佐藤可士和氏インタビュー 物事の構造を見据える「デザインの視点」

“ブラック企業”企業名公表制度の実現、高学費・“奨学金苦”を告発、ハラスメント禁止法制化の提案など、一人ひとりの痛みに寄り添い、国民の“声”を政治の場に届け続けてきた吉良よし子さん。吉良さんの政治家としての原点は、リーマン・ショックで同年代の若者が雇い止め・派遣切りに遭い苦しむ姿を間近に見たことでした。若者を使い捨てにし、責任を回避する企業の姿に憤りを感じ、社会を良くするために政治家を志した吉良さんは、常に現場に脚を運んで人々の声を聞き、SNSからも若い世代の声を拾い上げてきました。
今回のインタビューでは、吉良さんのこれまでの政治活動を詳しく伺い、どのように社会や政治を変えるアクションを取られてきたのかをお聞きしました。

インタビュイー

参議院議員 吉良きら よし子氏
プロフィール

聞き手

  • 安井 やすい 大幸まさゆき
    全国大学生協連 全国学生委員会全国学生委員長
    琉球大学出身
  • 木原 きはら 悠駿ゆたか
    全国大学生協連 全国学生委員会全国学生委員
    九州大学出身
  • 藤井 ふじい 祥子しょうこ
    全国大学生協連 全国学生委員会全国学生委員
    岡山大学出身

はじめに――このインタビューについて

2021年は10月に衆議院議員選挙が予定されており、私たち全国学生委員会は、政治に関心を持ち、投票行動をとる学生を1人でも増やすことができる年だと考えています。ところが、直近の国政選挙での投票率をみると、第48回衆議院議員選挙(2017年10月)では10代40.49%、20代33.85%、第25回参議院議員選挙(2019年7月)では10代32.28%、20代30.96%と、漸減傾向にあります。これには政治に興味を持つ若者が減っているという状況があると思われ、私たちもせっかく政治に参加する権利を持っているのにと、この状況を残念に思っています。
今回のインタビューを通じて、吉良先生はじめ国会議員の方々の普段のお仕事や若者に関する政策、また1人の国会議員として今を生きる大学生に政治に関わることの大切さ・面白さを伝えていただければ幸いです。

ありがとうございます。政治に興味がある若い人たちを増やしたいということで私の話を聞いていただくことに、まずは感謝申し上げます。

ルールを変える、政治を変える

2007年、リーマン・ショックで見えてきたもの

国会議員になられる前に一般企業にお勤めされていました。ホームページでも印象的だったのが、「ルールを変える、政治を変えることが必要だと思い、立候補を決意しました」という言葉です。吉良さんのように、自分の思いや考えを、実際に行動に移し、実現していくということは、今の若者にとっても非常に重要なことですが、反面なかなか難しいと感じます。吉良さんが具体的に国会議員になるという行動をとられたきっかけをぜひ伺いたいと思います。

なぜ政治家として行動しようと思ったかということをお話しします。私は国会議員になる前は都内の印刷会社に勤めていました。その時の仕事内容は、さまざまな企業のCSR報告書作成でした。当時、環境保護など社会的責任を果たしていることを幅広くステークホルダーに伝えるために、広報の一環として冊子を作っている企業が多くあり、その報告誌を作るお手伝いをしていたのです。私が選んだわけではなくて、会社に入社後、たまたまその仕事に就いたのですが、私はこの仕事に非常にやりがいを感じていました。そういった社会や環境やさまざまなことにコミットしてより良い社会をつくっていく、持続可能な社会をつくっていくということを企業の中にいて広げることに意義を感じて仕事をしていたのです。
ただちょうどその当時、2007年にリーマン・ショックが起きたのですね。そこで発生したのが大量の雇い止め、派遣切りでした。当時私は20代でしたが、私とほぼ同世代の若い人たちも、派遣だから、正社員ではないからという理由で、「今は危機的な経済状況だから」と、一気に首を切られたのです。そして、仕事だけではなく、住まいまで奪われる若者が大量に出てきました。日比谷派遣村などというのができ、そこに20代の若者が何日も歩いてやってきて、食べるものもない、住まいもない、助けてくださいという相談をする姿を見て、同世代の人間として大変ショックを受けました。
では、そのときに企業が何をしたか。そのCSR報告書を作成している企業たちは何かコミットをしたのかというと、一切派遣切りに関してコミットしなかったのですよ。その派遣切りを多く行った企業の報告書を見てみても、「社員との関係は良好です」と書いてあるだけだったのです。なぜでしょう? 要するに“派遣”というのはその企業の社員ではないのです。外部から派遣されている関係だから、自分の会社の社員ではないから責任関係にはないということで、あえてその記述を削除しているのです。コミットを必要としない企業の姿勢に触れて、私は大変ショックを受けました。
一方で企業の社会的責任だ、責任を果たすのだと言いながら、そういう社会的な大問題が起きたときには人ごとにしてしまう、この企業の姿勢。おかしいじゃないですか。じゃ、若者は悪いのか。派遣を選びたくて選んだわけではないのですよね。ちょうど就職氷河期世代だったので、私が正社員になれたのがラッキーなぐらいで、二人に一人が派遣を含めた非正規雇用を選ぶしかなかった。企業が正社員を取らなかったから派遣になっただけなのに、そういう派遣切りになっても責任すら果たそうとしない企業に憤りを感じていたとき、たまたま所属していた日本共産党の方からちょうどその時期に候補者にならないかという要請があったのです。
その当時は都議選だったのですけれども、先ほども言ったように、企業でCSRの仕事をすることにやりがいを感じていましたし、そういう仕事を通じてより良い社会をつくるということも人生にはあり得るかなと思っていたのですが、限界が見えてきた。ちょうどその時の要請でした。さまざま悩んだ結果、だったら企業の中でより良い社会を目指すだけでなく、政治というアクティビティにおいて、ありとあらゆる企業を枠にはめて、派遣切りなどのように若い人たちを使い捨てにするひどいやり方を許さないルール=法律を作ることで政治や社会がより良くなるように変えていきたいな、と思い立候補する決意に至ったわけなのです。
もちろん非常に勇気もいったことだったのですが、自分自身が政治に向かおうと思った理由が、自分の仕事との地続きだったのですよね。自分が真剣に仕事に打ち込むからこそ、その仕事の中に限界が見えてきて、それを変えるのは政治だというところでこの道を歩むことに決めました。

お話を伺っていて、僕自身はすごくかっこいいなと感じました。というのは、僕はてっきり政治家の方は政治家になりたいから立候補されていると勝手に思っていたのですね。しかし吉良さんは、企業にお勤めになっていた時に熱心に取り組まれたことの延長線上で問題意識を持ったことで、ルールをつくる側に回って社会を変えていくという意識につながったと言われました。学生でも社会人でも、今目の前にある仕事を一生懸命にやるということがきちんと政治にもつながっていくということがわかって、とても興味深かったです。

日常で感じる「?」のほとんどは政治で解決できる

やはり学生にとっては政治に参加するということが非日常であり、選挙に行くということも特別感あるイベントというように感じがちなのですが、日常で私たちも毎日なにかしら政治のニュースを聞く機会はあります。「政治は日常なのだ」ということを、同じ学生に伝えたいなと感じました。日常の延長上で私たちも選挙に行くという行動につながっていくのではないのかなということを今すごく感じました。

本当にその通り。日常の息苦しさや、何か「おかしいな」と思うかなりのことは、政治で解決できる問題も多くあるのですよね。私は先ほど派遣切りの話をしましたけれども、働き方の問題でいうと、派遣や非正規だけではなくて、正社員ですら過酷な労働をさせられている実態があります。それこそ私が立候補するにあたって改めて青年の皆さんにアンケートを取る中で、正社員だけれども長時間労働、低賃金で、いわゆる“ブラック”と呼ばれるような企業で働いている実態があるということもつかみました。
この若者を使いつぶすようなブラック企業をなくすのだということを公約に掲げて選挙を戦いましたし、国会に来てからもこの問題を取り上げる中で、違法行為を繰り返すブラック企業の企業名を公表する制度を作らせることもできたのですね。これによって、違法な労働をさせている企業が態度を改めざるを得ない状況をつくらせることもできました。そういう点、自分の問題意識から始まったことなのですが、少しずつ政治に訴えかけていって政治を変えることができたということです。実際にブラックな働かされ方をさせられて苦しむ若者を一人でも減らすことができるのだというのは、政治家になって改めて実感していることでもありました。

声を上げれば、必ず社会は変わる

吉良さんのお話を伺っていて、自分がもしその立場だったら、なかなか自分から行動するのは難しいと思う人が多いと感じました。そういう人たちが実際に何か変えたいのだけれどもどんな行動をとっていいのか分からないと思ったときに、まず何ができるのだろうかということを考えていたのですが、先生としてはどのようなことがあるとお考えですか。

そこが本当に、一番ハードルが高いところだと思うのですよね。ただ、働き方の問題でいえば、一義的には労基署もしくは労働組合に相談するのは、まず第一歩かもしれないです。やはり、自分がおかしいなと思ったことを声に出してみる。いきなり労働組合や労基署が難しくても、友人とでもいいです。まずしゃべってみる。「おかしいことだよね、これは」と言うことからまず出発することがとても大事で、「おかしいな」と思ったことを「しょうがないな」とあきらめてしまうと、絶対に動かないのですよね。
実際に声を挙げるということで動いた事例というのはたくさんあります。先ほど私がブラック企業の企業名公表を実現したという話をしましたが、それを実現させるために質問を行ったときに使ったのが、ある外食チェーン店の事例なのです。そこは一時、過重労働で大問題になりましたが、今は問題を認識して一応改善するに至っていると聞いています。改善するきっかけとなったのが「労働者の声」なのですよ。
それでもすぐには変わらなくて、2年間で104件ほど労基署から過重労働の是正勧告を出されているのです。2年間でそれだけの数、是正勧告を出すということはそれだけの数、労基署に訴えがあったということです。なのに、実はその企業の親会社は、2年間その問題を放置し続けたのです。取締役会で話題にすらならなかった。これだけ是正勧告が出されているのに、ようやく取り上げたのはその後になってマスコミが取り上げたからなのですが、それだと遅すぎるわけなのですよね。「その是正勧告が1件目、2件目と立て続けに出されたそのときに早めに是正しておけば、もっと多くの労働者が助かったのではないですか?」こういう質問を国会でしたのです。そうしたら、当時の安倍首相も「確かにそうやって何回も勧告されたのに直さないというのは相当に悪質だろう」という答弁をしたうえで、何らかの改正の方策を検討しなければいけないという話をしたのですね。
だから私が、「そういう繰り返し違法を指摘されているような企業については企業名を公表するというのがあるべき姿ではないのですか」という提案をした結果、「検討します」と言われ、最終的にはその企業名公表制度が実現したということです。
結局何が大事だったかというと、その104件の是正勧告の元となった「労働者の告発」なんです。その延べ104人の告発がなければ、その国会質問もできなかったし、企業名公表にも至らなかった。「おかしいな」と思ったその時にあきらめずに声を上げた人たちの勝ち取った成果なのですよね。だから、何かあったときに、おかしいと思ったときに、あきらめないで声を上げる。まずはお友達にでもいいから声を上げるというところからスタートすると、必ず社会は変わるのだということを私は言いたいと思います。

本当にあきらめないということは大事だなと思います。まさに今、大学生がなかなかキャンパスに通えないという状況で社会全体を見たときに、やはり学生は言っても仕方ないなと思ってしまったりするのですが、本質的な問題を投げかけたり、自分がどうしたいのかを明らかにしたりして、周りの人とも共有していくということが大事だと改めて思いました。