「RICE MEDIA」トム 氏 インタビュー 社会課題の「未認知打破」に取り組む ~まず「知る」、そして「知り続ける」ためのアプローチ~

目指すのは「未認知の打破」

「知る」ことから全ては始まる

関心を持ってない人にやってほしいこと、求めることはありますか?

僕らは社会課題の「未認知の打破」を掲げています。「知る」ことから全てが始まりますし、知り続けることが関心を保ち続けることにつながるので、まずは行動以前に知り続けてくれたら嬉しいですね。
自分と関わりがない問題って「興味持たなくていいじゃん」と思いがちです。実際に社会問題の中には、知らないほうが気持ちが楽でいられることってたくさんあります。知ってしまうが故に苦しくなる問題っていっぱいあると思うんです。それを「見ない」と選択する人を責めることはできませんが、強いてそういう人たちに求めようとしたら、やはりせめて世の中で起こっていることを知ってもらうわないと全てが始まらないと思います。

そのあとは、基本的に自分の意見を持って、それを周りの人に伝えることだと思っています。社会とは人の集団なので、一人一人の価値観や選択がその社会にどんどん反映されていきますよね。それが沈黙になると、今の社会体制の加担、沈黙の賛同となり、「これでいいです」って言うのと変わらなくなってしまうので。
もし良い社会をつくりたいとか社会を変えたいという気持ちがあるのなら、それを少しでも周りの人に話すこと。自分はそう思わないとか、こうしたいと意思表示していくのが、一番ボトムにあって誰でもできる、でも実は非常に大切なアクションだと思います。

トレンドを意識して伝える

社会活動の認知を広げていくために、トレンドを意識して若者の興味を引くような発信をすることはありますか。

非常にありますね。僕は、ジャーナリストになりたいと思って活動していたときは、あまり受け手の気持ちを考えていなかったんですよ。「社会にこんな大変なことが起こっているから知ってほしい」じゃなくて、「知るのが当たり前でしょ」みたいに、当時の僕は物事をダイレクトに伝えていました。

今の時代はコンテンツも山ほど溢れているから、まずは選ばれないと意味がない。自分本位の発信はやはり選んでもらえないんです。本当に若者に届けたいんだったら、若者がどういうコンテンツを見たいと思っているのかをちゃんと理解した上で、自分が伝えたい社会課題をみんなが知りたいものに転換させる。そこが、アイデアであり切り口であり企画だったりするので、まさにそこを非常に考えています。TikTok等で今どういうものがはやっているのか見ますし、若い人たちの好みを理解して、それを自分が伝えたいことに掛け算して動画を作っています。

相手が興味あることを日々分析して、リンクさせていくんですね。若者トレンドって回転が早いので、僕らも大学生を対象に活動する際に参考にさせていただきたいと思います。

ユニークなネタは地道に探す

学生委員会も社会的課題をSNSで発信しています。トムさんが毎回扱っていらっしゃる社会的課題のテーマや取材する場所は、どのように探していらっしゃるのでしょうか。

あまり裏技的なものがなく、基本的には僕らもネットで必死に調べているんですよ。ほかのメディアが取り上げた過去の記事とかプレスリリースとかを検索して情報収集しているのが一つと、あとはSNSからの収集です。Twitter等で環境問題についてニュース発信している人をフォローしておいて、いいのがあったらブックマークしてという感じです。ほかには1割ぐらい視聴者さんから教えていただくこともありますが、基本的にはネット検索で地道に探しています。

情報を拾う上でのアンテナの張り方で意識されていることはありますか。

何のための情報発信かによってもかなり変わってくるかと思いますが、僕らはあくまでRICE MEDIAのコンテンツを作るための情報収集ですので、その情報がどれだけユニークなのかが指標になりますね。
例えば今、SDGsが本当に世の中に広がってきていますが、いい意味でも「エコな素材を使いました」というような取り組みは増え、視聴者も見慣れてきてしまっているので、SDGsの中でもまだ珍しい、ユニークなトピックを積極的に選ぶようにしています。
そこにすごいインパクトを与える要素があるかと考えながら、ユニークな取り組みをずっと探しています。かつ僕らの場合は映像媒体なので、やはり映像が撮れそうかという観点からもネタを選んでいます。
また、僕らは視聴者の方々に興味を持ってもらう入り口を作るというのが目的なので、どちらかというと自分たちの伝えたいことよりも、視聴者にとってユニークで見たくなるような点を意識してピックしているようなところがあるかと思います。

若者世代へのアドバイスとメッセージ

0.1歩でも成功体験

学生委員会では今年、環境活動への認知を目的に「環境ズミーティング」という学習会を企画しています。その中で、なかなか一歩を踏み出せない人たちのためにアドバイスをお願いします。

いきなり大きな事をしない、完璧を求めすぎないのが大事かと思います。ありがちなんですよ。何か大きなことをやろうとすると完璧を求め過ぎて、「こんな小さなことをやっても意味ないんじゃない?」って陥っちゃう。
僕らは『プラなし生活』に取り組んでいるとき、「移動の環境負荷を増やしたら意味ないんじゃないのか」みたいな声もありました。環境活動とか社会活動って、やはりいろんなものが紐づいているので、一つ守ろうとしたらほかでバランスが崩れるのはよくある話です。様々な視点から活動を考えることも最終的には重要ですが、初めから考えすぎると何もできなくなるので、何かをやってみる事が大事だと思いますね。

本当に一歩が踏み出せないのなら0.1歩でもいい。ゼロじゃなくて何かをやったっていうことが大切です。高校生の僕はエコキャップをまず集めて、次にやることを考えた。そうした一歩一歩の積み重ねで、今の居場所にいるだけなのです。何か大きなことをやらなくていい。とりあえずできる事をまずやって、その小さな成功体験を積んでいくということが本当に大切なことだと思います。

まずは自分を知ろう

社会や外の世界に向けることは、もちろん大事です。でも、まずは自分自身にもっと関心を持ってください。自分という人間が、何が好きでどんなことにテンションが上がるのか。僕の場合は、やりたくないことを仕事にするのは絶対に嫌でした。人生に占める時間は大学卒業後に働く時間のほうが長いから、じゃあ自分の好きなことを仕事にしたいと思ったときに、やっぱりまず自分を知らないと何もできないですよね。

初めは、とりあえず何でもいいから好きなことをやってみる。当時の僕は、タイダイ染めという染色をやっていました。あとは似顔絵講座を受けてみた。いろいろやっていく中で、ものによっては「これは好きだけど仕事にするほどでもないな」って分かってきます。
僕は何の気なしにタイダイ染めを始めたのですが、その数年後、カンボジアで貧しい人たちにその作り方を教えてお土産で売って、収益を彼らに還元するという活動に誘ってくれた人が現れたんです。

そういう感じでやってみると全部つながっていき、それが将来何かに生きてくるようなことが起こるんです。だから本当に何でもいいので自分が好きなものを探して、とりあえずやってみる。それで誰かの役に立っていたり、お金を得たりすることができるのか試してみる。その積み重ねです。もし自分の好きなことをやっていきたいと思うのだったら、本当に自分自身にまずは興味を持ってください。

「ともかく動こう」

最後に、将来に向けて頑張る大学生に向けてメッセージをお願いします。

仏教や禅で使われている言葉で、「知覚動考ちかくどうこう」という言葉があります。僕はこれ、「ともかく動こう」と教えてもらった。「知る・覚える・動く・考える」って書いて訓読みをしたら「とも・かく・うご・こう」って読めるんです。人って知ったものをまず覚える。覚えた後に実際に動いてみて、その後に考えるという順番が、人生をうまくやっていくために必要だ、という考え方なんです。

でも大半の人は知って覚えた後に「これ、本当に自分に向いているかな」、「やってみて意味あるかな」とまず考えちゃう。だからなかなか動けないんです。そうじゃなくて「知って覚えて動いて、次にこれをもっとうまく生かしたい」、「今回動いてみて、ここは違うと思った。だから、次はここを改善してみよう」と考えるのが大事なので、何事もともかく「まず知って覚えたら動こう」。これを意識して日々生きていれば、おのずとどんどん行動していけるようになると思います。

本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

(2023年5月15日 リモートインタビュー)

PROFILE

「RICE MEDIA」トム

1995年滋賀県生まれ。本名廣瀬智之。立命館大学卒。高校の授業で社会活動に興味を持つ。開発途上国の力になりたいと、大学時代にはカンボジアでボランティア活動や染め物ブランドの立ち上げに携わる。その後報道写真家を志し、カンボジアはじめ東南アジア、オセアニア、アフリカの国々で取材活動に取り組む。開発途上国に関心を持つ人を増やそうとジャーナリストを目指しつつも、社会的な発信が届きづらくなっている現状に課題意識を持ち、社会起業家としての道を選択。ボーダレス・ジャパンの起業家採用に応募し、2019年Tomoshi Bito株式会社を設立する。社会課題に関心を持つインフルエンサーのプラットフォーム「RICE PEOPLE」運営。2021年にYouTubeチャンネル「RICE MEDIA」開設。SNSでの発信で社会課題の未認知を打破する事業に取り組んでいる。

ボーダレス・ジャパン……貧困、差別・偏見、環境問題などの社会問題を解決するために行動する起業家をサポートする企業。

RICE MEDIA公式サイト https://www.youtube.com/c/ricemedia

トムさんのTwitter https://twitter.com/Tomoyuki_Hirose