佐藤可士和氏インタビュー 物事の構造を見据える「デザインの視点」

若者、大学生に関する政策について

今こそ学生支援を

吉良さんがどんなふうに声を届けていらっしゃるかとか、見てくださっているかというのはよく分かりました。その中でもさらに若者、大学生に関する政策、このあたりのお話も少し詳しく伺いたいです。
最近ですと、萩江田文科大臣が大学はちゃんと対面で講義をするようにとか、できるだけキャンパスに学生が行けるようにとか記者会見でお話をされているのは存じ上げているのですが、そのほかにも若者に関する政策で、今国会で話されていることや、先生が持たれている問題意識がありましたら伺いたいのですが。

先ほどの質問にもつながることだと思っていますが、このコロナ禍で今、大きな影響を受けている学生に対してまずやらなければいけないのは、生活をちゃんと支えるということだと思っています。というのも、例えば各地で学生向けの食糧支援が行われ、かなりそれをたくさんの学生が利用しているという事実があります。ある大学では長蛇の列になって、用意していた食料が一気になくなってしまったという話も聞きます。アンケートからは、「一日1食です」「一日100円で暮らしています」という声が今まさに出ているわけなのですね。「一日1食で空腹は寝てごまかしている」という声まであり、大学を続けていくのがもう限界なのに、食費を削ってなんとか学業を続けようとしている学生がいるというところが非常に深刻だと思っています。
1年前は学生支援緊急給付金が1回出たわけですが、今年に限って言うとそういう予算は一切ありません。これだけ緊急事態宣言が続いている中で、さらに生活が深刻になっていると思うのですよね。学生自身にアルバイト先がないだけでなく、多分親御さんのほうも給料が減っているとか場合によっては失業しているとかいうご家庭もあることと思います。そういう学生が、コロナのせいで学びが続けられない、まして生活自体ができないということにならないように、学生支援緊急給付金第二弾は必ず実現しなくてはならないと思っています。その場合は要件を前回よりさらに緩くして、多くの、ちょっとでも困っている人たちが手を挙げられるようにしなくてはいけないと思っています。

学費と奨学金

同時に、学びを続けるために頑張らなければいけないときに、やはり今の日本の学費は高すぎると思うのですね。この全国大学生協連の調査を見ていても、アルバイトをしている学生というのは、去年はコロナの影響で少なかったけれどもそれ以前は上がり続けていた。8割9割がずっとバイトをしている。その背景は何なのかというと、結局学費・生活費を賄う学生は少なくないからだと思うのですね。むしろそれが増えている。奨学金の借り控えもあるという調査結果もありましたが、将来の借金となる奨学金を借りたくないからアルバイトで稼いで、それを生活費や学費に回していくという学生が、実はかなり高い割合でいるということだと思います。
でも、なんでアルバイトしてまでそういうことをしなければいけないかというと、学費が高いからなのですよね。学費が安ければ、バイトがちょっと減ったからといって退学を検討するまで追い詰められなくても済むのではないだろうか。という意味では、今こそ学費を下げるときです。学費そのものを下げる方向に政治が舵を切るべき時ではないかと思っています。
ちなみに、政府がこの間、修学支援制度で給付奨学金を作りました。作ってはいますが、これも行き渡っているとは思えないし、なおかつ今年度の予算の額でみると、78億円も減ってしまっているのですね。「1年前と比べて、これだけコロナで困窮している学生が増えていると思われるのに、その予算の額を減らしてしまっているのは何事か」と、この間質問させていただいたのですが、これだけ深刻な時に減らすのではなくて、学生向けの予算を増やさないといけない。予算を増やす中で学費も下げていくし、奨学金も非常に充実させていかなければいけないということは引き続き言っていきたいと思います。
あともう一点、若者政策全般でいうならば、最初にブラック企業という話をしましたが、働き方の問題と表裏の関係にあるのは奨学金だということを一言言っておきたいと思います。奨学金の返済ですね。もう、本当に奨学金を借りないと大学に通えない、2人に1人が借りている状態なので、卒業と同時に700万、800万の借金を背負う人が少なくない。多い人だと1000万超えるという状況です。この返済があるから、たとえ勤めている企業がブラックでも辞められない。そういう悪循環が起こっているのだと思っています。実際にそういう事例を聞いています。奨学金を返さなければいけないからといって勤め続けた挙句、過労で自死するに至ったという方の話も聞いており、これは非常に深刻な事態です。この返済地獄を何とか解消する。返済が困難になったときに、救済できる仕組みというのも急いで作らなくてはならない。一定期間が過ぎたら借金を払わなくてもよくするとか、利息はせめてなくすとか、そういうもっと充実した返済策を作ろうということは、私たち共産党も訴えております。

弊会でも昨年、簡単ではありますが奨学金のアンケートを取らせていただいています。それは木原さんが担当している消費者分野の話にもなりますので、何か木原さんからありましたら。

奨学金問題は学生委員会でも3人ほどが中心になって議論しています。やはりまさに今困っている学生に対してどういった支援ができるか、助けができるかという問題もあるし、あとは長期的に高等教育予算の関係も含めて、社会全体として考えていかなくてはいけない問題でもあるという話をしています。
奨学金のアンケートをみると、借りる段階、つまり高校を卒業し、大学に入学する時にあまり借金という認識を持っていないということも伺えます。そういった奨学金に対する理解や不安も含めて、実際に大学生が感じていることに対して声を上げることで、初めてその声をもとに社会が動いていくと思うので、まずは自分の生活の中で困っていることに声を上げてみる、よく分からないことを相談してみる、それが重要なのだと改めて思いました。

そうですね、ぜひ声を上げてもらいたいと思います。奨学金も借金という認識があるのかないのかということもそうですし、でもどちらかというと、本当に返せるのかなと不安を抱えている方が結構多いのかなと思ったりもしています。新しい修学支援給付金ができたのはいいのですが、成績要件が厳しくて、大学に通っている間の成績もずっとチェックされるから、まるで監視されているような気がしてという声も届いています。そういう意味では学ぶ権利を支えるための奨学金なので、本当に使う側がより使いやすい制度にしていくためにぜひ現場の皆さんの声を教えていただきたいと思います。
海外、例えばイギリスなどでは「貸与奨学金」という制度があります。返済については、日本とは全然違って、“返せないのを見込んだ制度”になっていて、収入が一定額以上にならなければ返済はしなくていいとか、30年返し続ければ返済は帳消しにするとか、そういう困窮者対策がきちんとしている制度なのですね。日本の制度とは全く発想が違うと思いますが、そういった国際比較も含めて調べながらより良い制度、学生たちが追い詰められない制度にしなければいけないなというのが私たち日本共産党の問題意識ということです。
あともう一点、この間先ほどのコロナ禍の話で対面授業を進めたいという声があります。それは本当に大事な欲求だと思うし、声を上げていただけばと思うのですが、ただやはり感染が怖いとか感染を防止しなければいけないというのは当然だと思うのですよね。そことセットにして、「対面どんどんやりなさいね、後は知らないよ」という話では決してないというのが私たちの立場です。ただ、感染対策のための予算が今本当にないのです、実質ゼロなのですよ。パーテーションを付けたり、消毒液を設置したりするだけでもお金がかかるわけじゃないですか。学生が使えるように替えのマスクも置いておくほうがいいだろうし、もっといえばPCR検査を早期に行い、できるだけ早期に感染者を発見すれば、感染拡大防止は可能だと思うわけです。
私たちは、ワクチンがどれだけ早く迅速に接種できていくかとか、検査体制も含めながら、感染防止や予算措置をきちんと国にやらせなくてはいけないと強く訴えていきたいと思っております。そのためには、ぜひ皆さんの現場の声も聞かせていただければと思っております。共に頑張りましょう。

改めて学生の立場からきちんと声を出していく、それは私たちにしかできないことで、たとえ今自分が困っていなくても、周りの誰かが困っているのであれば、その人のことを代弁する。感染対策もそうですけれど、学生はマスクをして対策もちゃんとしていますよ、できるだけ不要不急の外出を防いで家にいるようにしていますよと、そういった文化を学生自身からつくっていけるといいのかなというふうに改めて思いました。

若者世代、大学生世代に向けたメッセージ

最後に政治家としての原点でもあると思いますが、今の若者世代、大学生世代に向けて政治に関わることの大切さ、面白さについてメッセージというかたちでお話しいただきたいと思います。

やはり一つ言いたいのは、あなたの声が政治を動かす力だということです。一人ひとりの声や行動が必ず世界を変える、政治を変える力になるのですね。先ほどの奨学金の問題もそうですし、ブラック企業、働き方の問題もそうです。それこそ学生支援緊急給付金が去年できたという話を今日は繰り返しお話ししましたが、これも一人ひとりの学生の声から出発しているのですよね。「バイトができなくて大変だ」「収入がなくて暮らしていけない」「学問が続けられない」という声があったから、そういう声を届けてくださった皆さんがいたから、500億円もの予算を付けて新しい制度を作らせることができたのですよ。
私が最初にこの問題を取り上げたのは1年前の3月なのですが、その時に大臣はアルバイト収入減少に伴う新しい補助の制度を作れと言っても、「厚労省などと検討します」という程度で終わっていた。そのときは文科省の担う制度とは言わなかったのです。それが4月以降に署名とか学費減額を求める声とかが急速に広がったことで、5月の新制度導入につながったということは、まさに一人ひとりの声が新しい制度を作らせた事例だと思っています。
だから、本当にあきらめないで。あなたの声にこそ力があるのだということに確信を持って、なにかおかしいと思ったら一人で悩まずに、誰かに相談しながらでも一緒に声を上げて変えていきましょう。私も皆さんの声をちゃんと拾うように頑張りますので、力を合わせて政治・社会を変えていきたいと思います。共に頑張りましょう。

本日は大変お忙しい中、弊会のインタビューのためにお時間を取っていただき、ありがとうございました。私たち自身も先生のお話を伺う中で、逆に元気になれました。もっともっと自分たちで頑張っていきたいし、自分たちの頑張りが誰かのためになり、それが社会を動かし変えていく一助にもなっていくということを改めて確信することができました。

こちらこそありがとうございました。引き続き調査よろしくお願いいたします。“声”を届けていただければと思います。

2021年6月7日リモートにて取材

PROFILE

吉良 よし子(きら よしこ)

1982年、高知県高知市出身。本名吉良佳子。参議院議員。日本共産党中央委員、常任幹部会委員、青年・学生委員会責任者。同党東京都委員会 雇用と就活対策室長。
早稲田大学第一文学部卒業。日本共産党の政治信条に共感し、大学在学中に入党する。都内の印刷会社で4年間、CSR(企業の社会的責任)の報告書作成支援の仕事に携わる。2013年7月、参議院議員選挙東京選挙区で「ブラック企業ゼロ」「原発ゼロ」「憲法を守り活かす」などの政策を掲げ、70万3901票を獲得し当選する。国会では、ブラック企業・ブラックバイト、様々な働き方の問題について、繰り返し取り上げる。総務委員会、憲法審査会、決算委員会、文教科学委員会などを経験し、活動の幅を広げる。2児の母。夫は目黒区議会議員の松嶋祐一郎氏。