たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

学生のこころを守る取り組み

学生のこころを守る取り組み「セラピードッグ」という選択【札幌学院大学 学生相談室】

はじめまして、僕の名前はエース。
札幌学院大学の学生相談室に所属する「セラピードッグ」です。
コロナ禍による行動制限は、学生たちに大きな心理的ストレスを与えました。
そんな学生たちの傷ついた心を癒やし、未来へと目を向けさせるのが僕の仕事。
今日は、セラピードッグとしての僕の生みの親でもある札幌学院大学の河西邦人学長と
学生相談室の卜部洋子先生にお話を伺いました。


札幌学院大学の河西邦人学長と学生相談室の卜部洋子先生

あまりなじみのない人のために、まずは、ドッグセラピーについて教えてください。

卜部:ドッグセラピーはアニマルセラピーの一つで、犬とのふれ合いによってメンタルケアを行う手法です。一般的に盲導犬や介助犬、聴導犬が身体に障がいのある人の「からだの一部」となって生活を支えるのに対して、セラピードッグは人の「こころ」に寄り添い、癒やし、元気づける、そんな役割を担っています。たとえば、日常において物事がうまく運ばず落ち込んでいる時でも、愛犬がしっぽを振ってなついてくれるだけでこころが癒やされ、元気になった経験が、犬を飼っている方ならおそらく誰でもあるのではありませんか。

札幌学院大学では、なぜ、ドッグセラピーを始めることにしたのですか?

卜部:コロナ禍前から学生相談室の利用者は増えてきていたものの、学業や対人関係で悩み、誰にも相談できずに長期欠席している学生が少なからずいることは分かっていました。そこで、学生相談室を気軽に利用してもらえるようできないかと考えたのが「セラピードッグとのふれあいイベント」です。2017年から月に1回のペースで開催し、毎回、たくさんの学生や教職員がセラピードッグのエースとふれ合い、直接伝わってくる体温や感触を感じ、癒やされていました。

河西:札幌学院大学ではSDGsに関する基本方針が策定され、全学が一丸となってその実現に取り組んでいます。ドッグセラピーは、17ある目標の一つである「すべての人に健康と福祉を」への取り組みにも合致しているのではないでしょうか。また、ウェルビーイングという視点で言えば、学生とエースの姿は、人間と動物双方のウェルビーイングにかなっているのではないかとも感じています。

ドッグセラピーには、具体的にどんな効果があるのですか?

卜部:世界的な児童精神医のLevinsonによれば、動物が人にもたらす効果と影響として(1)心理的効果、(2)生理的・身体的効果、(3)社会的効果の3つを挙げています。(1)心理的効果として、動物とふれ合うと不安や緊張が軽減し、心理的に落ち着いた状態になること。(2)生理的・身体的効果として、動物を触ったりなでたりする、あるいは見ているだけでも血圧や拍数が下がること。 (3)社会的効果として、動物と過ごすうちにいつの間にか人に対して話しかけているなど、動物と一緒にいることにより、発話が促され言語が活性化されることなどが挙げられます。本学の学生たちもエースとふれ合いながら「温かい」「ぬくもりを感じる」「かわいい」「癒やされる」と語るなど、不安や緊張した気持ちを和らげ、自然と笑顔になって元気を取り戻す姿が見られています。

河西:学術的なお話は卜部先生にゆだねるとして、私の専門は経営学なのですが、実はいま、職場でペットを飼う事業者が増えていると言います。ペットを飼い、動物とふれ合うことで、従業員の仕事上のストレスの軽減にもなりますし、動物とふれ合って、仕事のことを忘れているときにポンとアイデアが浮かんできたりするのだそうです。また、ペットを介在して従業員同士の人間関係が良好に保たれるという研究結果も出ているようです。エースとのふれ合いの中にも、おそらくそれと似たような効果が出ているのだろうと、学生たちの表情を見て感じますね。

セラピードッグとしての僕の活動を教えてあげてください!

卜部:2017年から学生相談室の相談員の1人(1匹?)として、月に1回程度の割合でドッグセラピーを行っています。新型コロナウイルスの感染拡大にともなって開催も控えられていましたが、「視て癒やされる」セラピードッグの動画を本学のYouTube にアップ。学生や教職員、学内外を問わず非常に好評で、多くの人に視聴され続けています。
2021年10月31日には、全国大学生活協同組合連合会と全国大学生サミット実行委員会主催による「全国大学生サミット」に、本学の学生相談室からセラピードッグとしてライブ中継に参加しました。この「全国大学生サミット」は、コロナ禍の影響で大学生活が思うように送れない中、全国の大学生がオンラインで交流し、それぞれの意見や思いを語り合う、全国の大学生、教職員等を含む1100人が参加した一大イベントでした。

河西:また、2021年12月17日には、UHB 北海道文化放送の「みんテレ」の「金曜日のわんこ」というコーナーで、大学の職員として働いているセラピードッグとしてエースが紹介されました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響下において、学生のストレス緩和のため、徐々に少人数から学内外におけるセラピードッグのふれ合いを再開していることも伝えられました。現在でも、こうした活動は定期的に続けています。

ドッグセラピーの今後の展開について聞かせてください!

卜部:海外では、セラピードッグの研究は、これまでにも多く取り組まれてきました。しかし、学生相談室の企画としてのセラピードッグの研究は少ないです。そういう意味でも本学のセラピードッグのエースとのふれ合いは貴重です。今後はさらなる、セラピードッグの企画を取り組み、これまでの活動をまとめ、大学の学生相談室におけるメンタルケアのロールモデルとなるよう積極的に発信していきたいと思います。

河西:本学では、「One life,Many answers」をタグラインとしています。実はエースも元々は盲導犬として訓練を受けていましたけれど、残念ながらその道が難しいということで、今はセラピードッグとして活躍しています。一つの人生において、可能性は一つではないことをエースが証明しているわけです。同じように学生たちもいろいろな能力を持っている。うまくいくこともあれば、いかないこともあるのが人生です。個々の可能性を生かして、もっと人生の選択肢を増やしてもらいたいと思っています。エースのようにね。

『Campus Life vol.77』より転載

Campus Life vol.77へ戻る


学生総合共済