河本 準一 氏インタビュー “現場の声”と“笑顔”が僕を動かす! ~社会貢献活動に取り組む原動力となるもの~

SDGsを社会に根付かせるために

大学生にSDGsを意識してもらうには

河本さんのブログを拝見すると、SDGsとか社会貢献活動って難しそうに見えるけれど、楽しく学ぶことが大事なのじゃないかと感じます。でも、子どもから少し大人になると、時間がない、余裕がないと言ってなかなかそれが自分ごとにならない人が多いのですよね。自分がそうした活動をしていて、それが悩みの部分であると思っていました。河本さんはそういう人たちに少しでも活動の楽しさや魅力を感じてもらえるようにするにはどうしたらいいのかとお考えですか。

難しいですよね。子どもとは違って、大人に対してSDGsの意義をこちらが提議しても共感してくれるかどうか分からないからね。「SDGsをやるので、今からちょっと皆さん、話を聞いてくれませんか」と言っても、誰一人聞いてくれませんよね。それはSDGsに興味がないから。だから、今自分たちが大学生活を楽しく送っているところに、実はSDGsが入っていたというのはどうかな? 「公園で今から集まってゲームしようよ」。そのゲームをしている間はすごく楽しく過ぎて、最後に「今、SDGsが2個隠れていたんだけど分かった?」という、ちょっとした宿題を、大学生は大学生なりに持ち帰って、何がSDGsだったのかを考えてもらうと面白いんじゃないかと思います。

別に外で遊ばなくても、例えばコンパを開いてもいいし。「今日コンパやろうや」「行く行く」「二次会カラオケね」で、カラオケの最後にマイク持って、「今日二次会までやった中に、SDGs三つあったんだけど分かった? グループラインで答え合わせしない? 何がSDGsだったか」。それで「1時間すべりまくっていたやつがいたけど、あいつは大気汚染を考えて、みんなが少しでも二酸化炭素を排出しないようにわざとすべっていてくれたんや。これが一つ目」って、細かいことだけど、SDGsに紐づけることなんていくらでもできます(笑)。

僕らがSDGsのユニットコントをやると、お客さんは最初すごく背筋伸ばして「SDGsを学んで帰ります」という感じ満々なのだけれど、最終的にみんなくだけて笑って帰ります。「今日覚えてはることあります?」と聞いても、「面白かった」という感じ。でも、その中に僕らが入れているSDGsって17個とか、もっと分けたら160以上も細分化されていて、そんなの1個ずつ話したって、2030年までには間に合いません。そうはいっても、これを全く知らないまま素通りしてしまったら、君ら世代が30歳ぐらいになったときにとんでもないことになってしまって、結局背負うのは自分らだからね。

だから、なにか1個、日本で特化されていてできることを考えてみてください。日本で守れることを。もちろん政府も一生懸命頑張ってやろうとしています。そもそも日本の国土の3分の2は森林だから、実は他の国より森林を伐採しまくることなんてしていません。それでも今、コンビニに行って箸を1膳、スプーン1本もらうか迷ったりする。少しずつでも変わってきているじゃないですか。
でも、それを大学生のリーダーになった子が、「そういうの、やろう」と言っても、「いいことするのがかっこいいとは思わないんだよ」という意見が多かったとする。そうするとSDGsがかけ離れていってしまうので、できれば今の大学生活を楽しんでいる最中にSDGsに詳しい子がSDGsのエッセンスをポーンと投げてあげたほうが、「あ、そうなの? ずっと俺、SDGsやってたの? ありがとう、俺、無意識にやっていたよ。知らなかった」。僕は大学生にはそれくらいがちょうどいいと思う。なので、宿題を持って帰ってもらい、答え合わせをするのが一つの方法だと思います。

SDGsを広めるのだというようなテンションよりも、肩肘を張らずにやっていければいいなと思いました。

林君は自分に枷をつけすぎて、「俺はこんなにSDGsを一生懸命やろうとしているのに、なんでみんなに伝わらないんだ。俺って……」となりがちだから、その時に「お疲れさん」と言ってあげないと、自分が苦しくなるよ。少し肩の力を抜いて、今日の目標はもう、“フードロス”だけ持ってコンパに行って、それだけ放り込んで帰ればいい。「えらい注文したもの全部食べるね。食べてくれてありがとう」というところから始めて、そこにちょっとだけ添える。「日本では、輸入されている量の倍の量が廃棄されているらしいよ」「へえ、そうなんだ」。人間なんて、何個も詰められてもあんまり覚えてないから、フードロスだけ持って帰ってもらえればいいと思います。

とても参考になります。

国連広報センター所長 根本さんの講演で学んだこと

河本さんの感じるSDGsの魅力や、SDGsに興味をもったきっかけを教えていただけますか。

2016年に国連の根本かおるさんという方が、吉本の劇場に講演に来られました。「SDGsのお話をするので、興味がある人は集まってください」と言われ、仲間の芸人数十人でお話を聞きました。正直、発展途上国の人たちの生活を、どういうふうにして先進国の人たちに近い状態に持っていくかというようなお話かなと思っていたのですが、それは決して外国の話ではなかったのです。
根本さんは熱心に日本の話をされて、このSDGsって、日本で今まさに行われていることで、「私たちはしごく当たり前のように生活しているけれども、日本でも発展途上国と同じようなことが行われている地域があるのですよ」と言われました。

僕はちょっとカルチャーショックが大きくて、そこから少しSDGsに興味を持ちだして調べてみると、いろいろなことが分かりました。子どもは親元で大事に育てられて生活することをごくごく当たり前だと思っていたのに、両親から引き離されて施設で暮らさなければならなかった子たちがこんなにもいたのか。また、農業って結構国内で行われていると思っていたのだけれど、ほとんど国産を食べていなかったんだ。「ひょっとして」と今食べているものも調べたら、「輸入品の数半端ないじゃん」。トイレは普通に公衆トイレもあるし、家にもトイレあるしと思っていたら、「え、安全な水やトイレがない所もあるんだ」。

全部当てはめていくと、ちょっと自分でも怖くなってきました。さらに日本以外の世界でも当然そういうことが行われていて、世界中の人が全く知らないままだったら地球が爆発する。『ドラゴンボール』でフリーザが出てきたときに、もう終わるかもと思った感覚とちょっと似ているかも。あんなにやられるんなら、もう終わりだろう、これ、もしかしたら人間が地球壊すんじゃない? 僕ができることって何かないかなと考えたら、言葉いらずして全世界の人ができることだと紐づいたので、「ああ、これならできる」とすっと入れました。

そういえば、確かに意味なく水を出していたわ。歯を磨くときにも水を出しっぱなしだった。一回で6ℓ、2ℓのペットボトル3本分も出しながら歯を磨いていた。シャワーも、頭洗っているときに体が冷えるから、体にずっとシャワー当ててたわ。それって、当たり前のようにやれていることがやれていなかったということになる。これが65億人ということになると、点けっぱなしで電気を点けて寝ることを65億人全員してしまったらどうなるのだろう。そりゃ、地球は暑くなるわ。それが「地球は病気しているんだ。治そう」という意識になる。これならできる。利子を残さなかったら、それはできる。必要以上に使わなかったらいいんだ。世間一般の人もそう思えばいい。こういうところから興味を持ち始めたということがありましたね。

小さなことでも、一人ひとりの行動の積み重ねですよね。

僕の認める「カッコいい人」

僕は今日のお話を聞いていて、河本さんなりの「エエカッコする人」と「カッコいい人」の使い分けがあったら、ぜひお聞きしたいなと思いました。

いい大人がシュッとした行動をしているのを見たら「めちゃくちゃエエカッコしいやん」と思うかもしれないけれども、僕の中では見る人が見たら「カッコいい」と思うような所作はたくさんあると思います。普通にとる行動が全てカッコよく見えるのは、礼儀だったり作法だったりという当たり前のことがごくごく自然にできているからかもしれないね。真面目にコツコツと当たり前のことをずっと普通にできるのがカッコいい。
だからまず、わざわざカッコつけている人を見て「カッコいい」と思うことはないですね。レストランで彼女の前でだけ店員さんに「せっかくの誕生日やのに、お前もっとはよ料理持ってこいや。俺の彼女がイライラしとるやないか」というのを、「え~、彼女守ってかっこいいな」と思うのか、「彼女の前でエエカッコすんなよ」って思うのか。そんなときに僕がカッコいいと思うのは、「すいません、お忙しい時間にこちらの方に来ていただいて。料理遅くなっても構いませんから、その分私お話つなげますから」という人だと思うわけです。
それは当たり前のことなのだろうけれど、日常的にどれだけ自然に当たり前のことができるかというのは、訓練できるのじゃないかな。「今日は彼女が見に来ているから」とバッターボックスに立って、ズバンとデッドボールを食らったときに、普段やらないのに彼女が見ているから息巻いてピッチャーのところに行って、「なんや、おまえ」と詰め寄るよりも、「大丈夫です」と砂をはたいて一塁に行くほうがカッコいいと思うし、それは「紳士であれ」というところにも近いかと思います。そのときにやはり「自分だけなんで我慢せなあかんねん」という悪い魂が出てきがちなので、「今日の河本、お疲れさん。今日、いい感じでカッコよかったよ」という言葉をかけてあげてほしいわけです。

若者には日本の農業に興味を持ってほしい

最後にこの記事を読んでいる大学生世代の若者へ、メッセージを頂きたいと思います。

僕のやっている活動を一度体験しに来てほしい。君たち若者に少しでも日本の農業、国産ということに興味を持ってほしい。新しい技術を導入し、日本の農業の人手不足解消を追及して、国産を絶やさないでほしい。今、世界では戦争も起きているし、何が高騰して輸入がストップするか分からない。それはそんなに遠い未来じゃなくて近未来にも起きうることだから、もしよかったら僕が携わっている岡山県津山市や大分県国東市でやっている田んぼの様子を見に来てくれたらいい。体験してくれてもいいいし、稲刈りしたことのない人は稲を刈ったらいい。少しでも興味を持ってもらえたらうれしいです。

自分に優しくするマインドや、社会を考えるきっかけになるようなことを、私たちで広げていきたいと思います。本日はお忙しいところを、ありがとうございました。

2022年6月14日 リモートインタビュー

PROFILE

河本 準一 氏(こうもと じゅんいち)


次長課長 河本準一 / ⓒ吉本興業

1975年生まれ。岡山県津山市、岡山市北区で育つ。吉本興業所属。1994年、吉本総合芸能学院(NSC)大阪校第13期。井上聡とのお笑いコンビ『次長課長』のツッコミ、後にボケを担当。大阪の劇場で下積みを積んだ後、2002年東京進出。ジャッキー・チェンの映画『酔拳』の脇役の顔真似、マニアックものまねなどで一躍人気芸人となる。2度にわたり大病を患った。2012年から岡山県の介護施設や児童養護施設を継続して訪問し、ボランティア活動を行う。2017年からSDGs推進活動、2019年には米作り農業に参加し、自身がプロデュースした国産米『準米』を発売するなど、お笑い以外の取り組みにも挑戦している。学生時代に打ち込んでいたサッカーへの関心は強く、サッカー関連の仕事も多い。独学で韓国語を学び、特技は手話。テレビ・映画・ラジオ・舞台などで幅広く活動する。YouTuber。一男一女の父。

「2030年を笑顔であふれる世界に」

吉本興業

笑顔はコミュニティを豊かにする。そして人々が明日に向かって頑張ろうという気持ちを生み出す原動力を作り出してくれる。今生きている人間を笑わせられなくて、次の時代の人間を笑わせられるはずがありません。2030年に向けて吉本興業では、笑顔があふれる社会を目指し、持続可能な世界の実現のために、エンターテインメントが少しでもそれを伝えるお手伝いができないかと考えています。

今年4、5月の連休には大阪の万博記念公園で、笑いと音楽でSDGsを伝えるPRイベント『Warai Mirai Fes 2022』を開催しました。事前にSNSで呼び掛けたのはマイ食器の携帯。会場内のフードコートでは使い捨て容器を採用せず、各自の持参した食器に飲食物を提供しました。呼びかけに応じて食器を持参した人、そして食器を忘れた人にはオリジナル食器を販売し、それぞれ持ち帰ってもらったことで、イベント終了時にはごみが激減しました。運営に対するクレームはありませんでした。このイベントは、参加者がリユースを考えるきっかけになり、そしてSDGsのゴールの一つにある「つくる責任、つかう責任」の気付きにつながり、これからの世界を考える上で一石を投じられたのではないかと思われました。

詳細は下のサイトから↓
吉本興業 SDGsの取り組み https://www.yoshimoto.co.jp/sdgs/
全国大学生協連×SDGs https://www.univcoop.or.jp/sdgs/index.html