阿部 清人さんインタビュー「東日本大震災の教訓を風化させない「伝える」ことが私のライフワーク」

社会人に向けた防災……意識を高めるために知恵を絞る

社会人が防災意識を高め、防災活動を率先してやっていく社会にしていけたらと思います。

社会人といっても結婚前と後では全く違ってきます。特に家庭を持つと、自分の家族の命をどう守るかを考えるようになりますよね。お母さん方は、放課後に子どもが児童クラブにいたり家で留守番をしていたりした時に災害が起きたら非常に心配だと言います。だから、子どもたち自身が自分の命を守る術を身につける防災教育が非常に求められているのだと思います。

防災教育は子ども向けだけでなく、本来なら大人向けのものも必要です。避難訓練、防災訓練は普通町内会等で行いますが、参加者にとってはそれにとどまらず、さらに+アルファを学ぶ防災訓練が求められるのですね。
私は避難訓練の呼びかけの後に、「集まったところで私の防災エンスショーを見てもらいます」と付け加えます。そして「非常食としてカレーライスを作って、防災エンスショーの後に皆さんで食べましょう」と。ほかには子どもたちが水消火器で“火”と書いたパネルに水をかけて倒す。そういう楽しめるような、参加したくなるような防災訓練が求められています。
私はそういうところに呼ばれることが結構多く、主催者が非常に工夫を凝らしているところは、やはり参加者も多いのですね。だから大人の防災教育は知恵を絞り、皆さんが関心を示すような企画にしなければならないと思います。

全国大学生協連でも防災ハンドブックや防災の情報発信特設サイトを作っています。元々関心のある学生には見てもらえるのですが、本当に伝えたいのは、大学に入るまで一切防災を考えてこなかったような層だと思います。

東日本大震災の時に、お店が閉まって一番焦ったのは大学生だったのです。店が閉まって食料が買えないと、大学生が並ぶわけですよ。彼らにとっては生まれて初めての経験で、特に一人暮らしをしていると非常に不安で、まずは食料をと走ったわけです。
ところが、大人は意外にもそんなに焦って並びませんでした。我々は何度かそういう経験をしているので、店は二、三日すれば開くという感覚を持っています。そういう意味では、首都直下型地震が起きたら非常に皆さん不安になることでしょう。北海道でも九州でも経験しているけれど、これまで大きい災害がなかった地域の人は、特に意識が必要だろうと思います。

コロナ禍で一人暮らしの学生は相談する人もなく、冷静になれずにそういう行動に走ったという話は聞きます。

先ほど、参加してもらうために知恵を絞るのが必要だと言われましたが、そのプロセスを教えてください。

放送局でイベントを企画しますが、いくら予算をかけても引き付けるものを置かないと人は寄ってこないのです。例えば、有名人を招くとか、または得をするという感覚を持つような内容にするのが基本です。「先着500名様は〇〇もらえます」とか、人を引き付けるものを意識的に置かないと失敗しますね。

宮城県は三陸沖で地震が多く、東日本大震災後も余震が続いています。100年続くそうですよ。一方で「ここはあまり大きな地震が起きたことはありません」「ここは台風もよけて通るんです」と言われる地域があります。私は「災害が起きない地域は全国どこにもありませんよ」と言うのですが、それでも人間には正常性バイアスがあって、自分だけは大丈夫という気持ちを持っています。それは日本人が乗り越えなくてはいけない課題かもしれません。

実際に大きな災害を経験しないと、“他人事”になってしまいますよね。気を付けたいと思います。

災害を自分事として伝える、それが私のライフワーク

最後に、全国の大学生に向けてメッセージをお願いします。

来年の3月11日で東日本大震災から10年を迎えます。仙台は東北の中でも一番早く復興が進みましたが、海岸部や更地のままの場所ではまだまだ取り残されたところがたくさんあります。
一方で、震災の風化が危惧されています。小学校高学年以下の子は生まれる前のこと、中学生でも2、3歳の頃の出来事なので、記憶がほとんどないのですね。また、この10年間でほかの地域にも地震や水害などの自然災害が起きました。今被災地という言葉を使うと、全国のどこを指しているのか分からなくなっている。私は東日本大震災の教訓を伝え続けることを使命だと思い、防災を科学で知ってもらう防災エンスショーの活動を続けています。
防災にあまり関心がない人でも、防災のハードルを下げて関心を持ってもらう。伝えることで震災の教訓を生かしてほしい。それが今では私のライフワークになっています。
ラジオのアナウンサーとして発信を続けてきましたが、やはりラジオは電波の限界があります。もっと自分の体を動かしていろいろなところに行ってお話をしたいということで、4年前に独立して自分の会社をつくりました。

コロナウィルスの影響で、大学生の皆さんもできなくなっていることがたくさんあります。仙台の大学もほとんどはオンライン授業ですし、サークル活動もできない現状ですが、この経験はこれまでの大学生にはなかった能力を身に着けるチャンスにもなっています。ですので、大学生活で自分なりの基準を整理して、マイスタンダードをもって将来に備える。難しいことだと思いますし、なかなか20年後、30年後の自分の姿を考えることには関心を持ちづらいかもしれません。しかし、それを今やるのか、社会人になってからやらずに後悔するのか、それはあなた次第です。何かを突き詰めて、その経験を一生の礎にして将来に生かしていただきたいと思います。

非常に心力強いメッセージ、今の学生に響くかと思います。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

2020年7月3日
大学生協仙台会館にて

PROFILE

阿部 清人さん

1963年生まれ。宮城県石巻市出身。
サイエンスインストラクター、防災士、アナウンサー。仙台市泉区のせんだい泉エフエム放送元取締役事業部長。
2016年に独立し、株式会社MCラボ代表取締役就任。東北福祉大学防災士養成講座講師。楽しい科学実験「サイエンスショー」が好評を博し、ショー、テレビ出演、新聞掲載も多数。東日本大震災後、防災士の視点を生かして防災に役立つ実験を行う「防災エンスショー」(防災+サイエンス)を企画、実演する。新しい防災教育として、全国各地で年間100回を超える講演を行う。2018年、仙台市⾧から教育分野での特別功労者表彰を受けた。

阿部清人さん実験動画