「RICE MEDIA」トム 氏 インタビュー 社会課題の「未認知打破」に取り組む ~まず「知る」、そして「知り続ける」ためのアプローチ~

『プラなし生活』と『フードロス』

『プラなし生活』の反響とその後の変化

いろいろ活動されていく中で、動画の発信に至ったと伺いました。私も『1ヶ月プラなし生活』という動画でトムさんを知ったのですが、動画の反響や、ご自身やRICE MEDIAの活動の変化を教えてください。

今までやった企画の中で一番反響がありましたね。再生数も全体で3400万回ぐらいで、RICE MEDIAの認知のきっかけにもなりました。学生の方からのメッセージもたくさん頂いて。すごくうれしかったのは、RICE MEDIAって社会課題をそんなに声高に訴えているわけではないのに、「今まで意識しなかったけど、この動画を見てこういうことを始めるようになりました」という声を頂けたことです。『プラなし生活』をきっかけに少なくとも視聴者さんの行動変容を促せたというのは、大きな成功体験として残っています。

それで、僕らが伝えようとしている社会課題も企画を乗せて発信していけば届けられるんだな、届いたら関心を持ってもらえるんだな、と実感できました。まさにそこからYouTube、TikTok、Instagram等で主にショート動画を配信して、多くの人に社会課題に関心を持ってもらうアプローチになるような挑戦を始めるようになりました。

1カ月の生活が終わった後にプラスチックが恋しいと感じることはありましたか(笑)。

逆のことが起きました。「終わりました。今日からプラスチック使っていいです」って言われても、プラスチック製品を買えないんですよ。これ買っていいのかな、これだけ1カ月続けて来たのに。体がその生活に慣れちゃっていたんです。この企画を始めて間もない頃の方が「使い捨てプラスチック気にせずに買い物したい」と感じました。人間って面白くて、やっぱり習慣化する生き物をなんだな、本当に1~2週間意識して生活するだけで、脱プラ生活も無理なく続けていくことができるんだと感じました。

視聴者に気付きを与えた『フードロス』

大学生協は「食ロス」の問題にも取り組んでいます。RICE MEDIAには『フードロスだけで10日間生活してみた』という企画もありましたが、そちらでも変化はありましたか。

同様に「フードロスを知らなかった」という声を頂きました。僕らは生産者さんの所に行って、そこで出ているロスとか、普通はなかなか知ることができないような場所を取材して配信していたので、目に見えない所でそれだけのロスが出ていることは知らなかったというコメントが結構ありました。

動画の終盤で伝えたのは、これだけお店や生産地から出ているロスが多いと言われるけれど、実はほぼ同量のロスが家庭から出ているという現実。そういう気付きは『プラなし生活』と同様、やっぱり「知らなかった」という反響がありました。あとは僕らが「TABETE」というアプリを紹介したり、できることを提案したのですが、「それをやってみました」というメッセージやコメントもすごく頂いたので、再生数は『プラなし生活』のほうが多かったけれど、『フードロス』で、視聴者さんに気付きを与えられたという実感はありました。

TABETE……店舗・業者でフードロスの危機に瀕している食べ物を、ユーザーとマッチングするアプリ。


令和2年 環境省「消費者向け情報 食品ロスポータルサイト」より
食品ロスはどれくらい発生しているのか?

また、これまで1カ月スパンの企画は結構やってきましたが、『フードロス』で10日間の企画でも興味を持ってもらえるのが分かり、それ以来ショート動画の企画もどんどん増やしていこうと思いました。

全員の「自分事」より全員の小さな一歩を

社会活動はいかに楽しく、自然にできるかがカギ

現在もなるべく『プラなし生活』を意識していらっしゃいますか。

今もずっと意識はしていますが、もちろん普通にペットボトルも、使い捨てプラで包装されたものも買います。そこは無理なく負荷をかけない感じです。ただ、やはり選択肢があるなら、できるだけ使わないようにするとか水筒を持ってくるとか、できることはやりつつ、無理のない範囲で“脱プラ”を続けています。

最近、紙ストローを使う店がありますが、ちょっと飲みにくいですね。

難しいですよね。人間って無理をすると続けられないと思います。本当に切羽詰まった状態でない中で我慢を強いられると、やはり多くの人は巻き込まれないだろうと思います。
社会活動に巻き込むアプローチとして大切なことは二つあります。一つはいかに楽しくできるか、もう一つはいかに自然にできるか。紙ストローの場合は、味が落ちるとか使いづらいところがマイナスに捉えられている原因かと思うので、そこを乗り越えてより自然にごみを減らせる動きができてくるといいと思います。例えば、オーストラリア等の諸外国では「米ストロー」を使うところが多いです。生分解性があり、自然に流出しても分解されて、紙より弾力がある素材なので飲み心地もよく、気軽に「脱プラ」を始められます。

ただ一方で、そもそも使い捨て容器は大部分が石油成分なので、大量に使った後にほとんどリサイクルされず燃やされていることが問題です。例えば今、フランスでマクドナルドの食器やポテトのケースをリユーザブルな素材で作るなどしてゴミを減らす実証実験が行われています。そういう新しい選択肢が増えてきてくれたら、と期待しています。

とりあえずできることから始める

若者が環境に関心を持ち、自分事として捉えていくために、どのようなことが大切なのでしょうか。

「自分事」ってその物事に対して関心が非常に強い状態で、その関心って、僕はかける“時間”によると思います。自分に関することって一番自分事だから、24時間で自分に割く時間は一番長くて当たり前ですよね。じゃそれ以外ではどういうところに時間を使っていくかというと、家族、恋人、趣味……そのように自分の関心があるものを優先すると、地球環境に時間を割くには、それを自分の生活ぐらい関心があるものにしなければなりません。

そもそも日頃関わりがないものを自分事にするのは、難しくて当たり前だと思います。環境問題では、自然環境と日頃どれだけ関われているのかは非常に重要です。例えば農家さんや漁師さんは、今地球温暖化の影響をすごく受けていますが、消費者はその近くにいないから、そのことにあまり気付きませんよね。

社会課題や環境課題を自分事に捉えたいなら、現地に足を運んで体験するのが一番いいと思います。ただ、皆が皆できることではないし、完璧を求めすぎるとなかなかハードルも高いので、それを強いることはかなり難しい。RICE MEDIAも意識して、どうすればもっと気軽に「とりあえずできることからやってみよう」と思える人たちを増やせるかということを研究しています。僕らの発信を見てもらえば分かりますが、無理強いは絶対させません。押しつけないし「絶対やってくださいね」みたいなメッセージは出さない。

あとは自分たちがまず楽しむ。楽しそうに見せて、自然とやってみたくなるようにするにはどうしたらいいかと考える。大衆を動かそうとするならば、全員を自分事化させていくのは狙わず、多くの人が小さな一歩を踏み出してできることをやるという状態を作るための方法を考えるほうが有意義だと思います。