髙木 朗義 氏インタビュー 防災、減災を 日常生活で実践する~誰もが幸せに暮らせる社会を目指して~

毎年のように起こる大雨災害。今夏も豪雨や台風により全国各地が被害に見舞われ、自然災害の脅威を感じない年はありません。全国学生委員会でも大学生に防災意識を呼び掛けてはいるものの、一人ひとりにどこまで届いているのか不安を感じるところでもあります。

岐阜大学の髙木朗義教授はアプリ『減災教室』を共同開発し、講演や人材育成などを通して地域の防災に取り組んでこられました。2023年は関東大震災から百年を数え、東日本大震災からは12年となります。同委員会メンバーは9月1日の防災の日を前に髙木教授にインタビューし、大学生だからこそ意識すべき災害対策について伺いました。

インタビュイー

岐阜大学
社会システム経営学環 教授

髙木 朗義 あきよし

プロフィール

聞き手

全国大学生協連
全国学生委員会 副委員長

鳥井 和真
(司会/進行)

全国大学生協連
全国学生委員会

梅田 叶夢 とむ

全国大学生協連
全国学生委員会

古橋 さとる

大学生協連
東海ブロック
学生事務局

髙須 啓太

(岐阜大学4年生)

(以下、敬称を省略させていただきます)

はじめに ~自己紹介とこのインタビューの趣旨~

本日はお時間をいただきありがとうございます。私は全国大学生協連全国学生委員会の鳥井和真と申します。2022年に山形大学を卒業し、現在は東京で活動しております。本日はよろしくお願いいたします。

同じく全国学生委員会の梅田叶夢と申します。今年3月に岡山大学を卒業しました。

同じく全国学生委員会の古橋悟と申します。今春九州大学を卒業しました。

東海ブロック学生事務局で学生委員長を務めております高須啓太です。岐阜大学4年に在籍中で、高木先生の授業を履修させていただきました。

今年は関東大震災から百年になります。東日本大震災やこのところの豪雨被害も記憶に新しく、大学生の防災意識については私たち全国学生委員会でもさまざまに発信していますが、難しい面もあります。このインタビューを通して、ぜひ今の大学生に伝えるべきことをお聞きできたらと思います。

岐阜大学社会システム経営学環の髙木です。専門は土木計画学です。具体的には、土木工学の中でも都市計画やまちづくり、防災、事業評価という分野を専門としています。土木というと橋やトンネル、河川、道路など大きなものづくりですが、その仕組みも含めて、私たちが生活していくための基盤が土木であり、その計画や運用について教育・研究を行っています。

災害を「自分事化」するには

『減災教室』で気付きを

「地震なんか起こらないだろう」と毎日を何気なく生き、災害を自分事として落とし込めていない大学生がいます。災害時、まずは自分の身を守るための行動やそのための備えについてお話しください。

誰も助けてくれない、厳しい条件下で生き抜くという局面に立った時に、自分の命は自分で守らなければならないのだということに、まずは気付いてほしいですね。日常生活では、なかなかそうした厳しい状況に置かれることはありませんが、そういう事態を想定して「自分事化」することが重要だと思います。

災害を自分には関係がないと思う人もいますが、自分事化するためのコツはありますか。

小中学校では災害についての知識をいろいろな場面で習得しますが、それを自分ができているのかチェックすると、できていないことが多いのです。ですので、自分の実力と課題を確認し、気付きを得ることが必要です。
私たちが共同開発したアプリ『減災教室』は、「あなたはこんなことができていますか?」という質問に「はい」「少し」「いいえ」で自己評価すると、トータル百点満点で点数が出ます。アプリ『減災教室』のQRコードからアクセスするか、インターネットで『減災教室』と検索してください。初級コースの20問は3分あればできるので、それをやっていただけると最初の気付きになると思います。

(初級コースに取り組む)


アプリ減災教室のQRコード

↑『減災教室』をもとに岐大生が一般社団法人と商品化したカードゲーム「減災教室トランプ&ビンゴ」は岐阜大学生協で販売中

私は福島県出身で、東日本大震災の時に被災経験をしています。やはり水がないと大変だったなとか、現実に今停電したら暑いだろうなとか考えるのですが、「今1週間水が止まったら生きていけるほどの備えがあるか?」と聞かれると、実際にはそこまでできていないのが現状です。東京に引っ越してからまだ近隣マップも見ていなかったので、こういうチェックがあると確かに気付きになります。

世の中には防災の講座や講演会はたくさんあります。皆さんそれに参加して「備えなければ」と思っても、大体その場限りで終わってしまい、具体的な一歩につながらないのです。このアプリでは、自分が災害に備えられているかどうかを簡単にチェックできるようになっています。特に初級コースの20問は、防災の研究者による災害で人が亡くなった原因についての研究成果を踏まえて作っています。東日本大震災では津波による溺死が圧倒的に多いのですが、多くの直下型地震では家屋の倒壊が原因で亡くなっていますので、そこに注意してほしいとのメッセージも入っています。次に家具の固定など学生さんにもできる備え、あるいは被災したら最低3日間くらいは自分で食を維持できるように、特に水などの常備という最低限の項目が並んでいます。
どうですか、皆さん点数は出ましたか?

私は16点でした。まず平均スコアが66点ということに驚き、自分の意識の低さを痛感しました。以前東京に住んでいた姉に、東京では水道が止まったときの備えが大切だと教えられたので、水を20本くらい常備しているのですが、ほかのものも意識しながら備えていこうと思いました。あとは「家族とどうするのか」という質問がかなり多かったのが印象に残っています。

それ、重要なことですね。実は防災の活動をしている人たちでも、家族と防災の話をしていないという人が結構います。家族で話す機会が今減ってきているので、これをきっかけにしてほしいですね。また家族だけでなく地域とのコミュニケーションも大切です。実際に被災すると地域で支え合い、助け合わねばならないので、その重要性を最後の4問に入れています。

私は28点で、まだまだだなあと感じました。私も鳥井・古橋と同じく今東京に住んでいますが、確かに避難場所を意識したことはありませんでした。そういう人は結構多いと思うので、防災や災害時の対応を伝えることの大切さを改めて感じました。

アプリ『減災教室』開発のために、岐阜大学工学部1年生約500人に講義で協力してもらいました。受講生の友人や知人にも勧めてもらって、3年間で合計8,000人以上がこのアプリを使いました。このように防災の専門家でなくても防災意識や災害の備えを広げられるということが研究成果として出ているので、さらに、これをきっかけにもっと学生さんに広がっていくと嬉しいですね。

家族や近所との関わりを重視

先生が気になった数値、反対に思ったとおりだったという結果はありましたか。

思った通り、多くの学生ができている項目は「揺れた時にちゃんと行動がとれていますか」です。皆さんは子どもの頃から防災訓練をやっているので、ここはかなりスコアが高いですね。反対にできていないのは「家族と話をしていますか」です。「近所とコミュニケーションをとる」もスコアが低いですね。自分が「少し」「いいえ」と回答した項目が自分にとっての課題だという位置付けなので、まずはそのことに気付いてほしいです。

確かに私も家族や近所との関わりに関する設問は全部「いいえ」です。学生時代も含めて、周りに誰が住んでいるのか知らないという環境でした。そこから一歩踏み出し、何か行動を起こす意識みたいなものがあれば教えてください。

今夏の8月2~3日の2日間で中学生向けの「ジュニア防災リーダー講座」を開催し、中学生にも『減災教室』をやってもらいました。最後に各チームで、これから心掛けていこうと思うことをプレゼンしてもらうと、単純に「明日から近所の人と会ったら挨拶します」って言うんです。そう、やはりそこからだよね、と共感しました。近所付き合いは希薄になってきていますが、挨拶されたら気持いいじゃないですか。私が中学生から得た気付きでした。

小中学生なら地域の人に挨拶するのが身に付いていますが、大学生は、特に実家を離れたりすると、地域の方とどんなふうに接していいのか分からないと感じていました。でも今のお話を聞いて、そういう意識を少しずつ変えていこうと思いました。