たすけあい情報室 (大学関係者向け健康・安全情報)

特集 Campus Life Symposium 学生のこころとからだを支える【座談会】ヘルシーキャンパスが、大学の価値・評価を高める。~立命館大学におけるヘルシーキャンパス活動の取り組み~特集 Campus Life Symposium 学生のこころとからだを支える【座談会】ヘルシーキャンパスが、大学の価値・評価を高める。~立命館大学におけるヘルシーキャンパス活動の取り組み~

コロナ禍以降、心身の健康に対する意識が大きく変化している中、ヘルシーキャンパスであることは、企業にとっての健康経営のスタンダード化と同様に、むしろ大学としては極めて当たり前のことになってきているのではないでしょうか。各大学ではそうした視点から、これまで以上に積極的に独自の取り組みを進めています。今回は、立命館大学保健センターの伊東宏先生を中心に、立命館大学におけるヘルシーキャンパス活動についてディスカッションをしていただきました。

Symposium Member


伊東 宏 先生

立命館大学 保健センター所長
教授・医学博士


松永 奈央子 さん

立命館大学 保健センター
保健師


阪口 樂 さん

立命館大学2年生
(立命館生協学生委員)


【司会進行】 的﨑 裕美

立命館生協 衣笠キャンパス
食堂店長・管理栄養士
 

大学としての責任でもあったヘルシーキャンパス宣言。

的﨑:立命館大学でも「ヘルシーキャンパス宣言」をしていますが、そもそもそれをするに至った経緯について教えてください。

伊東:ヘルシーキャンパスは、「大学が行うさまざまな営みに健康というコンセプトを盛り込み、教育を通じて健康を大切にする文化を社会に発信する」というものです。2017年に京都大学で初めて宣言され、その後全国に広がりました。立命館大学は2018年に京都大学の呼びかけに呼応する形で、京都に拠点を置く他大学と共に「ヘルシーキャンパス京都ネットワーク」を結成しました。そして、ヘルシーキャンパスの理念に基づき、学生はもちろん、教職員、地域の方々を含めたステークホルダーの健康増進活動に取り組むことを宣言しました。2018年のヘルシーキャンパス京都ネットワークは、当初、京都市内の7大学で始まり、現在では立命館大学をはじめ、京都外国語大学/京都外国語短期大学、京都看護大学、京都産業大学、京都女子大学、京都精華大学、京都大学、同志社大学、佛教大学の10大学が加盟し、京都から日本全国、そして世界へ健康を大切にする文化を発信しています。

的﨑:2018年というと新型コロナウイルス感染拡大の2年前のことですよね?

伊東:そうですね。うちに声が掛かったのが、2018年の夏のことでした。その後、いくつかの大学が集まって話し合いをして、同年11月に京都大学に続いて立命館大学がヘルシーキャンパス宣言をするに至ったというわけです。ちょうど学園祭の時でした。当時の総長であった吉田美喜夫先生によってなされたものです。

松永:現在、立命館大学ではヘルシーキャンパス宣言の下、ヘルシーキャンパス立命館運動を全学的に進めることで、学生や教職員の健康的な生活をサポートし、応援しています。

いまや日本全国に広がっているウォーキングチャレンジ

的﨑:基本的にはそれぞれの大学で健康増進に関するさまざまな取り組みをするのだと思いますが、最初から加盟大学が足並みをそろえて進めることができたのでしょうか?

伊東:確かに理念を共有するだけではネットワークとしての活動がスムーズにできるわけではありませんので、最初は年に1回だけ、共通のプロモーションを展開しましょう、ということになりました。そうして始まったのが、ウォーキングチャレンジという企画です。
2018年から立命館大学を含めた京都の主だった大学が数校参加して始まった企画でしたが、現在ではヘルシーキャンパス京都ネットワークで培われたノウハウを共有し、全国大学保健管理協会が共催、全国大学生活協同組合連合会が協力することで、全国の大学を通じて日本各地にこの運動を広げています。

的﨑:ウォーキングチャレンジというのは、具体的にはどのようなものなのですか?

伊東:個人でもグループでも参加できますが、ウォーキングチャレンジ参加大学・企業・団体に所属していること、対象地域の住民であることが条件となります。専用アプリからユーザー登録・参加登録をすればすぐに参加することができます。基本的には、2000人が1日8000歩を30日間歩くと月まで到達する、これを「ウォーキングチャレンジ Walk to the MOON」として共通の目標としました。2022年度、約4000名の参加を得て初めて月まで到達。そこで、2023年度はさらに多くの人が参加して目標を達成することを目指し、4000人が1日8000歩を30日間歩き、月まで往復する新たな目標を達成することができました。

的﨑:阪口さんは、ウォーキングチャレンジに参加したことはありますか?

阪口:はい、あります。高校の頃からけっこう歩いていた方だと思うのですが、私の場合、大学に入ってからの方が歩く距離が長くなりました。一人暮らしなので少しでも節約したい思いがあり、例えばバスで大学に通うと片道230円かかりますが、できればこれも節約したい。歩けば10分のことですが、ウォーキングチャレンジに参加すれば、節約にもなり、健康にもなる。まさに、ウィンウィンだなと(笑)。

ナッジ理論を取り入れた秘策バランストレーシート

的﨑:伊東先生は立命館大学に32年間お勤めになられているそうですが、その間、学生の健康状態について何か気づかれた点などはありますか?

伊東:長年にわたって学生たちの健康統計を取ってきているわけですが、年代によって何かが大きく変化しているということはありません。不思議なくらいピタッと一定を保っています。

的﨑:32年間、ずっとですか?

伊東:ええ。ただ、それが唯一、コロナ禍の年だけは違っていました。コロナ禍は2019年に始まっていますから2020年の健康診断はできませんでした。そのために20年のデータはありませんが、2019年と2021年の2年間のデータを見てみるとこれまでには全く見られない傾向がありました。どう変わっていたかというと、とにかく痩せてしまっていたのです。あれから何年かたって、コロナ禍も収束して、女子学生の方はぼちぼち戻りつつあるのですが、男子学生の方はというといまだに痩せ傾向のままです。

松永:長い年月の流れの中でほとんど変わらなかったのに、コロナ一つでガラッと変わってしまったのは、とてもショックでしたね。コロナ禍がいかに学生たちの心身にインパクトを与えたかを象徴するようなデータでした。

伊東:瘦せてしまった原因について確かなことは言えませんが、コロナ禍によって外出できず、食事を満足に取ることができなかったこと、生活習慣の変化によって体力が落ちてしまったことなどがあげられるかもしれません。だからコロナ禍が収束した後も、その時の生活習慣が身についたままでなかなか元に戻ってこないといったことも考えられます。

的﨑:学生にとって、食べることがいかに重要かを改めて認識させられた出来事ではありますよね。私たち大学生協も学生たちの食を預かる身として、ヘルシーキャンパス弁当や定食、バランストレーシートなど、先生方や学生たちのご協力をいただきながらさまざまな取り組みを展開させていただいています。

松永:ヘルシーキャンパス弁当や定食については、減塩や低カロリーなどのテーマをいくつか大学保健センターの方から提案をさせていただきました。
バランストレーシートについては、ヘルシーキャンパスフォーラムの講演の中でナッジ理論に関するお話があって、それを健康的な食生活の実践に利用できないかを考え始めたのがきっかけでした。ナッジ理論についていろいろと調べていた時に、玄関で靴をそろえて脱げない子どもに靴をそろえさせるために、玄関に靴のシールを貼ったところ、きちんとそのシールに合わせて靴をそろえるようになったというお話を見つけました。子どもに「そろえなさい」と言うのではなく、そのシール1つでそういう習慣が身に付いたわけです。その考え方を応用したのが、バランストレーシートなんです。ランチョンマットみたいなものをトレーの上に敷いて、そこにご飯茶わんや小鉢の絵が描いてあって、ご飯の絵のところにはご飯が置きたくなり、汁物のところには汁物が置きたくなる。そんなことを自然に仕向けられないかというのが、最初の狙いでした。

阪口:私もバランストレーシートには、お世話になっています。とにかく分かりやすいというのが一番ですね。しかも、ただ誘導するのではない、「ライス大」とか「運動量の多い人」とか「BMIが高い人」など、みんなが一緒ではなく、その人その人に合わせた選択ができるところもよいと思います。

伊東:同じ学生でも、一人ひとりかなり違うところがあります。そういう意味で、大学の食堂というのは難しい。基本的に誰にでも合うメニューというのはないのではないかと思っています。運動部の学生はカロリーを摂らなくちゃいけない、この子はたんぱく質が不足している、この子は少し減量が必要など、一人ひとりのニーズになるべくきめ細かく対応できるのが理想だと思います。

今までより、もっともっと、学生の健康を考えた大学でありたい

的﨑:では、最後にこれからのヘルシーキャンパスへの取り組みについてお聞かせください。

伊東:われわれがやっているヘルシーキャンパスというのは、学生や教職員一人ひとりが抱えている健康資源をもっと有効に生かしたり蓄えたりできるようにすることでもあります。キャンパスにおける日常のいたるところに、そうしたことに寄与できるような取り組みをちりばめることができたらと思っています。また、先ほどナッジ理論の話が出ましたけれども、極端なことを言えば、朝大学に来てから夕方家に帰るまでの間に、何も選択しなくても自然と健康的な生活を選んでしまうような、そういう仕掛けをキャンパスの随所に施すことができたら面白いと思いませんか?

的﨑:その辺は、大学生協にも協力できることがありそうです。

伊東:例えば、衣笠とびわこ・くさつキャンパスの学生の健康状態をもし比較したとしたら、運動量は恐らくびわこ・くさつのキャンパスの学生が多いと思います。その理由の一つが、キャンパスの広さですね。びわこ・くさつキャンパスでは、食堂に行くにも距離がある。実際、自転車置き場からキャンパス、建物までの間も相当に距離があります。あの距離を学生も教職員も歩いている。本人は不便だと思っているでしょうが、われわれからしたら不便益な、そういったものの仕組みがせざるを得ない運動になっていて、むしろいいのかなと。そういった仕組みを、もっと他のキャンパスにも導入ができたらなと思いますね。

松永:便利なものばかりに目を奪われるのではなく、たとえ不便なものでもよい面を見つけて、大学のシステムの中に組み込んでいく。そんなことができると、今まで以上にもっと健康を大事にする大学と言われるようになるかもしれませんね。

伊東:ヘルシーキャンパスであることが、大学の価値・評価の基準にもなり得るのではないかと思います。

的﨑:大学生協としても、より真摯に今ある健康課題と向き合っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

『Campus Life vol.79』より転載

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