阿部 清人さんインタビュー「東日本大震災の教訓を風化させない「伝える」ことが私のライフワーク」

自分なりの発信方法を工夫して社会と繋がっていく

大学生が社会の問題に目を向け、社会の一員であることを実感できるために、どのようなきっかけや学びの場が必要か、どんなチャレンジをするべきか教えてください。

ひところは社会性を身につけるために社会参加をすることが言われました。私たちの大学時代は、ゼミの研究活動で研究テーマとなる団体と接触することもありましたが、それほど社会人中心の活動の中に身を置くということはなかったですね。サークルにしても学生だけのサークルが多かったですし。私はたまたま一般市民の方が入っている手話サークルで活動したので、幅広い年代層の方々と話したり、社会人に仕事の話を聞けたりして、後々非常に役立ちました。

今は私の頃と比べると、一般社会の活動に学生が参加すること自体、非常に進んでいると思います。大学の活動も一大学内の団体ではなく、様々な大学で構成しているものがありますよね。
そのほかに参加しやすい方法として、まさにSNSがあります。今コロナ禍で人と人が会うことが難しくなっている中、オンラインが今まで以上に急展開、急発達しています。意見を交換して、ネット上で知り得るものもあるでしょう。参加していくことで自分の関心のある方面が研ぎ澄まされていくと思うので、ツールを活用すればうまく参加できると思います。

大学間や地域間の隔たりがオンラインでどんどん取り除かれて、自分から進んで新しい情報を得られるようになったと思いました。

地味で朴訥としてもいいので、自分の興味のあることを掘り下げて調べ、動画にして自分から発信していく。またTwitterなどで発信する。そして、こういう情報を得たい時はこの人をフォローしておくということになると、知らず知らずのうちに大学生の立場からも自分の役割を確立していけるのではないでしょうか。
特に女性の皆さんは、例えばショールーム(生配信・視聴サービス)を自分の部屋でやって、匿名の反応がチャットで来ると、それに対して積極的に自分からどんどん情報を発信している。大学生に限らず高校生も、そういう姿は素晴らしいなと思っています。

自ら発信しないと情報が集まらないと思うので、その発想は大事だと思います。阿部さん自身も今の活動に至るまでに結構自分から発信した経験があったのですか。

私の場合はちょっと旧式で、いろいろな会合に顔を出すのを心がけてきました。そういった懇親会やパーティなどで名刺交換する。人との出会いが自分の人生を変えた経験も何回かあります。やはりチャンスって、誰かとの出会いにあると思うのですね。現代はリアルでなくても誰かとネット上で繋がっていればいいと思いますが、人によって人は変わるなと思いました。

大学生は一生の礎になる判断基準を培い、マイスタンダードを持つ時代

大学生が大学生活の過ごし方や進路選択をする中で、意識したほうがいいと思われることがあれば教えてください。

大学生の特権は、自由な時間を謳歌できることだと思います。時間を自由に使えるのは学生の特権で、自分の興味関心に時間を費やせるという意味です。それが考え方や判断の一生の礎になると思うのですね。
私の息子は愛知県の大学で教員をやっています。電気工学が専門なのですが、私は親として息子が小さい時から、好きなことを突き詰めろと言ってきました。彼は休学してブラジルに1年間留学し、そこで世界中から集まった留学生と交流して多種多様な文化を知って帰ってきました。もちろん、それがそのまま電気工学に直結はしません。でも、結果的に彼は電気工学が自分の一番好きな道だと気付き、勉学を積み重ねて今自分の好きな仕事に就いています。そういう点で、息子は自由な時間の中で自分の一生の礎となる考え方を身に付けたのだろうと私は思っています。

それから、インターンシップや、ボランティア活動もいい経験になります。進路選択にあたって多くの人の話を聞いたり言葉に触れたりするのは、昔も今も変わりません。まさに今この時間、皆さんから受けているインタビューもその一つになれればいいなと思いますよ。
人生で分岐点に立ち、自分はその中でどれを選ぶのか迷った時に、人はそれまでの経験をもとに判断していくわけです。ですので、より多くの経験をしたほうが正しい判断ができると感じています。

もう一つは、進路選択においてマイスタンダードを持つことです。価値観ともいいますね。
例えば就職先を決める時に、いろいろな要素があります。例えば業種。マスコ、製造業など。また、給料、待遇。それから地域ですね、東京なのか、地元なのか、こだわらないのか。業種の安定性、将来性もあります。あとは、少しぐらい給料が低くても知名度があったほうがいいというようなこと。これを自分の中でどう折り合いをつけていくのかは、一回自分で整理しておかないと次々とブレてしまいます。マイスタンダードを持っていないと一貫性がなくなったり、周りの意見に流されたりします。
※マイスタンダード…自分らしく、自分が望むスタイル。

もう一つ、好きな仕事を選ぶということも大事だと思います。私の就活時期は、皆さんには申し訳ないのですが高度成長期で、非常に恵まれていました。私の友達で、仕事の内容や業種に関しては全く関心がないけれども、収入だけで仕事を選んだ人がいたのです。ところが、そこが金融危機で業績が落ちて収入が減ると、何の魅力もなくなって、退職してしまいました。もし彼がその仕事が好きだったら、多少収入が落ちても踏ん張れたと思います。

あとは結婚すると出産、教育費。子どもに費用がかかってきます。子どもを保育園等に預けると、場合によっては、1カ月5万、子どもが2人いると、月に十何万という出費が嵩む。また、小学校や中学校に進むと、受験で塾に通うし、私立に行ったらその倍かかるしということで、どんどん支出は増えていきます。
大学生の皆さんは、将来を見据えたマイスタンダードを作らなくてはならないポジションにあります。人生の中でもとても大事な時期なのですね。これは大学では一切教えてくれません。しかし、絶対に必要なことなのです。例えば金利何%でお金を借りたら返済がいくらになるかということを、社会人でも知らない人はいますからね。学校で教えてくれないし、考える機会もなかったりします。こういうことをしっかりと準備して、思いを強くした人にはやはりかなわないですよね。そのための礎を築いたうえでのイメージづくりが必要だと思います。