河本 準一 氏インタビュー “現場の声”と“笑顔”が僕を動かす! ~社会貢献活動に取り組む原動力となるもの~

人生のコントローラーを持つのは自分

河本流「一日を充実させる考え方」

お仕事もご多忙だと思うのですが、地方に行くことや人と関わることとの両立、SDGsについての学習はどのようにされていらっしゃるのでしょうか。

本心では、僕があと5人いたらいいのにな、と思うことがあります(笑)。特に田んぼのことかな。田んぼというのは毎日のケアが必要で、農家さんは毎朝4時半に起きて田んぼの水を見て、少なかったら水を補充するという作業をやっています。そのほかにももちろんやるべき作業は多いのですが、僕は1カ月に1回行けたらいいかなというくらいです。

だからといって僕は、河本準一を100としたら、田んぼを30、芸人を30、残りの40にSDGsを振り分けて、児童養護施設・介護施設などの部分にも補充して、という人生を送りたくはありません。わがままかもしれないけれど、全部100でいきたいのです。田んぼも100だし、田んぼの翌日がしんどくなったからといって、収録に手を抜こうとは思わないでしょう? 一日の自分が100を持っているので、今日は今から収録だから河本準一の今日の100点は全部芸人につぎ込みます。そして、今日の夜のうちに自分に優しく「河本準一お疲れさん」と必ず言ってあげます。自分に優しくしていかないと自分の首を絞めることになりますよ。そして翌日起きたときに田んぼの作業があるのだったら、河本準一に「今日は田んぼに100お願いします」という合図を送って、田んぼにエネルギーを注ぐ。これを毎日やったら常に100であり続けられます。

その日にやることはその日に終わって、その日に「お疲れさん」と言ってあげたい。僕は日々行うことを、スケジュール的にこれもこれもと、総合的な感覚では見ないようにしています。病気になったことが大きかったのですが、人って周りに自分よりすごくレベルの高い人を見てしまうと、他の人にできて自分にできないのはなぜか、自分が劣っているのではないかと、どうしてもマイナスに見がちです。でも、それはあまりよろしくない。自分自身ができていることが100だと思わないと、結局人に左右されることになります。うまくいかなかったことを人のせいにしたくないですしね。

自分に優しく、自分の100点を見極められるように

僕らはコントローラーを自分で持たなければいけないんですよ。人にコントロールされて動く人生はつまらないじゃないですか。自分は誰のために人生を歩んでいるのかが分からなくならないように、自分に一番優しくしてあげるのです。自分でプレッシャーをかけてハードルを高くするのではなく、越えられるハードルを用意する。「今日は8時までにご飯食べよう」という目標だったら楽々クリアできますが、それを「今日までにレポートをまとめなくちゃいけない」という高いハードルを設定するから、深夜3時までかかってしまう。これは訓練すると慣れでできるようになります。
僕は40で病気をしてから、これを絶対に心掛けようと決めました。それまではカッコイイ人になりたくて自分をいじめてきたけれど、それはエエカッコしていただけ。エエカッコするのとカッコイイのとは全然違うということも分かったので、そういうスケジューリングにしています。

全国大学生協連の調査では、「時間がない」と思っている学生が多く、そういう学生には、ぜひ今の河本さんのお話を広げたいなと思いました。人と比べ自分のやりたいことを全部できるかではなくて、今日の自分を自分自身がどう思うのかが重要だと、お話を伺いながら思いました。

やはり時間がないという人は僕の周りにも結構多いですね。一日を総合的に見て、一つの箱の中にやりたいことを全部入れて、24時間のうちの何時間かを割り当てているからです。一日は24時間しかないので、項目が多いと寝る時間を削ってそれに充てることになる。そうではなく、今日課せられた部分で、もう少し自分を優しく見てあげる。明日できることを今日に持ってくるのではなくて、「今日できる自分で、今日の持ち点100の中から100点を出したい」。それが、どう考えたって現時点で使える時間なのです。だから時間が足りないという表現は僕の中にはありません。明日も必ず24時間ちゃんと来るので大丈夫ですよ。

自分に優しく、自分の100点をちゃんと見極められる人でありたいなあと思いました。

社会貢献活動の原動力となるもの

“お客様の声”は栄養ドリンク

河本さんにとっての社会貢献活動の楽しさや魅力についてお伺いします。

今まで到底劇場に足を運ぶことができなかった人と、お笑い芸人として改めて話を聞けること。これは社会貢献に興味を持たないと成しえなかったことです。相手はテレビを見るという片側一方通行だったのが、僕が社会貢献活動をしながら地方に足を運ぶだけで、双方向の交流に変わっていきます。
僕を生で見たことがない人のところに行くと、「河本さん、テレビで見るのと違って、実際に会ってみたら瘦せとるんやなあ」とか言われます。そういうときに感じるお客様の声というのは、僕らにとっての栄養ドリンクなんですよ。この声が聞こえなくなったら、僕はもう芸人をやめるかもしれません。それくらい芸人って日々重圧を感じながら1分1秒を争う瞬間的な場で勝負していかなければならない世界にいるので、フッと力が抜けた時にそういう言葉が返ってくると、僕らにとっては非常にパワーになります。僕の中では普段ご覧になられていない方々の所に足を向け、その笑顔を見るだけでも魅力を感じています。

子どもの夢を具現化してあげたい

児童養護施設の子どもたちも、実際に生の芸人を見ることはなかなかないし、未来の職業についての夢を語ろうにも、そもそも東京・大阪という大都市に日々行けるような環境じゃない。子どもたちには未来があるのに。そうなるとこっちから情報を発信してあげて、子どもたちに「職業選択の自由ってこんなにたくさんあるんだよ」と、いっぱい魅力を知ってもらうのが大事なのです。

児童養護施設に行くとそういうことが本当によく分かります。子どもたちはやはり最終的に児童養護施設の先生になりたがるのですよ。なぜかというと、そういう大人しか見たことがないからです。だからそこにデニム生地の工場の社長を連れていったり、東京でネイルの仕事をされている方を連れていったり。子どもたちに、魅力的な職業がたくさんあるということを紹介する活動もやっています。
僕のマネジャーにも話してもらったら意外と人気があって、「ジャニーズに会うにはどうしたらいいんですか?」「実はジャニーズにめっちゃ会いたいんです」という質問が出てきたりする。実際に見ていないから、それが雲の上のようにほど遠い職業だと思っていたのですね。それが、実際に見ると現実味を帯びてくる。そういうときの子どもの笑顔ってすごく魅力を感じるんですよ。

僕はキッザニアみたいなものを地方に作りたいとずっと思っています。東京にあるような設備の整ったキッザニアじゃなくて、児童養護施設の子らもみんなが来られるような施設。吉本興業も閉校した学校の跡地にあるのですが、過疎化で閉校してしまった学校が地方にはたくさんあるので、それを活用します。教室の中にいろいろな職業を入れて、自由に話を聞けるような施設を子どもたちが現実的に見ると、それは夢でなく実現可能な目標に変わります。それこそこの活動の魅力の一つであるかと思います。

そういう体験がたくさん広がるのは素敵なことですね。

子どもって具現化してあげた方が、より自分で目標を立てやすい。実は、子どもの方がそういう目標を立てるのがすごく上手だからです。その子どもたちが見ること、感じることができるかどうかは、すごく大事なのですよ。
昔、明石家さんまさんが「死ぬまでに一度でいいからコカ・コーラのCMに出たかった」って言うのを当時中学生で聞いていた子が、コカ・コーラの会社に入社して、偉くなって、さんまさんをコカ・コーラのCMに使ったのです。それって、自分が大好きなさんまさんをずっと見ていた中学生時代があって、「大好きだったその人が一生に一度って言っているなら、僕が叶えてやろう」って思ったのですね。

ドラえもんが大好きでずっと漫画を見ていて、「いつかきっとこの道具作られへんかな」と思い描いていた人が、具現化して壁掛けテレビを実際に作ったわけですよ。僕たちは漫画の壁掛けテレビを見て、「そんなバカな」って思っていたけれど、今実際にテレビはほとんど壁に掛けていますものね。もしかしたら、君たちより年下の小学生が、本当にどこでもドア、もしもボックス、タイムマシン的なものを作ってくるかもしれないですよ。でも、それを大人が「できるわけないだろう」って言ってしまったら、そこでもう話が終わってしまうじゃないですか。
子どもたちのそういう未来って、けっこうダメな大人が潰したりすることがあるわけです。「そんなバカなこと言ってないで勉強しなさい」って言う親が、一番教育的に子どもたちと向き合えていないのじゃないかな。子どもの頃からゲームをやっていた子たちが、大人になってゲーム会社に入って、とんでもないゲームを作っていますからね。そうした子どもたちが楽しそうに話している未来や目標を大人がしっかり見てあげなきゃいけないなということが、児童養護施設に行くことで本当によく分かりました。