性のようなものを一緒に見いだすことができればと思っています。

早川:ウェルネスを実現する上で必要なのは、「自律」、まさに自分を律する力だと思います。コロナ禍の中で鍛えられたこの能力が、今の学生たちの中には育まれていると思うんです。黙食は確かにつらいけれども、それをせずに好きにしゃべっていたらどうなるのか。そのことを想像しながら、自らがすべきことをする。そんな世代が社会に巣立っていくことを、本当に頼もしく思っています。

中津:大学や大学生協のセーフティネットを知る、よい機会になりました。ありがとうございました。学生としては今日のお話をSNSなども活用しながら、自分たちなりのやり方で、広く拡散できればと思っています。

千葉:私も今日お伺いしたことを、さまざまな機会を通じて仲間や後輩に伝えていきたいと思います。

司会:本日は、本当にありがとうございました。

『Campus Life vol.73』より転載

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