第12回全国院生生活実態調査 概要報告

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2023.03.31
全国大学生協連院生委員会
※データの無断転載はお断りします

<はじめに>

全国大学生活協同組合連合会(以下全国大学生協連)は、2022年秋に第12回全国院生生活実態調査を実施しました。

全国院生生活実態調査は、大学院生の生活実態を調査し、院生生活を向上させるための調査で、2016年からは2年に1度実施しています。全国規模で大学院生の生活について調べた調査は希少で、「普段どんな生活をしているかわからない」と言われることが多い大学院生の生活の実態を知る上で貴重な調査となっています。

この概要報告は、全国大学生協連・院生委員会の現役大学院生が分析・執筆を担当しました。

<調査概要>

調査実施時期

2022年10~11月

対象

全国の国公立および私立大学に在籍する修士課程(博士前期課程)・博士課程(博士後期課程)・専門職学位課程の大学院生

回収

4,645(回収率28.8%)

調査方法

Web調査(郵送またはメールで調査依頼し、Web上の画面から回答)

調査項目の概要

大学院生の研究生活、登校日数、収入・支出、アルバイト、奨学金、研究費の負担、悩みやストレス、進路・就職活動など

<サンプル特性>

  • 第12回全国院生生活実態調査は34生協が参加、4,645名から協力を得た。
  • 前回(2020年)と比較して構成比に大きな差異はなく、経年の比較にも耐えうる調査である。
    専攻は文科系が4.9ポイント、医歯薬系が1.9ポイント増加し、理工系が6.8ポイント減少している。

概要報告内表記について

  • 実額平均(実額)
    無回答の例数は含まず、「0」の例数を含む平均、特に注記のない「平均」は実額平均
  • 有額平均(有額)
    無回答と「0」の例数は含まない平均、「0」を除く回答の平均
  • 課程
    修士:修士、博士前期課程、一貫制博士課程1・2年
    博士:博士、博士後期課程、一貫制博士課程3年以上

第12回全国院生生活実態調査結果の特徴

  • 「ウイズコロナ」時代に適応した大学院生が増えており、感染防止対策を施した上での研究活動の広がりや、文科系院生を中心に在宅での研究スタイルの定着などの動きが見られる。コロナ禍以前よりも多様な研究スタイルが広がり、院生の生活の多様化が進んでいると考察できる。
  • アルバイトの増加や就職活動の早期化によって研究以外の活動に割く時間が増えている。これらの時間の使い方によって院生の研究活動に支障が出ている可能性がある。
  1. 1週間の研究時間は平均36.7時間。登校日数は平均4.4日と前回調査よりも微増。文科系院生を中心に在宅での研究スタイルが定着。
  2. 研究活動への「影響なし」を選択した人が33.2%と「ウイズコロナ」への適応が見られるが、自大学や他大学の同じ学問系統の人と交流する機会は減少。
  3. 「仕送り・こづかい」収入が減少し、「アルバイト」収入が増加。支出は「住居費」や「交通費」が増加。
  4. 研究費の個人負担は増加。理工系院生や医歯薬系院生では個人負担がゼロとなっている院生も多いため、二極化している傾向が伺える。
  5. 悩み・ストレスの要因には、「お金に関すること」や「時間不足」などが大幅に増えている。
  6. 修士進学を決めた時期については、大学3年生の時期が多く、理工系では42.7%と顕著。
  7. 修士課程修了後の進路は、就職と回答した人が大多数であり、就職活動の長期化が見られる。

① 大学院生の研究時間

  1. 平均な1週間での研究時間は36.7時間。文科系では33.8時間、理工系では37.0時間、医歯薬系では40.5時間となり、理系分野の方が、研究時間が長い傾向。
  2. 大学内での研究時間(研究室+研究室外)は、文科系18.7時間、理工系30.1時間、医歯薬系35.6時間と理工系・医歯薬系の方が長い。一方で、自宅での研究時間は、文科系13.2時間、理工系6.3時間、医歯薬系4.6時間と、文科系が長い。これらの結果から、文科系学生は大学への登校日数が少ない分、自宅で研究していると推測される。
  3. 研究スタイルの比較では、理工系・医歯薬系が「実験」と回答する人が70%を超える一方、文科系では、文献調査が56.9%、フィールドワークが24.3%と高いことから、フィールドワーク先や大学外の図書館などでの研究をしている人が多いと推測される。

② 大学院生の登校日数

  1. 登校日数については、平均4.4日と前回調査(平均4.2日)よりも微増している。大学院生はコロナ禍でも大学に通っていることが明らかである。
  2. 文科系では平均3.8日、理工系では平均4.5日、医歯薬系では4.8日となっており、理工系ではコロナ禍以前の水準に戻りつつある。一方で、文科系については、2018年調査では4.3日であったことから、コロナ禍を経て在宅での研究スタイルが定着してきていると推測される。
  3. 自宅生では平均3.9日、下宿生では平均4.6日と、大学と家の距離が近い下宿生ほど大学に通っている。自宅生には登校日数が1日、2日という層が多く、下宿生との有意差が見られることから、登校せずに研究できる人は自宅で研究している傾向がうかがえる。

③ コロナ禍の研究活動への影響

  1. 研究活動への「影響なし」を選択した人が33.2%となっており、「ウイズコロナ」の中でオンラインツールの活用や感染対策を施した研究手法の確立が進んだことで、コロナ禍での研究をうまく進めている人も多い。また、今回の調査回答者はコロナ禍後の大学院入学者が多く、当初からコロナ禍の影響を考慮した研究計画を立てている人もいると考えられる。
  2. 一方で、課題として挙がったのは、「学会の形式変更」が41.1%、「院生同士の意見交流が減少」23.7%となっている。また、学外研究関係者とのコミュニケーションも課題となっている。したがって、日頃の研究活動の中では大きな影響はないが、自大学や他大学の同じ学問系統の人と交流する機会が減少していることがうかがえる。

【大学院生の声(自由記述より)】

  • (勉学環境全般に関して)他大学との横の繋がりが全くない(コミュニティが小さく、閉鎖的である)。大学院生同士の学び合いや自分の研究領域外の学びに関しては、張り合いがなく、物足りなさを感じている。(文科系/修士/2年/女/自宅外・下宿)
  • コロナでしばらく会うことが少なかった学部3年生より下の学生や、これから研究室に所属する4年生たちは、同学年また学年を超えた関係が薄いがために調査方法に関する知識と経験が不十分になってしまっている。これに対応する教員は指導が増えて、負担も増している。(文科系/修士/1年/男/自宅外・寮)
  • オンサイトの授業があると、実験の予定が立てづらいことがあるので、大学院の講義は原則オンデマンドにして欲しい。オンデマンドが難しくても、オンライン講義なら、教室移動の時間を省けるので有難い。(理工系/博士/3年/男/自宅外・下宿)
  • オンライン併用で学会参加費が無料になったことは嬉しいが、コロナ禍前に行われていた学会後の懇親会(飲食を伴う)がなくなり他の研究者との交流の機会が減った。(文科系/博士/3年/自宅外・下宿)
  • コロナウイルスの影響で海外フィールドワークが打ち切りとなり、大幅なテーマ変更を余儀なくされました。 (文科系/博士/3年/男/自宅外・下宿)
  • コロナ禍前に大学院で実施されていた海外フィールドワークの提携プログラムが、軒並みオンラインでの実施や中止に陥り、個人での海外渡航調査の難易度が非常に高くなった。(文科系/修士/2年/男/自宅外・下宿)

④ 大学院生(修士課程)の経済生活

  1. 2020年と比較して、収入は「仕送り・こづかい」が減少しており、「アルバイト収入」が増加していることが特徴。支出は、「住居費」や「教養娯楽費」、「交通費」が増加していることが特徴。

  1. 自宅生では、2020年と比較して収入・支出とも多くの項目で増加している。特に「アルバイト収入」が5,000円以上増加している。また支出では「食費」や「貯金・繰越金」などが大幅に増加している。
  2. 下宿生では、2020年と比較して、支出ではアルバイト収入が増加している。多くの支出項目で減少傾向が見られるが、「貯金・繰越金」は増加しており安定志向がうかがえる結果となった。

  1. 大学院進学後のアルバイトは、「現在アルバイトを行っている」と回答した人が69.9%と2007年以降最も多く、大学院生もアルバイトに時間を費やす傾向がある。アルバイトについては、学部時代に行っていた人が77.4%と学部からの継続者が多いが、学部時代にしていないが現在行っている人も8.9%いることから、大学院進学後にアルバイトを始める人も一定数存在している。

  1. 暮らし向きについては、「楽な方計」が増えており、「苦しい方計」の割合も減少している。なお、調査した22年10月~11月の時点では、物価高騰の影響はまだ明らかではない。

⑤ 大学院生と奨学金

  1. 奨学金の受給率について、下宿生では貸与型奨学金を受給している割合が高い。また、学問系統でみると、理工系が貸与型奨学金を受給している割合が高い。一方で、給付型奨学金は文科系の受給率が高いが、実額平均は理工系・医歯薬系が高い。

  1. 貸与型・給付型を合わせた奨学金の受給率は、年々減少傾向が続いている。2013年以降を比較すると、奨学金の受給率はここ10年で11.5ポイント減少しており、特に貸与型奨学金の受給率が低下していることが特徴である。
  2. なお、政府が進めている高等教育の修学支援新制度では給付型奨学金の拡充が進められているが、大学院生が含まれておらず、日本学生支援機構の大学院生向け奨学金にも給付型がないため、学部生に比べると大学院生は給付型奨学金を受給する機会が少ないことに留意する必要がある。

⑥ 大学院生の研究費の自己負担

  1. 研究費の個人負担は増加している。コロナの影響が減少し、研究活動が増加したことによって、前回調査よりも研究費の個人負担が増えている可能性がある。

  1. 一方で、理工系院生や医歯薬系院生では個人負担がゼロとなっている院生も多いことから、研究費の個人負担をさせないというルールを持つ研究室も多いことが伺える。こうした状況から、研究費の個人負担は二極化していると評価することが可能である。

【大学院生の声(自由記述より)】

  • 学会出場の費用負担について、研究室間で対応が異なるので不平等を感じる。同じ研究科内では対応を統一してほしい。(医歯薬系/修士/2年/女/自宅)
  • 学会での成果発表に関しても、学会入会費、学会参加費、旅費・宿泊費が必要となるが、これがかなり研究費用を圧迫している。一部補助が下りる大学もあると聞くが、当大学ではすべて自分で支払っている(研究費の無い学生は入会費・参加費自腹で、旅費・宿泊費は指導教員の研究費)。結局は指導教員の研究費獲得状況によって学生の研究活動が制限されてしまうケースが存在すると考える。(理工系/博士/2年/男/自宅)
  • 研究室で自分の研究に与えられる研究費用についてプレッシャーに感じることがあります。(理工系/修士/1年/男/自宅外・下宿)
  • 国は大学院進学を推進しているのにも関わらず、研究費が少ない。また、学生にもっとお金を与えなければ研究力は衰退する。(理工系/修士/1年/男/自宅外・下宿)
  • 研究費用や生活費を自費で賄っているためバイトをしているが、そのバイトが忙しく、研究がなかなか進まない。研究費や奨学金をもらっている院生との格差がある。(文科系/博士/1年/女/自宅外・下宿)

⑦ 大学院生とSDGs

  1. SDGsへの関心について、全体的には「教育」「健康」などのテーマが高く関心を持たれている。
  2. 文科系では「教育」「平和公正」「不平等」への関心が高く、理工系では「エネルギー」「産業基盤」などが高く、医歯薬系では「健康」への関心が顕著に高いことが特徴と考えられる。自身の研究分野に関わるテーマに強く関心を持つ人が多い様子である。

⑧ 大学院生と社会とのつながり

  1. 2022年7月の参議院選挙の投票については、投票したと回答した人は、文科系に多かったが、理工系や医歯薬系は少なく、投票行動は専攻によって大きな差が出ている。
  2. 投票に行った理由では、「投票は権利だから」と回答したのは文科系が61.2%と最も多く、理工系が53.3%と最も少なかった。一方、「周囲に言われた」(周囲の人に促されて投票した)と回答した人は、理工系が最も多く5.4%あり、ここから投票には行ったが積極的な自分の意思ではなかった人も多かったと推測できる。(「投票した計」を100として)
    ※「投票した計」は、「当日に投票した」+「不在者投票をした」+「期日前投票をした」
  3. 投票に行かなかった理由では、「今の住所に選挙権がなかったなし」という回答の次に「関心がなかった」「他に用事があった」「面倒だった」との回答割合が高い。いずれも理工系、医歯薬系が多く、文科系に比べて社会に関心が薄い傾向がある。

⑨ 大学院生の悩み・ストレスの種

  1. 「お金に関すること」や「時間不足」などが大幅に増えている。アルバイト収入の増加の傾向が見られたが、お金に関する不安から数値が動いている可能性がある。また、「時間不足」については、アルバイトの増加や就職活動の長期化とも関連していると考えられる。
  2. 「研究活動」や「将来の進路」は多くの人の悩み・ストレスの要因となっていることが分かる。前回調査と比較すると減少しているが、悩みの種として大きいため、研究への支援や進路選択の支援の取り組みは引き続き重要となる。

【大学院生の声(自由記述より)】

  • メンタルケアの機関が機能していない。コロナ禍で学内の相談室が混雑しており、精神を病んだ際に頼ることができなかった。(文科系/修士/2年/男/自宅外・下宿)
  • アルバイトもできず収入もないのに家事もまともにできないほど研究に長い時間を割かなければならない状況です。将来は貸与型奨学金の返済に追われ、学部時代に頑張っていた貯金も底をつき、土曜日も平日扱いで人権のない生活です。(理工系/修士/2年/男/自宅)
  • 生活費を稼ぐために研究に裂ける時間や労力をバイトに充てる生活をしている人が多いと思います。もっと研究に専念できるように補助をしてもらえると嬉しいです。(医歯薬系/修士/2年/男/自宅外)
  • 現状、研究室に入ると研究室に1日の大半を費やし、バイトなどする時間もありません。毎日ギリギリの生活を送っており、切羽詰まっています。その上、研究は手を抜けない状況で、中途半端な結果を出せません。(理工系/修士/2年/男/自宅外・下宿)
  • 教授のパワハラ、アカハラ、モラハラがあまりにひどく、不登校気味やうつになる人が後をたたないため、風通しを良くしてほしい。大学の相談センターは学生ではなく教授を守るので第三者的な機関を設置してほしい。(理工系/修士/2年/女/自宅外・下宿)
  • 卒業必要単位数を満たすために取る授業の数が多く、授業毎にだされる課題に追われるほか、バイトもあるため研究に時間を十分に充てることができない。(理工系/修士/1年/自宅)
  • 研究上どうしてもアルバイトとの平行となり、研究書籍の購入を金銭的理由からためらいそうになる場合もある。(文科系/修士/1年/男/自宅外・下宿)

⑩ 大学院生と進路選択について(修士課程への進学)

  1. 修士課程進学を決めた時期について、大学3年生に進路を決めた人が最も多い。理工系では42.7%と顕著である。文科系では、最終学年の4月〜9月、10月以降、大学卒業後に修士進学を決めている人も一定数いることが分かる。
  2. 修士課程進学を決めた時期の変化を見ると、大学2年生~大学3年生での進路決定が増えている。一方で、学部最終学年(大学4年生)での意思決定については減少しており、大学入学後、数年学修や進路について考える中で、計画的に大学院進学を意思決定している人が増えていると考えられる。
  3. 修士課程に進学した理由は、文科系は「興味を深めるため」が67.1%と最も多く、自分の興味関心をもとに進学を決めている人が多いことが考えられる。また、文科系は理工系・医歯薬系に比べると「就職に有利」と回答している人は12.6%ととても少ない。これは、求人状況の違いが反映されているのではないか(修士課程在籍+修士課程修了を100として)。
  4. 理工系は、「就職に有利」(57.3%)の他、「進学が当たり前」(28.0%)「周りの人が進学した」(16.1%)など周りの環境に大きく影響されていることが分かる。医歯薬系では、「興味を深める」(50.6%)、「専門知識」(55.7%)などが多く回答されている(修士課程在籍+修士課程修了を100として)。

【大学院生の声(自由記述より)】

  • 学会を通して、社会で必要なコミュニケーション能力、文書作成能力、プログラミング力を養うことができており、学部のときよりも成長していることを実感している。(理工系/修士/1年/男/自宅外・下宿)
  • 学部時代よりも研究活動を突き詰め、学会発表や論文執筆を行うことができた。学外の協議会とも協働する機会をいただくという貴重な経験もできた。(理工系/修士/2年/男/自宅外・寮)
  • 初めて自分で研究目標を決め、論文を書いたり学会発表したりといった経験をさせてもらえ、充実した生活を送れている。(文科系/修士/2年/女/自宅外・寮)
  • より深く、少人数で勉強ができる環境に満足している。社会人学生が多いため、人生の先輩というか多様な価値観の人と会うことができたため、自身の研究の切り口が見えてきた。(文科系/修士/1年/女/自宅外・下宿)
  • 自分が興味ある範囲について、より理解を深められた。(医歯薬系/博士/2年/女/自宅)

⑪ 大学院生と進路選択について(博士課程への進学)

(博士課程進学予定+博士課程在籍中を100として)

  1. 博士課程に進学する(した)理由は、文科系が「研究を続けたい」(45.2%)、「アカデミックな職に就きたい」(22.9%)が、理工系・医歯薬系に比べて多い。このことからも、自分の興味関心をもとに研究を発展させたいと考えている人や、研究者などの職を希望する人は文科系に多いことが分かる。
  2. 一方、「博士号取得のため」と回答しているのは医歯薬系(40.7%)が突出して多い。
  3. 2020年からの変化を見ると、「アカデミックな職に就きたい」と回答している割合が文科系、医歯薬系で増加している。

⑫ 修士課程修了後の進路について

  • 修士課程修了後の進路
  1. 修士課程修了後の進路は、就職と回答した人が非常に多い。
  2. 進学と回答しているのは文科系が理工系や医歯薬系よりも割合が高い。
  • 修士課程修了後の就職先
  1. 現在考えている就職先の「研究機関」は、理工系(2.2%)が他の専攻に比べて多い。多くの企業が理工系卒業生に対して求人を出していることが影響しているものと考えられる。
  2. 「公務員」と「教員」、「研究職」は文科系の割合が多い。

  • 就職活動の期間
  1. 「6~12ヶ月まで」が28.0%と2020年調査より3.6ポイント、2018年調査より7.1ポイント増加している。ここからも就職活動の長期化の傾向がうかがえる(「就職活動をした」を100として)。
  2. 専攻別に見てみると、文科系の方が長期化する傾向が見られ、18ヶ月以上と回答している割合は圧倒的に文科系院生が高くなっている。
  3. このように就職活動が長期化すると研究にも影響が出ることが懸念される。

【大学院生の声(自由記述より)】

  • 研究と就職活動の両立が難しく、どちらとも中途半端になってしまうのではという不安はある。(理工系/修士/1年/男/自宅)
  • 就活も内定後の研修等も拘束時間が長く、学業や授業の出席への影響が大きい。(文科系/博士/女/自宅外・下宿)
  • 大学院に入学してすぐに就職活動を始めたのは、研究と就活を両立したかったからだが、企業の説明会は主に平日に開催されるので、実験をやりながら就活するのは難しいと感じている。また長期のインターンに参加するには実験を一回ストップしなければならないので、研究を進めたいが就活もしたいという気持ちで焦ってしまい不安が拭いきれない。(理工系/博士/1年/女/自宅)
  • インターンの実施時期が平日の企業が多い。ただでさえ、理系院生は学位取得のため、研究に追われているのに、インターンが平日にあり学業を圧迫するのは理不尽である。近年、優秀学生の囲い込みのため徐々に就職選考が早期化されていて、インターンに行かなければ内定が出ない企業もある。理系院生も公平に選考が受けられるようなシステムにしてほしい。(医歯薬系/修士/1年/男/自宅外・下宿)

分析を終えて 文科系大学院生の視点

分析担当:全国院生委員会・長崎県立大学大学院修士1年 松田あすか

  1. 研究費においては理工系や医歯薬系に比べて自己負担している割合がとても高く、研究費の確保が大きな課題である。また、就職に関する調査では、就職が有利になると回答している文科系院生はとても少ないことが明らかになった。海外は文科系の大学院進学にとても大きな価値づけがされているが、日本の企業は残念ながらそうではない。一般企業の多くは大学院の教育に対する認識があまりされておらず、修士号もしくは博士号を取得している学生を特別に評価することはあまりない。その上、博士号を取得した学生は、年齢や賃金の差別化などの理由からイメージがマイナスになってしまうこともあるようだ。
  2. このような厳しい状況である文科系院生であるが、研究費の確保など学生の経済状態に左右されず、誰もが自分の興味関心をもとに研究できる環境を整える必要がある。SNSやネット記事で散見される文科系学生の大学院進学に対するマイナスイメージ(「文系院生は就職の際に不利になる」「文系は進学しても意味がない」など)を払拭することで、学部生の早い時期に大学院進学という選択肢を知ってもらい、進学しやすい環境を作ることも必要である。
  3. また、社会に対しても、文科系に限らずだが大学院生の地位向上については今以上に働きかけていく必要がある。文科系は、社会の役に立たないという声も耳にするが、自分自身の生き方、そして社会をより良くしていくための知見を得ることができる学問の研究は、日々の暮らしにおいて、そして人間として生きていく上で重要な問いの答えを探すために必要不可欠であると筆者は考える。このような学問の追求は、社会を発展させる上での礎にもなるということをより多くの人に知ってもらい、文科系院生の研究に対しての理解を社会から得ていくことも大切だと考える。
  4. 2022年の実態調査より明らかになった課題をもとに、より多くの大学院生にご協力いただき継続して定性・定量調査を実施し、社会に大学院生の生活実態を発信していくことで、文科系分野のみならず日本全体の研究発展につながるものと考察する。

分析を終えて 理系(理工系・医歯薬系)大学院生の視点

分析担当:全国院生委員会・大阪大学大学院修士2年 矢間裕大

  1. 理工系・医歯薬系の大学院生について、「ウイズコロナ」時代に適応しながら研究活動を進めていることが明らかになった。感染防止対策などを徹底し、研究室での実験や文献調査などを進めることができるため、コロナ禍を考慮した研究活動が進んでいるのであろう。研究室の滞在日数もコロナ禍以前の水準に戻りつつある。一方で、自由記述欄からは「コアタイムが厳しい」「研究以外に割く時間がない」といった声もあり、その結果、研究室内の人間関係に悩む人や、時間不足を感じている人も多い。長時間同じコミュニティで過ごすからこその不安やストレスにもケアが必要となるだろう。さらに、コロナの影響を受けて他大学の人とのつながりが薄れているという側面もあるため、大学を超えたネットワークづくりも今後重要になるであろう。
  2. 今回の調査では、理工系大学院生も就職活動が長期化していること、アルバイトにかける時間が長くなっていることが伺えた。特に、理工系大学院生はスカウト等の制度もある一方で、研究の時間を割いて就職活動を行うことで、自身の希望の進路を叶えている人も多い。そうした状況の中で、インターンシップを通じた選考の広がりや、就職活動の早期化などに伴い、研究と並行して就職活動に取り組む期間が長くなっている様子である。また、研究の合間でアルバイトに取り組むことで学費や生活費を捻出しているという自由記述の声もあり、研究以外の活動に時間を費やし、本業である研究に力を注げないという事態が起こっていると考えられる。
  3. 研究費の自己負担については、文科系院生よりも負担が少ないという結果になったが、自由記述の声からは、研究室や指導教官の状況によって差が激しいことがうかがえた。競争的資金を獲得することが求められるようになっているが、基礎研究など資金獲得が難しい研究分野も存在する。そうした分野に籍を置く大学院生は、研究に使う資材や文献を自己負担で調達している状況もある。同じ大学であっても、所属する分野や研究室によって差が生じているのが現状であることから、社会全体で大学院での研究の必要性を認識し、予算を拡充していくことが求められるであろう。
  4. 博士課程への進学希望者が少ないことが大学コミュニティでは課題とされている。博士課程進学者の中で、「研究を続けたい」という人は減少しており、「まだ社会に出たくない」という層が増えている。研究自体の魅力を実感した人が博士課程への進学と、アカデミック職への就職が難しいという状況があることも推測される。この間、理工系・医歯薬系のアカデミック職に関しても、ポスドクが増加しており、安定的な生活を実現することが難しいというニュースが散見される。研究を続けたいと思う人が、その目標を継続できるような制度と社会全体での理解を広げることが重要であろう。
  5. 2022年の実態調査より明らかになった課題について、さらに深い声と実感を把握し、それらを社会に大学院生の生活実態を発信していくことで、大学院生への理解を広げ、生活向上につなげたい。