たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

特集座談会 Campus Life Symposium 学生のこころとからだの健康と安全みんなで頑張った3年間の経験を糧に、コロナ禍後の明日へ。~過酷な経験を乗り越えた自分を信じ、仲間を信じ、経験を信じて~特集座談会 Campus Life Symposium 学生のこころとからだの健康と安全みんなで頑張った3年間の経験を糧に、コロナ禍後の明日へ。~過酷な経験を乗り越えた自分を信じ、仲間を信じ、経験を信じて~

コロナ禍での3年間という経験は、一人ひとりの学生たちにさまざまなモノを残しました。
ある学生にとってそれは、耐え難い、苦しみに満ちた経験だったかもしれません。またある学生にとってそれは、旧来の概念を変え、新たな価値観を紡ぎ出してくれるきっかけになったかもしれません。
今回は、名古屋大学 学生相談センターの鈴木 健一先生と岐阜大学 保健管理センターの堀田 亮先生を中心に、コロナ禍を経た学生たちのこころの健康という視点からお話をしていただきました。

Symposium Member


鈴木 健一 先生

名古屋大学
学生相談センター


堀田 亮 先生

岐阜大学
保健管理センター


髙須 啓太

全国大学生協連
東海ブロック学生委員長
(岐阜大学4年)


上木 太陽

〈司会進行〉
全国大学生協連
全国学生委員会
(2023年度)
 

新型コロナウイルス感染症との向き合い方は人それぞれ

上木:コロナ禍での学生生活は、本来の学生生活とは大きく違っていたと思います。私は文学部でドイツ語を専攻していましたが、入学したら絶対に行きたいと思っていたドイツ留学がダメになって、学業そのものに対するモチベーションを大きく落としたことがありました。私だけでなく、学生生活において、コロナ禍によるダメージを受けた学生も多いと思いますがいかがでしょうか?

髙須:私は地域科学部の学生ですが、授業の中でも特に実習でいろいろな街へ行きフィールドワークすることを楽しみにしていました。それがリモートなどに代わってしまったことが、結構ショックだったりしましたね。それ以上に、後輩たちが喜々としてフィールドワークしている姿を見るのが、少しうらやましいと思ったりしました。ただ、自分の場合は「コロナ禍でもマイナスをマイナスにしない」という意識が、いつのまにか自身のアイデンティティーになっていたように思います。

上木:コロナ禍の大学生活におけるさまざまなギャップによって、少しやるせない気持ちになることも仕方のないところではありますが、コロナ禍前後では、学生の、いわゆる共通言語というものがなかなか築けていないという印象があります。先生方にお聞きしたいのですが、その辺の時代の移り変わりみたいなところで、コロナ禍の学生をどうご覧になっていましたか。

鈴木:岐阜大学の学生も、名古屋大学の学生も、関西学院大学の学生もみんなそうだと思いますが、とても学生たちは頑張っていたのではないかなと思います。で、その中から、しっかりと自分たちの考えを主張する学生たちも出てきてくれて、それが全国大学生協連では大学生サミットにつながり、みんなの意見を多くの人たちに伝えることができて、みんなのパワーを感じることができたと思っています。一方で、学生相談に来ていた引きこもり学生たちは、そもそも社会と接触したくない人たちなので、自分たちが日頃やっていることが社会でも推奨されることでとても生き生きとしていました。一言では言えないけれど、みんながそれぞれ、どうやって大学生活に適応しようかと頑張っていた3年間だったと思います。もう一つ、授業の面でいくと、大学の先生たちがオンライン授業をほんの数週間のうちに全面的に取り入れて、そして、今までだったら出欠も取ってなかったような授業でも毎週課題を提出させるようになりました。だから、この3年間の学生たちは多分一番勉強している世代になるのではないかと思います。

堀田:新型コロナウイルスへの向き合い方というのは、やはり人それぞれだと思います。学生もそうですし、教職員もそうですし、言ってしまえば、それぞれの大学によっても違う。そのために特に最初の時期は、みんなが振り回されていたという感じはします。何かこう、正解がないというか統一されたものがない中で、そこに振り回されている学生たちの声をすごく聞いてきましたね。極端なもの言いですけど、学生は新型コロナウイルスで死ぬことの恐怖より、行動制限されることの恐怖がストレスとして大きかったのではないかと感じていました。

こころの状態を可視化する新たな取り組み、メンタルヘルス・チェック・システム

上木:学生たちの心身の健康をいかに保つかについては、最初はなかなか苦戦していたように思います。こころの健康については、学生総合共済の中でも2019年ぐらいから保障されるようになって、こころのセーフティーネットとして機能するようにもなったと思います。メンタルヘルスについては、世の中に認知はされてきましたが、まだなかなかそれを表に出すのは難しい側面があります。次に、そんなこころの健康についての扱い方、捉え方についてお聞かせください。

鈴木:堀田先生が言われたように、コロナ禍の受け止め方は本当に人それぞれで、必ずしも全員が全員、もう大丈夫と思っているわけではなくて、一部の学生は依然として心配しているし、死んでしまいそうだと思っている人もゼロではありません。そういう人は周りの人との温度差が広がってしまい、それがまた悪影響を及ぼすので、温度差を感じるような時には専門家のところに来て、しっかりと相談してもらえたらと思います。

上木:学生生活実態調査の中でも、実に多種多様な悩みがありました。堀田先生は、悩みを抱えた学生の不安に対して、どのようなアドバイスをされていましたか。

堀田:一番大事にしてほしいのは、自分自身のいつも通りをちゃんと把握することです。今いる状態が普通なのか普通ではないのかということは、いつも通りの状態がちゃんと自分で分かっていないと混乱してしまいます。そのいつも通りが分かると、それに比べて「少し落ち込んでいるな」とか、「少し元気だな」というのが分かります。私は今、大学生のメンタルヘルスのチェックシステム(CCAPS-iQAS)を作っているのですが、それは質問に回答すると自分の心の状態が見えてくるというものです。見えることで通常との違いも認識できますし、この基準より高いと注意という値との比較もできます。こころは目に見えませんし、なかなか数値化することは難しいのですが、「自分は普通の時、こんな感じだな」とか「何もない時はこんな感じだな」というのを、ぜひ自分自身で把握してほしいと思います。

上木:髙須くんは、どんな時に保健管理センターを利用しましたか。

髙須:せっかく準備していたものを全てリスケしなくてはいけなかったり、やり方の変更を迫られたりというのがすごくつらくて。以前に保健管理センターの先生に相談したことがあったのですけれど、しんどさとどう向き合うかという意味では向き合うのではなく気分を変えようというアドバイスをいただきました。気分転換には外出が良いのですが、なかなか出にくい時期ではありましたけれども、外出するとやはり気分が変わってリフレッシュできることは実感しましたね。

過酷なコロナ禍を経験したからこそ、新たな価値観で世の中を切り開いていく

上木:今年の5月からは新型コロナウイルス感染症も5類になって、世間的にはコロナ禍は終わったような雰囲気があります。そうはいってもコロナ禍にあったことが失われるわけではないし、あったことが今すぐに解消されるわけでもありません。その中でコロナ禍を経験した学生が、これから社会に出ていくに当たって、その経験をどう生かしていけば良いと思われますか。

堀田:コロナ禍を大学生として過ごした世代というのが、僕は社会を変えていくと思っています。その世代は、思い通りにならないとか、期待していたものが裏切られるとか…そういう経験をした中でたくさんもがいてきたはずです。何か新しいやり方を考えたり、今できることを探したり。むしろコロナ禍を経験したからこそ、10年後、20年後に世の中を変えていく何かを生み出してくれるのではないかと期待しています。
普通であれば、就職したら脈々とやられてきたことを、平社員として当然のように従っていくと思うのですけれど、そこに「でも、少し違うんじゃない?」といった視点を持っていけるのが、このコロナ禍を大学生で過ごした人たちなのかなという気はしています。

上木:例えば、今年の1年生はコロナ禍を高校生で経験した世代だと思います。そういう学生は、また私たちの世代とは違う考え方だったり、あるいは性質だったり、そういうのを持っているのかなと思うのですが、その点についてはいかがですか。

鈴木:これまでと違って、非常に皆さん活力にあふれているし、クラスも早い段階で結成されて、まとまりがあるように思います。まあ高校も大変だったとは思うのですけれど、その大変な中で共通テストにも適応し、受験も乗り越えてという、少しある種、精神的にタフな学生が多いのではないかと思ったりもします。まぁ、あくまでも私見ですが…

髙須:私は入学するとき、大学祭というものをすごく楽しみにしていました。コロナ禍のために一応オンラインでの開催だったのですが、それでも少し岐阜大生意識というか、自分の大学に所属している意識がついたように感じました。たかが大学祭かもしれませんが、こうしたことで学生が変わるという面はあるのでしょうか。

鈴木:そうですね。自分たちの活動を第三者の人たちに見てもらえるというのは、やはり学生の成長につながると思いますよね。

堀田:大学祭もそうですし、何かものを売るでも、何かを披露するでもいいのですが、「岐阜大学として何かをやっています」というのは、学生にとって所属感、帰属感、愛着につながるだろうと思いますね。だから逆に、コロナ禍でそういうものは少し失われてきただろうし、そういうものを渇望している学生もまたいると思います。

時間をかけて、無理することなくゆっくりと、徐々に進んでいけば良い

上木:最後に、この記事を読んで夢に向かって踏み出すきっかけになるような、メッセージをお願いしたいと思います。

髙須:コロナ禍は私たちからたくさんのチャンスを奪ってきたと思います。しかし、コロナ禍があったからこそ経験できたこともないわけではありません。同じ経験をした仲間たちとともに、その時代の気持ちや経験を糧にし、一緒に頑張っていきましょう。

堀田:先ほども申し上げましたが、このコロナ禍を大学生として過ごした世代に期待しています。とかくネガティブな体験と思ってしまう出来事でも、それがいつか財産になる時がくるという思いは、自分自身にでもあるけれど、ぜひ皆さんに伝えたいと思っています。ゆっくりでいいと思うんですよね。新型コロナウイルス感染症がなかった世界にフルスロットルで戻ろうなどとしなくてよくて、長い時間をかけて、こんな感じだったかなとか、徐々にこういうことやってみようかなって。社会が変わって何だかせかされる雰囲気もあるけれど、学生生活の中ではゆっくり適応していってもらえるといいと思います。

鈴木:コロナ禍で新しい価値観を手に入れた彼らが新しい日本をつくっていってくれると思うので、私もかなり期待をしています。日本サッカー代表の森保監督も、現役の時にとてもつらい経験をしたけれども同じ地でああいうふうに活躍してくれたし、自分を信じて、自分たちが経験してきた3年間を信じて、これからの学生生活を楽しんでもらいたいと思います。

上木:皆さんのお話を聞いて、コロナ禍後の明日に希望が持てるような気がしました。本日は、ありがとうございました。

『Campus Life vol.75』より転載

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