「Campus Life」vol.79

円安にあらがい、海外遊学を

全国大学生活協同組合連合会
武川 正吾 会長理事
(東京大学名誉教授)

円安が続いている。年初には110円前後で推移していたのが、春先頃から急速な円安に転じ、7月上旬には160円を超え、約37年半ぶりの円安水準となった。外貨預金をしているひとは、さぞかしほくそ笑んでいるのではないか。

大学生協にとっても円安はただごとではない。輸入物価が上がり、学生も日々の生活にじわりじわりと影響を受けていると思う。円安によって食材だけでなく光熱費も上がるから、学生食堂のメニューの価格維持が困難となっている。もちろん生協の経営にも深刻な影響を及ぼすことになる。

ここで、日常生活以外の点についても目を向けてみたい。学生の海外研修、海外留学についてである。海外からの留学生にとって、円安はありがたいことである。「留学生はみな岸田首相に感謝している」と中国人ゼミ生が語っていたのを思い出す。親元からの仕送り額が実質的に増額されたことになるからである。しかし日本から海外に出かけようとする学生にとって、円安の影響はかなり深刻だ。コロナ禍が終わって、ようやく移動の自由が訪れた矢先に出鼻をくじかれたことになる。

私が学生の頃はなかなか海外に行きたくても行くことができなかった。1ドルが200円から300円もする海外渡航は高嶺の花だった。留学生試験に受かって海外に遊学できる学生が羨ましかった(遊学の遊の字は「遊ぶ」ではなく「旅する」という意味です。遊子は旅人)。学生時代は無理だったが、就職してから初めてもらったボーナスをつぎ込んで、ようやく海外に出ることができた。

鋭敏な感性をもつ若者にとっての海外経験は特別なものである。ところが最近の学生はなかなか海外に出かけようとしないと聞く。20年前に比べると現在の日本人留学生の数は減り、海外で働こうとする若者の数も減っているらしい。老婆心ながら、もったいないことである。

円安とはいえ1ドル200円の時代に比べれば、まだ円高である。円安にあらがい、海外経験を積む若者が多数現れることを期待したい。

全国大学生活協同組合連合会 
武川 正吾 会長理事
(東京大学名誉教授)

「Campus Life vol.79 グローバル人材の育成を、ともに進めていくために。」に寄せて

全国大学生協連
全国学生委員会(2024年度)
髙須 啓太
(岐阜大学卒)

2020年度にコロナ禍の中で留学への関心をもちながら入学した私は、コロナ禍によって一歩踏み出せる環境や動機、身近な仲間がなかったことから、早い段階で諦めてしまいました。

また、私のように留学に関心があった学生だけでなく、留学を検討していなかった学生にとっても、コロナ禍による外国人留学生の減少によって、日本の大学キャンパス内で国際交流やグローバルな体験をする機会が減少していたという現状があったかもしれません。

こうした背景の中、本誌では「留学の、その先へ。」と題し、コロナ禍を経た今、立命館大学のグローバル人材育成と大学生協がどのように向き合っていくのかを特集しています。立命館大学の学園ビジョン「R2030」には、「グローバル社会への主体的貢献」や「多様性を活かす学園創造」が掲げられており、これを組合員に寄り添った大学生協ならではの事業でサポートし、大学が追求するグローバル人材の育成を大学と大学生協がともに進めることが、わが国の国際競争力の向上にもつながると考えられます。

また、外国人留学生の組合員がキャンパスでの学びを深めるために、大学生協として生活面での支援はもちろんのこと、留学生と日本人学生がつながり、交流の場をつくることで、キャンパスがより学びと生活の拠点としての力を発揮できると信じています。

このような大学をどのように創造していくのか、今後も大学と大学生協が協力し、大学のビジョンを実現することで、よりよい大学、よりよい社会を築いていけると確信しています。

全国大学生協連 全国学生委員会(2024年度)
髙須 啓太(岐阜大学卒)


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